著者:村井日向子 2011年2月に文芸社から出版
恋味定食の主要登場人物
樋口雄介(ゆうすけ)
主人公。入行7年目の銀行員で融資担当。趣味はB級グルメの食べ歩き。
西山佐和子(にしやまさわこ)
栄養士の資格を生かして給食サービス会社で働く。家庭料理の店をオープンするのが夢。
森崎信二(もりさきしんじ)
雄介の同僚。接待のために高級レストランや料亭を開拓する。
中根博之(なかねひろゆき)
佐和子の夫・貴史の後輩。インテリだが情に流されやすい。
吉田富江(よしだとみえ)
佐和子の母。何歳になっても娘の恋愛事情が心配。
恋味定食 の簡単なあらすじ
女手ひとつで子育てをしながら社員食堂で働く西山佐和子の開店計画に興味を持ったのは、食べ歩きが大好きな銀行マン・樋口雄介です。
佐和子のお店がオープンに近づく頃、親身になってサポートしていた雄介に北海道への転勤辞令が舞い込んできます。
1年後に順調に店を切り盛りしていた佐和子のもとを、グルメ業界に転職した雄介が訪ねてくるのでした。
恋味定食 の起承転結
【起】恋味定食 のあらすじ①
あおば銀行の西麻布支店に配属されてから1カ月になる樋口雄介は、お昼の日替わり定食を楽しみにしていました。
予算的にはそれほど高級な食材は使えないはずなのに、味はこのエリアの高級レストランや人気の定食屋に負けていません。
金曜日の退社後にはグルメ雑誌に取り上げられているお店や、隠れた名店に足を運ぶのが毎週の雄介の恒例になっています。
この日は閑静な住宅街にあるカニコロッケが評判の洋食屋を訪ねてみると、調理場で揚げ物をしているのはあおば銀行の社食でみかけた西山佐和子という女性です。
佐和子は企業や学校に昼食を提供する「セントラル給食」で働いていて、いつか独立してお店を出したいと打ち明けました。
「いつか」ではなく具体的な計画を立てるようにとアドバイスした雄介に、後日佐和子は相談を持ちかけます。
佐和子は5年前に夫の貴史を亡くしていますが、かなりの額の生命保険と遺族年金が入ってきたために生活には困っていません。
セントラル給食からの給料のほとんどを貯金していて、開店資金には十分です。
【承】恋味定食 のあらすじ②
佐和子が頭の中で漠然と考えているのは採れたての魚や野菜を使った手作りのメニューをメインにして、テイクアウト用の総菜も販売するお店です。
雄介は佐和子のイメージとぴったりな飲食店を数多く知っているために、勉強を兼ねてふたりで食事に行くことにしました。
雄介と会うことが楽しくなってしまった佐和子のことを、息子・圭太や同居している母親の富江は心配しています。
貴史の部下だった中根博之という男性と、人には言えないほどの深い関係になってしまったのは三回忌が終わった頃です。
揚げ句の果てには中根の妻が自宅まで乗り込んでくるほどの大騒ぎになったために、佐和子は2度と恋をするつもりはありません。
数日後に雄介から外食に誘われた際には、わざと素っ気ない態度でお断りをしました。
予約をキャンセルしてぽっかりと時間が空いてしまった雄介は、銀行の1年先輩で同じく食べたり飲んだりするのが好きな森崎信二に声をかけてみます。
森崎の取引先には店主が高齢のために近々引退する目黒区のレストランがあり、雄介が現地を訪問してみたところなかなかの好条件です。
【転】恋味定食 のあらすじ③
目黒の物件は表通りから奥まったところにある立地ですが、調理室の設備もそのまま使えるほど状態がよく内装費用もかかりません。
西山家の応接間で図面を広げながら熱弁をふるう雄介に、同席した富江や圭太もすっかり聞き入ってしまいました。
富江はアルバイト店員の代わりに接客や調理補助を、圭太はホームページを制作してブログでお店の宣伝を。
母と息子ががぜんやる気になってきたために、佐和子もいつまでも逃げ腰でいる訳にはいきません。
週末には現地に下見に行くと約束を取り付けた雄介を、玄関の外で待ち伏せしていたのは中根です。
近くのファミリーレストランで雄介と向かいあった中根は、ビールを片手に佐和子への並々ならぬ思い入れを告白します。
独身の頃から佐和子のことが好きだったこと、それぞれが家庭を持ったために一度は吹っ切れたこと、貴史の通夜で料理を振る舞っていた彼女の姿を見て放っておけなくなったこと。
佐和子とは今では会っていないという言葉を聞けてようやく安心できた雄介が、西麻布支店の廃止を知ったのは週が明けた月曜日のことです。
【結】恋味定食 のあらすじ④
雄介のような単身者は地方へと転勤を命じられることが多く、支店長から告げられた次の赴任先は函館支店です。
佐和子のお店の名前は親しみやすく素朴な印象の「菜の花」に決まり、看板メニューの和風ビーフシチューを試食してから雄介は北海道へと旅立ちました。
転勤先でも相変わらず忙しい毎日に追われていましたが、六本木支店に異動となった森崎が小まめにメールを送ってくれます。
森崎からの報告で佐和子の商売が順調にいっていることが分かりましたが、雄介は自分のやるべきことに集中するために連絡は取りません。
お昼の営業が終わる頃に突如として雄介が駆け込んできたのは、「菜の花」が間もなく1周年を迎えようとしていた頃です。
銀行を辞めて都内の料理関係の書籍を扱う出版社に転職したという雄介は、北海道産の毛ガニが入った発泡スチロールを抱えています。
今夜のメニューをカニしゃぶに決めた佐和子は、新しい人生が開けることは決して悪いことではないと思い始めているのでした。
恋味定食 を読んだ読書感想
オープニングでは主人公の樋口雄介が午前中な多忙な業務から解放されて、食堂の片隅でほっとひと息ついています。
そんな雄介の疲れを癒やして午後からのエネルギーを生み出す、本日のから揚げ定食が実においしそうでした。
揚げたてを食べてもらえるようにと下ごしらえをした鶏肉を小分けにしておいて、料理を出すタイミングまで計算しているという西山佐和子のこだわりには頭が下がります。
ストイックな料理人と思いきや、周りの男たちを振り回してしまう一面も見え隠れしていて色っぽいです。
仕事にもグルメにも好きになった相手にも全力でぶつかっていく雄介が、ラストで選んだ道が感動的でした。
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