著者:パトリック・モディアノ 2015年9月に作品社から出版
迷子たちの街の主要登場人物
ジャン・デケール(じゃん・でけーる)
主人公。フランス出身でイギリス在住の作家。自作のメディアミックス・商品化にも積極的。
カルメン・ブラン(かるめん・ぶらん)
パリの裕福なマダム。夫もホテルや牧場を経営していて顔が広い。
ダニエル・ド・ロコワ(だにえる・ど・ろこわ)
ジャンの友人。パリ法廷で重要事件の弁護を担当する。趣味は推理小説を読むこと。
リュドヴィック・フーケ(りゅどびっく・ふーけ)
独占欲が強くしつこい性格。
ヨーコー・タツケ(よーこー・たつけ)
語学が堪能なエージェント。日本とフランスを行き来していて多忙。
迷子たちの街 の簡単なあらすじ
ジャン・デケールが正当防衛で銃撃事件を起こした女性を助けたのは、パリの社交界でデビューをした20歳の時です。
ジャンはイギリスに渡ってベストセラー作家として活躍しますが、サロンの仲間たちは落ちぶれていきます。
20年ぶりパリに足を踏み入れたジャンは彼女と再会を果たして、秘密を守り抜くことを決意するのでした。
迷子たちの街 の起承転結
【起】迷子たちの街 のあらすじ①
1945年にフランスのブローニュ地方で生まれたジャン・デケールは、寄宿学校を7年で卒業して6カ月の兵役を終えました。
パリの社交界の花形カルメン・ブランと知り合ったのは20歳の時で、猛吹雪のスキー場で立ち往生をしていた彼女の荷物をパリまで運んであげたことがきっかけです。
カルメンのお屋敷には広々とした庭園とサロンがあり、週末ごとにパーティーが開かれていて客足が途絶えません。
ジャンが特に仲良くなったのは弁護士のはダニエル・ド・ロコワで、たくさんの探偵小説を貸してくれます。
サロンに出入りしていたメンバーの中でもリュドヴィック・フーケは評判が悪く、たびたびトラブルを起こしていました。
ポンティユー通りの香水店で働いている若い女性もしつこく付きまとわれていて、自宅まで押し掛けてくることも少なくありません。
ある日の夜にリュドヴィックから暴力を振るわれた彼女は、身を守るために護身用のリボルバーを発射しました。
ジャンは彼女を現場から逃がして、法律に詳しいロコワと警察関係者にコネがあるカルメンがうまく後を処理します。
【承】迷子たちの街 のあらすじ②
母親の母国であるイギリスへと渡ったジャン・デケールは、名探偵ジャルヴィスを主人公にしたシリーズものが大ヒットします。
執筆活動が忙しくプライベートでも結婚して3人の子どもを授かったために、なかなかフランスまで足を運ぶ時間がありません。
リュドヴィックの件で職務規定に違反して弁護士登録を抹消されてしまったロコワとも、手紙でやり取りを続けていました。
ロンドンの新聞スタンドでロコワの自殺を報じる三面記事を目撃したのは、ジャンが35歳になった頃です。
夫が亡くなってから経済的に苦しくなっていたカルメンも、屋敷を引き払ってコート・ダジュールに隠居してしまいます。
「ジャルヴィス」の権利をフランスの出版社で購入したいという話が舞い込んできた時には、ジャンがパリを離れてから20年の歳月が流れていました。
待ち合わせ場所はパリの高級ホテル「コンコルド」のレセプションルームで、笑顔で迎えてくれたのは代理人のヨーコー・タツケです。
【転】迷子たちの街 のあらすじ③
フォト・ノベルの展開と連続テレビドラマの放映、東京のスーパーマーケット「キミハラ」での関連グッズの販売。
タツケが用意した書類を確認してからサインを済ませたジャンは、レストランでワイングラスを片手に乾杯します。
日本からビジネスでやってきたタツケは、マテュラン通りで美容室のオーナーをしているフランス人女性と5年間だけ結婚していました。
妻が去ってからはパリで迷子になっているようなものだというタツケは、できるだけ早くこの街を離れるつもりです。
明日の朝には飛行機に乗って帰国した方がいいと忠告されますが、ジャンには1カ所だけ巡礼してみたい場所があります。
ホテルの電話帳をロコワの住所を調べてみると20年前と変わっていませんでしたが、世帯主は別人です。
生前のロコワとは公私ともにパートナーだったジータという女性と連絡を取ってみると、快く自宅に招いてくれました。
ジータが寝室から運んできたのはベージュの表紙で覆われた分厚いフォルダーで、過去にロコワが手掛けた案件をまとめてあるアーカイブです。
【結】迷子たちの街 のあらすじ④
ファイルにはリュドヴィック・フーケの銃殺に関するタイプ用紙も入っていて、事件現場から立ち去った女性の特徴も記載されていました。
20歳前後で性別は女性、中肉中背の体格、髪の毛の色はブルネットで目は明るいブルー。
パリ刑事警察は関係者の供述を手掛かりに捜索を続けていましたが、現在に至るまで彼女の身元を特定できていません。
古いノートのページのあいだにはロコワだけが知っていた彼女の本名と、パリ19区の住所が書いてあります。
7月の太陽の光に照らされたブルヴァール・セリュリエに通行人の姿はなく、空爆によって住民が脱出したゴーストタウンのようです。
街中を歩き回って彼女の家を探し回っていたジャンは、あまりの暑さに大通りの突き当たりにあるベンチに座り込みます。
しんきろうが漂う坂の上から下りてくるシルエットは、紛れもなく青い目にブルネットの女性です。
20年前と大して変わっていないことを一目で確認したジャンは、永遠に記憶の中から彼女を消し去ることを誓うのでした。
迷子たちの街 を読んだ読書感想
はたちの真っ盛りを花の都・パリでセレブリティたちと満喫する、主人公ジャン・デケールが羨ましいです。
ある日の夜に悲劇の引きがねとなる銃声と、闇夜に消えていくかのようなひとりの女性の後ろ姿が忘れられません。
栄華を誇っていたセレブたちの集まりもお開きとなり、ジャンの青春時代に終わりを告げているようで寂しく感じました。
どう考えても日本人の名前とは思えない「ヨーコー・タツケ」なるキャラクターが、ストーリー上の重要な局面で主人公と絡んでくるのには驚かされます。
最後まで名前も明かされることもなく、罪を問われることもなくピュアなままな存在の彼女が美しいです。
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