「血と肉」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|中山咲

「血と肉」

著者:中山咲 2017年1月に河出書房新社から出版

血と肉の主要登場人物

高橋光海(たかはしみつみ)
ヒロイン。高校時代に母を亡くし父とは疎遠。雑務を黙々とこなすのが苦にならない。

田邊頼子(たなべよりこ)
ホテル「コート・ダジュール」の経営者。敬けんなクリスチャンで布教活動に熱心。

原田元春(はらだもとはる)
光海の浮気相手。家庭を持ちながら責任感がない。

麻衣(まい)
光海とは派遣社員の登録会で知り合う。口が堅く誰からも信頼される。

石岡琢磨(いしおかたくま)
旅の写真家。愛想がよく誰にでもカメラを向ける。

血と肉 の簡単なあらすじ

シングルマザーとして出産することを決意した高橋光海が、心機一転のために選んだ場所は海辺町にあるラブホテルです。

雇い主の田邊頼子は信仰心が厚く面倒見がいいですが、過去には不可抗力で殺人を犯しています。

つらい記憶がフラッシュバックしてひょう変した頼子に襲われた光海は、生まれてくる子どものために彼女を殺害するのでした。

血と肉 の起承転結

【起】血と肉 のあらすじ①

都会のオフィスから地方のホテルへ流れつく

東京で派遣社員として事務仕事をしている高橋光海が、自らの妊娠に気がついたのはまだ寒さが残る3月のある日のことです。

お相手の原田元春は妻子持ちで、手切れ金で方を付けるつもりで光海と一緒になる気はありません。

3カ月に突入して腹部が目立ち始めた光海に、同僚の麻衣が海沿いのホテルでの住み込みの仕事を紹介してくれました。

看板には「コート・ダジュール」、休憩料金は4000円、1泊すると7000円、金曜日と土曜日は特別料金なために1000円増し。

「ホテル」とは名ばかりで実質的には若いカップルや訳ありな男女が人目を忍んで利用する密会場所で、光海は清掃や受付を担当します。

時給750円から部屋賃と光熱費を合わせて3万円引かれて、保険は自前で国のに入らなければならないために手元に残るのは8万円ほどでしょう。

オーナーは夫に死なれて天涯孤独の身だという田邊頼子で、食事の手助けもしてくれて家族のように面倒をみてくれます。

【承】血と肉 のあらすじ②

偏食を克服して告解にもチャレンジ

好き嫌いが多かった光海でしたが、妊娠をきっかけにして苦手だった緑黄色野菜も食べられるようになりました。

コート・ダジュールから電車に乗って1時間ほどかかる産院にも通って、1カ月に1回の定期検診も欠かしません。

光海が頼子から毎週日曜日に客室で開催されている旧約聖書の勉強会に誘われたのは、桜が散って暖かくなってきた春の終わりのことです。

参加者はホテルの従業員や近隣住民の女性ばかりで、それぞれが聖書を片手に自分がこれまで犯した罪を告白していきます。

高校生の時に赤ん坊を堕ろしたという女の子、障がいを持った息子を毎日のように殺したい思っている主婦、お金に執着心のある老女。

光海の罪はこの町に移り住む直前に元春のマンションに乗り込んで、妻と小学生になったばかりの娘の前で不倫を暴露したことです。

頼子も夫の暴力から身を守るためにガラスの灰皿で反撃して、当たり所が悪かったために死に至らしめてしまった罪を背負っています。

【転】血と肉 のあらすじ③

ひと夏の忘れられない宿泊客

石岡琢磨がふらりとコート・ダジュールにやって来たのは、夏の気配が近づいて肌が汗ばみ始めた頃です。

海の見える最上階の502号室を希望した石岡は、頼子と交渉して連泊の値段交渉をあっという間に取りまとめました。

カメラマンで海外によく行くという石岡は初対面の人とも仲良くなるのも早く、海や風景だけでなくポートレートも撮っています。

カラフルな水着の色、日焼け止めでテカテカと光る伸びやかな手足、照れながら笑う老若男女の顔。

夏休みのシーズンに入ると海岸には何組もの家族連れと学生のグループが押し寄せていて、石岡はシャッターチャンスを逃しません。

若い時には戦場や発展途上国の写真ばかりをテーマにしていたという石岡の影響を受けて、頼子はロビーに手作りの募金箱を設置します。

「恵まれない子どもに愛の手を」というメッセージとともに飾られているのは、地球上の奇跡的な瞬間を捉えた石岡の写真集です。

世界はこんなにもきれいだという石岡は2週間ほど滞在すると、光海に丈夫な赤ちゃんを産んでほしいと言い残してチェックアウトしていきました。

【結】血と肉 のあらすじ④

飛び散る肉片を乗りこえて母になる

予定日の10月23日が間近に迫った非番のある日、重たいおなかを抱えながら光海は近所の精肉店で骨付きの豚ばら肉を購入しました。

コート・ダジュールのキッチンを借りて玉ねぎのソースで味付けをしたスペアリブを作りましたが、ひとりでは食べきれません。

ひとりでフロントに座っているはずの頼子におすそ分けに行きますが、骨付き肉を見た途端にパニック状態に陥ります。

不幸な結婚生活に耐えてきた頼子でしたが、1番につらかったことは義理の母親の介護を押し付けられていたことです。

80歳をこえて寝たきり状態でほとんど歯も抜け落ちていた義母でしたが、亡くなる直前まで毎日のように肉料理を要求していました。

そんな憎い老婆にそっくりな目をしていているのが光海で、今の頼子には義母が墓場から帰ってきたとしか思えません。

恐ろしいほどの力で首を絞めてきた頼子から逃れるために、やむを得ず光海はスペアリブで彼女の頭を殴りつけます。

血と肉が散らばった床の上に横たわった頼子の遺体をぼんやりと眺めていた光海は、下腹部が「生きろ」と訴えかけてくるのを感じるのでした。

血と肉 を読んだ読書感想

オフィスで頼まれた書類を作り郵便物をデスクに配って回る、ヒロイン・高橋光海の無表情が思い浮かんできました。

例え光海がある日突然にこの世から消えてしまったとしても、代わりの要員は幾らでもいてすぐに補充されるでしょう。

そんな無個性な女性が、予期せぬ妊娠と転職を余儀なくされることによって初めて個性を得ていくのが何とも皮肉です。

お仕事と出産を経てハッピーエンドかと思いきや、どんでん返しが待ち受けています。

正当防衛とは言え主人公の殺人によって幕を閉じるていく衝撃的な物語にも、力強い生命の誕生が伝わってきました。

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