「すしそばてんぷら」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|藤野千夜

すしそばてんぷら 藤野千夜

著者:藤野千夜 2016年2月に角川春樹事務所から出版

すしそばてんぷらの主要登場人物

寿々(すず)
ヒロイン。早朝の情報番組で人気のお天気キャスター。目立つ仕事をしているが根は引っ込み思案。

祖母(そぼ)
おばあちゃん子の寿々をかわいがる。グルメと新しいものには目がない。

坂井寛太(さかいかんた)
寿々の幼なじみ。売上が振るわない家業を何とかしたい。

いつき(いつき)
寿々の所属先の社長。バブル期に独立してパートナーと芸能事務所を立ち上げる。

夕樹(ゆうき)
寿々とは小学生時代に3年間同じクラス。ルックスはいいが恋人は作らない。

すしそばてんぷら の簡単なあらすじ

お天気お姉さんとして雲行きが怪しくなり、プライベートでも婚約が破断となっってしまった25歳の寿々。

一緒に暮らしている祖母のアドバイスを受けて江戸の老舗の料理店を巡って歴史を学んでいるうちに、仕事の幅が広がっていきやりがいも湧いてきます。

過去の失恋を振り切った寿々は、会社の仲間たちや地元の友だちとの生き方を模索していくのでした。

すしそばてんぷら の起承転結

【起】すしそばてんぷら のあらすじ①

残念会はどぜうで

学校を出てからいくつかのアルバイトを重ねた寿々は、オーディションを勝ち抜いてテレビのお天気コーナーの案内役に採用されました。

1年半がすぎた頃に力試しに気象予報士の試験を受けますが、あっさりと落ちてしまい少し自分にがっかりしています。

友人の紹介で知り合った2つ年上のサラリーマンとは結婚式を挙げる準備までしましたが、相手側の都合で一方的に取りやめになったのは今年の2月のことです。

ますます落ち込んでいく寿々のことを心配しているのは寿々の祖母で、70代の後半に差し掛かっていますが一向に老け込んだ様子はありません。

テレビ局へは父親が都下に購入した一軒家から通うよりも、隅田川のほとりにある祖母の家から通うほうが近いでしょう。

母親からも見守り役を頼まれた寿々は実家から祖母の家に住民票を移すと、浅草で200年続くどじょう屋さんでごちそうしてくれます。

丸のまま、頭と骨を除いたさき鍋、ねっとりと濃いミソどじょう汁、シメは卵でとじた柳川。

食事の様子をブログにアップしてみると、思いの外に反響がありました。

【承】すしそばてんぷら のあらすじ②

懐かしのタコおやつで商売繁盛

次の日の収録が終わってに都心の雑居ビルの2階にある事務所に顔を出すと、いつき社長が「江戸まち」めぐり日記として本格的にブログ開設をすることを提案してきました。

身近な話題やネタを探していたところ、祖母がタブレット端末でレシピを検索してノシたこを手作りしてくれます。

見た目はたこ焼きを平らにしたような見た目、生地は市販の薄力粉、具材は小口切りにした大量のねぎと刻んだタコ、トッピングは甘めのソースに青のり・かつお節。

小学生の頃に学校から帰ると用意してあったこのおやつを、寿々と一緒に楽しみにしていたのが隣の「さかいや」の次男・坂井寛太です。

近頃ではこの地域にもディスカウントストアが進出してきたために、個人経営の酒店を続けていくのは楽ではありません。

さかいやで新発売するというラムネを日記で紹介してみると、少しだけ客足が伸びたと感謝されました。

いつきからは気象予報士の勉強と平行して、江戸文化歴史能力検定を取得してみるように勧められます。

【転】すしそばてんぷら のあらすじ③

祝杯そばとモヤモヤが立ち込めるメール

「江戸まち」めぐり日記は筆無精の寿々でも無理もなく続けられていて、それほどプレッシャーにはなっていません。

写真やメモをいったん家に持ち帰って、数日に1回程度のペースで更新するスタイルが性にあっているようです。

4月から新放送となる江戸の食文化を紹介する番組への出演も決まったために、寛太が神田にある明治創業の「やぶそば」でそばとビールをごちそうしてくれました。

同じ事務所のタレントやアイドル、両親や親戚にいとこ、近所のおじさん・おばさん、大学のサークル仲間、高校の部活のクラスメイト… 新番組がオンエアされた途端に寿々のスマートフォンは鳴りっぱなしですが、1通のメールのことは心に引っ掛かっています。

差出人は番組を見たというかつての婚約者からで、「1度ゆっくりと話をしたい」いう文面は復縁を迫っているようなものでしょう。

有名になった途端に手のひらを返したような対応にあきれてしまいましたが、返事を出すのか無視するのかはハッキリと決めていません。

【結】すしそばてんぷら のあらすじ④

食も職も人それぞれ

寛太の呼びかけで小学校の同窓会が開かれることになり、寿々は隅田川のほとりのテラスに向かいました。

すし・そば・天ぷらと幕末にはこの辺りに外食の屋台が立ち並んでいて、多くの独身男性が住み着いていたことを教えてくれたのは祖母です。

「独身」と言えばこの場に集まったメンバーも20代の半ばで結婚・出産とターニングポイントを迎えていますが、その中でも特に異彩を放っているのが夕樹。

高校卒業後に専門学校に進んでカメラマンになった彼女は、「人間の男には興味がない」と大好きな犬の写真ばかりを撮っています。

時おり周囲からは「残念な子」などと陰口をたたかれることもありますが、自分の好きなことを職業に生かすのが何よりもの幸せなのでしょう。

駒形橋、吾妻橋、言問橋、桜橋… 思い思いのかたちと色をした橋が架かっている隅田川のように、人生の選択肢は多く他人と同じものに決める必要はありません。

たっぷりの水が流れる川を眺めていた寿々は、何かを吹っ切るように元婚約者のメールを迷惑フォルダーに振り分けるのでした。

すしそばてんぷら を読んだ読書感想

iPadを使いこなしてクックパッドをお気に入りに登録しているという、ハイカラおばあちゃんとの同居生活は楽しそうでした。

マイタケとごぼうの炊き込みご飯などの純和風はもちろん、メープルとくるみのパンケーキなどはやりのスイーツまでレパートリーが広いようで。

下町の名所・観光地にもやたらと詳しく、ぶらり散歩で孫娘の窮地を救ってしまうところも頼りがいがありますね。

実家の酒屋を切り盛りする好青年・坂井寛太や、愛犬アーティストの夕樹などヒロイン・寿々の周りをユニークな登場人物が色どります。

恋愛でもお仕事でもちょっぴり臆病だった寿々が、小さな一歩を踏み出していくラストも爽やかな読後感です。

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