著者:山下紘加 2015年11月に河出書房新社から出版
ドールの主要登場人物
吉沢(よしざわ)
男子中学生。語り手である〈僕〉。
ユリカ(ゆりか)
〈僕〉がラブドールにつけた名前。
後藤由利香(ごとうゆりか)
〈僕〉の同級生。飼育係担当。
今泉将太(いまいずみしょうた)
〈僕〉の同級生。いじめっ子。
長谷川(はせがわ)
〈僕〉の同級生。地味で生真面目な男子。
ドール の簡単なあらすじ
中学二年の終わり、〈僕〉は安物のラブドールを通販で購入し、ユリカと名付けました。
〈僕〉は三か月かけて、手続きをふんでユリカと親しくなり、最後にはセックスしようと考えています。
学校では、〈僕〉はいじめを受けています。
そんな〈僕〉が、地味で孤独な男子生徒の長谷川と友人になったことから、未来が壊れていくことになるのです……。
ドール の起承転結
【起】ドール のあらすじ①
〈僕〉は小さなころから人形で遊ぶのが好きでした。
〈僕〉は人形を性の道具として使っていました。
小学六年生でいったんは人形を捨てましたが、中学二年の終わりごろ、公園で傷だらけの人形を拾ったことがきっかけで、再び人形がほしくなりました。
〈僕〉はネット通販であまり高価でないラブドールを買いました。
かわいいその人形にユリカという名前をつけました。
〈僕〉は三か月の時間をかけ、きちんと交際のステップを踏んで、ユリカとセックスするつもりです。
さて一方、学校でのこと。
理科の授業中、同じクラスの今泉将太に、ピンセットで鼻をつままれ、バカにされました。
それを機に、今泉は〈僕〉を執拗にいじめるようになりました。
いじめはだんだんとエスカレートしていきます。
体育の授業のとき、今泉と彼の仲間に身体をおさえつけられ、ズボンをおろされ、性器をむきだしにされました。
ただし、〈僕〉の怒りの矛先は、向こうで〈僕〉の性器を見ていたらしい女子に向かうのでした。
ある日の休み時間、今泉はいつものように人を集めて、自分の鼻の自慢をしていました。
〈僕〉はリュックをつかんで席を立つと、今泉の近くまで行って、笑いました。
今泉が、「馬鹿にするな」と殴ってきます。
しまいに彼は、〈僕〉のリュックをつかんで、中身を床にぶちまけ、そばの椅子を蹴って、わめきながら教室を出ていったのでした。
【承】ドール のあらすじ②
それからしばらくして、〈僕〉は三年生に進級しました。
また今泉と同じクラスです。
今泉は、ほかの悪ガキ三人とつるむようになり、どんどん素行が悪くなっていきます。
〈僕〉は今泉たちにいじめを受けました。
コンドームを女子の机に入れろと命令されると、その女子の困った顔が見たくて、精液を詰めたものを机に入れました。
今泉たちに新品のスニーカーをウサギ小屋に放りこまれると、それを機に、飼育係の女子、後藤由利香に興味を持ちました。
そんなある日、結婚して家を出ていた姉が、突然帰ってきました。
夫の浮気が原因です。
〈僕〉と母は、姉が家を出たあとで、二部屋だけのマンションに引っ越していたため、もう姉の部屋はありません。
姉は〈僕〉を部屋から追い出しました。
〈僕〉はリビングに小さなテントを張って、ユリカを退避させたのでした。
一方、新しいクラスに、長谷川という、よく本を読んでいる地味な男子がいました。
〈僕〉はあるきっかけで、彼と話すようになりました。
長谷川は、自分のことを話すばかりで、〈僕〉のことには興味がないようです。
そして〈僕〉は、長谷川と仲よくしているところを他人から見られるのが嫌なのでした。
【転】ドール のあらすじ③
姉に部屋を追い出されてから半月ほどたったころ、〈僕〉はユリカをボストンバッグに詰めて、外へ連れ出しました。
公園でバッグをあけ、本物のカップルみたいに彼女の肩を抱き、キスしました。
