著者:高橋陽子 2013年2月に集英社から出版
黄金の庭の主要登場人物
青奈(あおな)
ヒロイン。美大を出ていて在宅でDTPをしている。お金に困らない程度に絵を描くのが目標。
那津男(なつお)
青奈の夫。組織に入るのが苦手で小学生の個人指導をしている。趣味はテディベアを集めること。
千寿寛治(せんじゅ かんじ)
ライフコーディネーターを自称。困っている人を放っておけない。
マサエ(まさえ)
千寿の元恋人。若手のミュージシャンや劇団員たちを応援する。
黄金の庭 の簡単なあらすじ
神や仏がごく普通に人間と一緒に暮らしている黄金町へ引っ越した青奈に、仕事を紹介してくれたのが千寿寛治です。
千寿の職場から帰宅する途中で人語を解する不思議な指輪を手に入れた青奈には、新しい仕事が転がり込んできて運気も上がっていきます。
千寿と妻との関係を疑っていた那津男も、指輪のひと言で夫婦の絆を信じるのでした。
黄金の庭 の起承転結
【起】黄金の庭 のあらすじ①
青奈が夫の那津男と黄金町に引っ越してきたのは、年末の雑事に追われていて時期でした。
築50年の古い一軒家は那津男の親友の持ち物で、3年の海外赴任のために格安で貸してくれます。
家庭教師をしている那津男の通勤にも便利で、商店街はそこそこ栄えていて買い物には不自由はないでしょう。
年明けには那津男が手作りしたお雑煮を食べてから、初詣に行くのが毎年の恒例です。
この町にある神社仏閣と言えば黄金寺しかなく、本尊には大きな赤い顔をした閻魔像が鎮座していました。
書き初め用の筆で通行人にイタズラ書きをしていた男の子を懲らしめるために、突如として銅像が動き出しましたが参拝客は誰も驚いていません。
結婚して3年目なのでそろそろ子どもを授かりますように、パソコンを使って原稿作成やレイアウトを請け負う卓上出版の仕事がうまくいきますように。
戸惑いながらもふたつのお願いごとをした青奈は、さっそく帰りがけに「ライフコーディネーター 千寿寛治」と書かれた名刺をもらいます。
【承】黄金の庭 のあらすじ②
名刺に書かれていた住所を手がかりにして青奈がたどり着いたのは、小学校の隣にあるプレハブ小屋で「千寿インフォメーションセンター」と表札が出ていました。
ここの運営をしつつ路上販売からお悩み相談までさまざまなことを手掛けている千寿から、事務所の店番を頼まれます。
アルバイト代はきっちりと支払われるうえに、放課後に遊びにやってくる小学生の面倒を見る他はたいしてやることもありません。
カウンターには旧式のパソコンが1台設置されていて、黄金町のありとあらゆる情報がインプットされているそうです。
青奈が試しに「那津男」と入力してみると、たちまち検索結果が表示されました。
妻の名前から勤め先、好みの映画に洋服のブランド、行き付けにしているカフェからレストラン… 個人情報がことごとく流れ出ているのは恐ろしいですが、それ以上にショックだったのは結婚生活の満足度が65パーセントという数値だったからです。
帰りに「大黒質屋」という看板を見かけた青奈は、ガラスケースの中のオパールが装飾された指輪に目を奪われます。
インドから渡来したおしゃべりオパールだという指輪の値段は、青奈の預金通帳の残高とぴったりの20万円です。
【転】黄金の庭 のあらすじ③
自宅に帰って宣伝用のチラシを作る作業をしていると、買ってきた指輪が机の上から話しかけてきました。
文字のフォントを変えてメリハリがつくように大きくしてみたら、アンダーラインも入れて斬新なデザインにしてみたら。
300年以上もこの世界を見てきたという指輪のアドバイスは的確で、その度にオパールの部分が虹のようにキラキラと光ります。
相手を選ぶという指輪は、仕事が遅くなって帰ってきた那津男の前ではうんともすんとも返事がありません。
住宅街から外れたところにライブハウス「ゴールデンキッズ」があり、指輪によるとここの店長・マサエはバンドを組んでいた頃の千寿と付き合っていたそうです。
青奈の作ったチラシを見たマサエからは、知り合いの劇団のパンフレットの製作を依頼されました。
一時は結婚まで考えていたふたりですが、マサエが飼っていた犬を千寿が南黄金公園の池に投げ入れてしまったことだけは今でも許していません。
青奈がその公園まで散歩に行ってみると、池の一面には蓮が浮かんでいてピンクの花からは小さなお釈迦様が湧き出ています。
【結】黄金の庭 のあらすじ④
ゴールデンキッズのステージに久しぶりに千寿が立つというので青奈から誘われましたが、那津男はあまり気が進みません。
アコースティックギターを持って登場した千寿は、スポットライトと歓声を浴びながら低い声と切ないメロディを披露しました。
芸達者で人助けをライフワークにしていて黄金町の人気者の千寿、歌もうたえずギターも弾けずに男としての魅力のない那津男。
ライブからの帰り道で那津男の胸のうちには青奈と千寿との不適切な関係がよぎり、不安が拭えません。
小さな指輪から大きな声で「妻のことを信じろ」と励まされた那津男は、寒い夜に明かりを灯すように青奈の手を握りしめます。
ダイレクトメールや名刺をプリントする店がない黄金町では、青奈の仕事は確実に増えていくでしょう。
青奈が庭にイチゴの苗でも植えようと思い付いたのは、天中殺のようだった去年から吉に転じていることを感じたためです。
スコップで土を掘り返してみるとブリキの箱が出てきて、中から「きっと幸せになります」と書かれた手紙を見つけるのでした。
黄金の庭 を読んだ読書感想
人々の日常生活の中に違和感もなく、宗派をこえた神々や鬼たちが共存している不思議な町が舞台になっています。
主人公と指輪が会話をするというファンタジックな展開も、読み進めているうちにすんなりと受け入れることができるでしょう。
魔法のようなコンピューターもあって何でも調べられると思いきや、知りたくもない事実を知ってしまうシーンがほろ苦いですね。
いい年をしてクマのぬいぐるみをコレクションしていて頼りない那津男も、終盤に男気をみせてくれました。
夫婦としての関係にも自分自身のキャリアとも真剣に向き合ってこなかったふたりが、小さな1歩を踏み出していくラストが清々しいです。
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