【ネタバレ有り】地には平和を のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:小松左京 1991年4月に阿部出版から出版
地には平和をの主要登場人物
河野康夫(かわのやすお)
20世紀の少年兵。太平洋戦争末期に斥候に駆り出される。
アドルフ・フォン・キタ(あどるふ・ふぉん・きた)
30世紀の天才的な歴史学者。
河野康彦(かわのやすひこ)
康夫の息子。
地には平和を の簡単なあらすじ
1945年の8月15日、日本は連合軍からの無条件降伏を受け入れることなく徹底抗戦を続けていきます。本土決戦が差し迫っていく中で少年兵の河野康夫は、正体不明の追跡者の目を掻い潜り大本営のある信州へと向かっていくのでした。
地には平和を の起承転結
【起】地には平和を のあらすじ①
学徒出陣した15歳の河野康夫は、上官からの命令で斥候任務を遂行していました。
敵軍の情報を収集してようやく本隊に帰還した時には、康夫が所属していた部隊はアメリカ軍の機銃掃射を受けて全滅状態です。
生き残りの兵士たちが集結しているという噂のある長野県への山道を、敵兵の監視を潜り抜けながら進んでいきます。
極限の空腹で行き倒れになりそうな康夫を助けてくれたのは、山村で暮らしている年老いた百姓です。
白い米、野菜の煮付け、魚の干物、絞めたての鶏。
久しぶりの人間らしい食事を貪る康夫でしたが、軍人に反感を抱いていた地元の人たちに密告されてします。
康夫は本土防衛特別隊の証でもある、黒い桜のマークを握り締めながら村を逃げ出しました。
【承】地には平和を のあらすじ②
1945年8月15日の正午にラジオの前に直立不動していた国民たちは、天皇陛下からの玉音放送が延期になったことをました。
この日戦死した総理大臣に代わって陸軍大臣による新内閣が結成されて、国民への絶対的な服従と徹底抗戦を呼び掛けていきます。
東京市、横浜市、名古屋市、大阪市、神戸市。
翌16日からはより一層空襲が烈しくなり、京都を除く六大都市は見る影もありません。
満洲地方からのソ連軍の南下と薩摩半島と四国南岸の海域に出現したアメリカ海軍艦隊によって、日本の僅かに生き残っていた陸海空軍は八方塞がりです。
信州での最期の反撃が開始されるまで、神風特攻隊や人間魚雷によって若い兵隊たちの命が次から次へと奪われていきました。
【転】地には平和を のあらすじ③
逃亡中の康夫は遂に「Tマン」と呼ばれる、異国の服装に身を包んだ男たちに捕まりました。
アメリカ人の捕虜になったと勘違いした康夫は自害することを申し出ますが、彼らから聞かされた話は到底信じることができません。
日本が1945年8月15日の無条件降伏を受け入れるのが正しい歴史であること、康夫が今いるこの世界は30世紀の狂信的な学者アドルフ・フォン・キタ博士によって生み出された架空の歴史であること、Tマンは時間を自由に行き来しながら歴史の改ざんを防ぐためのパトロール隊員であること。
2つに分かれてしまった歴史の流れが1つへと収斂されていく中で、康夫は命の次に大切にしていた黒い桜のマークを何処かへ落としてしまったことに気が付きました。
【結】地には平和を のあらすじ④
戦後除隊となった康夫は大学へと進学して、学生運動に熱中します。
卒業後には就職・結婚を経て、現在では2歳半の長男の父親です。
商社に務めているために家族との時間がなかなか作れなかった康夫でしたが、久しぶりの長期休暇を取得することにしました。
妻子の3人で向かった先は、初めて訪れたはずなのに何処か懐かしさが湧いてくる長野県のリゾート地・志賀高原です。
学生時代からの愛読書であるプルーストの「失われた時を求めて」を読んでいると、草原の中を走り回る息子の康彦が何かを拾ってきて渡します。
黒い桜のエンブレムが刻まれたバッチに不吉な予感を覚えた康夫でしたが草むらの向こうへ投げ捨て、康彦を抱き上げると滞在中のホテルへと帰るのでした。
地には平和を を読んだ読書感想
若干15歳の中学生ながらも斥候部隊に徴兵されてしまった、主人公の河野康夫が直面する苛酷な運命には胸が痛みました。
20世紀に生きる康夫と共に、30世紀から歴史の改竄を目論む天才的な学者の目線からもストーリーは進行していきます。
特A級の知能指数を誇りながらも罪を重ねていく、アドルフ・フォン・キタ博士の風貌も威圧感たっぷりです。
一見すると無関係にも思えるふたりのキャラクターが、思わぬ展開から交錯していくのがスリリングでした。
半世紀以上前の作品ですが読み返してみると、今の時代との不気味な繋がりもあります。
著者が聖書のルカによる福音書から取ったタイトル「地には平和を」の意味について考える、絶好の機会になりそうです。
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