また、ある日、〈僕〉は長谷川から借りていた本を、間違って家に持って帰ってきてしまいました。
本には長谷川のブックカバーがかけてあります。
ぼくは思いついて、その本のブックカバーを外し、自分の持っているエロ漫画にかけました。
それを学校に持っていくと、今泉達に取り上げられました。
彼らはそれを開いて、黒板に立てかけます。
授業が始まって、入ってきた体育教師に見つかり、エロ漫画は没収されました。
それを機に、今泉達のいじめは、主に長谷川へ向くようになりました。
ときには、〈僕〉も今泉たちに加わって、長谷川に意地悪したりしました。
〈僕〉が意地悪すると、長谷川は泣くのでした。
さて、ユリカとのテント生活が始まって二月ほどして、姉は家を出ていきました。
〈僕〉はユリカと親しみを増し、キスする回数も増えていきます。
ある日、ぼくはユリカの片腕を外して、ブレザーの腕のところに隠し、登校しました。
でも、長谷川に見つかってしまいます。
長谷川はユリカを見せろと言い、家までやってきました。
家では、〈僕〉にユリカを愛撫させ、その写真まで撮ったのです。
みんなにバラすと脅された〈僕〉は、二時間だけという約束で、長谷川にユリカを貸し出したのでした。
【結】ドール のあらすじ④
長谷川はバッグに入れてユリカを返しにきました。
ただ借りるだけ、という約束だったのに、彼はユリカと性交していました。
その上、これは安物の不良品だ、とののしり、〈僕〉のことを、「ヤバイ、気持ち悪い」とさんざんに言うのです。
彼が帰ったあと、ぼくはバッグを開けることができませんでした。
夜になって、ようやくバッグを開けた〈僕〉は、ユリカの身体をバラバラにしました。
ユリカはもう〈僕〉のユリカではありませんでした。
その日から〈僕〉は、飼育係の後藤由利香を目で追うようになりました。
ユリカになくなってしまった未来が、由利香にはまだあるような気がしたのです。
〈僕〉は精液を詰めたコンドームを由利香の机に入れ、彼女の体操着を盗みました。
また、休日に由利香に会いたくなってウサギ小屋に行き、ウサギの尻尾を彫刻刀で傷つけ、毛を取りました。
その毛を紙に包んで、由利香の机に入れたりしました。
由利香が気味悪がって不登校ぎみになったため、女性教師が〈僕〉に事情を訊きに来ます。
〈僕〉は、犯人は長谷川だと言ってやりました。
その後、街で、由香里が男と歩いているのを見つけました。
ふたりは手をつなぎます。
由佳里を守ろうと思った〈僕〉は、彫刻刀で男を刺し殺しました。
でも、守ったはずの由佳里の手を取ろうとすると、彼女に振り払われてしまったのでした。
帰宅すると、セックスのために貸し出していたユリカが返却されました。
バッグのなかに、くちゃくちゃに押しこまれています。
〈僕〉は、ユリカに話しかけます。
ユカリの手が、すがるように〈僕〉の腕を引き寄せました。
ドール を読んだ読書感想
第52回文藝賞受賞作だそうです。
作品は、主人公である男子中学生が抱え持つ心の闇を、これでもか、これでもかとえぐって、表にさらけ出していきます。
ときとして、さらけ出されたその闇は、生理的な不快感をともなったりもします。
でも、それでいて、この主人公を忌避しきることができないわが身を自覚するのです。
それはつまり、この主人公の闇が、読んでいる私自身が抱え持つ心の闇と、どこかでつながっている、と感じさせるからでしょう。
おかしな表現かもしれませんが「負の共感」とでも呼ぶべきものを感じるのです。
もっとひらたく言えば、主人公はみっともないけど、私だって劣らずみっともない、と感じるわけです。
エンタメ小説にはないタイプの小説だなあ、と思いました。
コメント