「翼の翼」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|朝比奈 あすか

「翼の翼」

著者:朝比奈 あすか 2021年9月に光文社から出版

翼の翼の主要登場人物

有泉翼有泉円佳
本作の主人公。専業主婦。明るい性格で人付き合いも上手だったが、息子の翼の受験の始まりで次第に受験にのめりこんでいく。

有泉翼
小学校二年生で全国テストを受けたころから、様々な葛藤とプレッシャーが渦巻く受験勉強の世界へと踏み出す。

有泉真治
思うように成績が伸びていかない息子に業を煮やし、勉強を見始めるが次第にエスカレートしていく。

翼の翼 の簡単なあらすじ

息子である翼が小学校二年生の時受けたテストで良い成績を取ったことから、母親である円佳は受験の世界へとのめり込んでいきます。

円佳のママ友への嫉妬や焦りなどが積もる中、翼自身も焦りから思うように勉強に集中できなくなります。

その状況を見た父親である真治が翼の勉強を見始め、次第に翼の感情が壊れていきますが、円佳が真治に訴えることで正気に戻り、最終的に翼は第二志望の学校に合格し家族の形を取り戻します。

翼の翼 の起承転結

【起】翼の翼 のあらすじ①

親のコンプレックスと中学受験の世界への入口

地方都市の高校からの東京の女子大出身だった母親の円佳は都心部での中学受験の世界に無意識に憧れがありました。

また父親の真治は中学受験経験者ではありながら第一志望には合格できなかったという過去がある。

そんな二人の息子、翼が小学校二年生の時、軽い気持ちで進学塾の全国テストを受けさせてみようと考えた円佳。

まだ8歳の幼い息子が長い時間のテストを無事最後まで受けられるだろうかという不安を持ちながらも、会場に入っていく翼の後ろ姿を見守る円佳。

結果いい成績をとったことから、円佳は自分の気持ちが満たされるのを感じながら、翼が自分で入りたいといったという体を保ちながら入塾を決めます。

「いい成績を取ってお母さんの喜ぶ顔がみたい」と頑張る翼と、そんな健気な息子の姿や頑張る姿勢を誇らしく思う円佳。

「もし途中で気が変わったら、いつでも中学受験はやめられる」そんな軽い気持ちで始めましたが、一度乗ったら簡単には降りられないレールに乗ってしまったということにまだ親子は気づいていませんでした。

【承】翼の翼 のあらすじ②

親子のプレッシャーと焦り

翼の成績が順調だった最初の頃は円佳の気持ちも穏やかで誇り高いきもちでしたが、翼が受験勉強を始めるタイミングで辞めた水泳を他の子が続けいい結果を残したという話や、受験を途中撤退して子供らしく充実した日々を送っているという話を聞いた時にチクりと胸が痛みます。

またママ友とランチをした際に、他の子の勉強が順調に進んでいることや成績が優秀であることを耳にしたときにザワザワした気持ちや苛立ちを感じるようになっていきます。

そんな中、翼の成績が伸び悩み、円佳は次第に焦りが募っていきました。

入塾テストの時には翼よりも下の成績だった友達が、クラス替えテストで翼よりも上のクラスになったことから円佳は翼に対してさらに厳しく接するようになります。

翼が勉強をしないときには翼に向かって教科書を投げつけたり、「やらないならやめてしまいなさい!」「あなたなんか下のクラスに落としてもらえばいい」と強い口調で翼をさらに追いこむような言動が増えていきます。

翼自身も成績が伸びないプレッシャーや焦りから、次第に勉強に集中できないようになっていき、悪循環となっていくのです。

状況を見かねた父親の真治が自ら翼の勉強を見始めることになりました。

【転】翼の翼 のあらすじ③

壊れていく家族

翼の勉強を真治が見始めたことで翼はさらに追い込まれていきました。

夜父親が帰宅するまでに終わらせておくようにと指示をされた勉強が終わっておらずに夜遅くに怒鳴られたり、就寝の時間から開始され夜睡眠時間を削ってでも勉強を続けるような日々が増えていきます。

週末も早朝の起床直後から休憩なく横に真治が貼りついた状態での勉強が始まり、怒鳴られてプレッシャーをかけ続けられ、少しでも翼の手が止まると「計算もできないのか!」と罵倒され、ついには暴力も加わっていきます。

母親の円佳は真治の狂気の姿を見ていても「合格にはこのくらいしなければいけないのだから仕方がない」と自分自身を納得させて口を出さないようにします。

しかし同じ空間にいる二人の状況を直視していられず、買い物に出たりと距離をとりますが、帰宅をしても昼食も取らずに同じ状況が続いています。

このような毎日を過ごすうちに次第に翼の心は壊れていき、ある日ついに翼は家出をしてしまいます。

【結】翼の翼 のあらすじ④

家族の気づきとゴールとスタート

翼が家出をした際、オロオロと何もできない円佳に対し、真治は警察に電話をし、息子のことを本気で思い行動します。

翼を無事保護した後、自分たちが翼をコントールし続けたことでそこまで息子が追い詰められていたのだと真治と円佳は冷静さを取り戻します。

そして3年前に初めて全国テストを受けた時の気持ちを思い出し、いつから大切なものを見失ってしまったのだろうと反省します。

円香は、今後はこちらからは翼に話しかけず、彼から求められた時だけ答える。

彼自身の翼で、羽ばたけるよう息子を信じよう、と真治に提案し真治も納得します。

ただそれでも6年生になった今もう引き返すことはできず、この状態で受けられるところを受けようと受験を継続させます。

結果、翼の希望で受けた第一志望は不合格だったものの、第二志望の、父親が卒業した中学校に合格することができました。

合格を知ったときに円佳が「わたしたちは、わたしたちからあの子の翼を守れたのだろうか」と自問をしてこの本は終わります。

翼の翼 を読んだ読書感想

中学受験生の息子を持つ親にはぜひこの本をお勧めしたいです。

最初は「いつでも引き返すことができる」と思い、軽い気持ちで踏み入れてしまう中学受験の世界。

一番大切に思っていたのは子供の未来を広げてあげたい、充実した6年間を過ごさせたい、そんな思いだったはずなのにいつの間にか親自身の自己顕示欲を満たす道具になってしまっていてそれまで費やした時間とお金と労力とプライドにより、もう引き返すこともできず親子で追い込まれてしまう、そんなことがどの家庭にも起こりうることだと思います。

この本は、自分の姿を冷静に見つめ返す反面教師とし、まだ12歳という子供の心をもう一度大切にしようと思える作品だと思います。

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