「駅に泊まろう!」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|豊田巧

駅に泊まろう!

著者:豊田巧 2020年9月に光文社文庫から出版

駅に泊まろう!の主要登場人物

桜岡美月(さくらおかみつき)
本作の主人公。ブラックだった居酒屋チェーン店の職場を辞め、亡き祖父のコテージを譲り受ける。

東山亮(ひがしやまりょう)
美月の祖父が経営していたコテージ比羅夫の従業員。コテージの業務のほぼ全てを一人で担っている。

黒岩幸四郎(くろいわこうしろう)
予約なしでコテージ比羅夫にやってきて、当日泊を希望する客。痩せているが、危ない仕事をしているような雰囲気を漂わせている。

大雪紗代子(おおゆきさよこ)
登山目的でコテージ比羅夫に宿泊する客。何故か二人分の宿泊費を払っている。

東山健太郎(ひがしやまけんたろう)
東山亮の兄。山岳ガイドの仕事をしている。

駅に泊まろう! の簡単なあらすじ

桜岡美月はブラックな職場だった居酒屋チェーン店を退職し、亡き祖父・徹三が経営していたコテージを譲り受けることにしました。

彼女は新幹線やローカル線を乗り継ぎ、目的地である北海道の比羅夫駅まで辿り着きます。

コテージ比羅夫の従業員・東山亮や様々なお客さんと触れ合いながら、彼女はコテージオーナーとして大きく成長していくのでした。

駅に泊まろう! の起承転結

【起】駅に泊まろう! のあらすじ①

仕事を辞めよう!コテージへ行こう!

桜岡美月が働いていた居酒屋チェーン店は、セクハラ、パワハラ、サービス残業などが酷く、絵に描いたようなブラック企業でした。

彼女は約二か月前、北海道に住んでいた今は亡き祖父・徹三からの遺言書をもらいました。

遺言書には、祖父が昔から北海道でコテージを経営していること、そのコテージを孫である美月に継いでほしいと思っていることが書かれていました。

迷った美月でしたが、「こんなブラック企業にすり潰されるよりも、コテージのオーナーの方がいい!」という思いから、仕事を退職することを決意します。

鉄道好きな美月は、飛行機よりも新幹線で北海道を目指すことに決めました。

高級なグランクラスに乗り込んだ美月は、車内で豪華なお弁当やビールを楽しみながら、新函館北斗駅に到着します。

美月は初めて訪れた北海道の大きさに戸惑いながらもローカル線を乗り継ぎ、田舎の無人駅『比羅夫駅』に辿り着きます。

彼女は、あまりにも殺風景な比羅夫駅に驚き、降りる駅を間違えてしまったのではないか…と不安になります。

駅から徒歩0分であるコテージもどこにも見当たらず、キョロキョロしている彼女のもとに、『東山亮』を名乗る男が近付いてくるのでした。

【承】駅に泊まろう! のあらすじ②

駅がコテージ!?

不愛想だけれどイケメンな男、東山亮は、自分が『コテージ比羅夫』の従業員なのだと明かしました。

美月は彼に、「コテージ比羅夫はどこにあるんですか?」と尋ねます。

戸惑う美月に対して、亮は小さく笑いながら、「コテージはこの比羅夫駅そのものだ」と伝えます。

小さなペンションやオシャレで可愛いゲストハウスを想像していた美月は、その事実に大きなショックを受けます。

しかし、他に帰る場所が無く、本州に戻る手段も無くなってしまった彼女は、渋々、コテージで生活していくことを決断するのでした。

その夜、美月は駅のホームでバーベキューをします。

電車が通過するホームでバーベキューが出来ることに驚く美月でしたが、牛や豚、羊などの肉類、海老やししゃもなどの魚介類、トウモロコシやナス、カボチャ、玉葱などの新鮮な野菜類…等々、北海道の美味しい食事に舌鼓を打っているうちに、段々と心を開いていきます。

自分が勤めていた居酒屋では見たこともない地元食材を楽しみ、キンキンに冷えたサッポロクラシックビールを飲みながら、初日の夜は更けていくのでした。

【転】駅に泊まろう! のあらすじ③

二人のお客さん

翌日、予約をしていないお客さんがコテージを訪れてきました。

美月は、その怪しい風貌から、男が犯罪者ではないかと警戒します。

亮も名前が偽名ではないかと疑いますが、『ただの訳アリな客』と判断し、そのまま泊まらせることに決めました。

その後、美月はお風呂に入ろうと、ホームに向かいます。

コテージ比羅夫は室内にお風呂が無く、ホームの先にお手製の浴槽が設置されているのでした。

しかし、その途中で美月は人影を見かけます。

それは、線路上に飛び降り自殺をしようとしている黒岩幸四郎でした。

電車が来る直前、間一髪で黒岩を助けた美月は、そのまま彼をコテージに連れ戻しました。

話を聞いてみると、黒岩はとある詐欺グループの一員だったのです。

彼は、詐欺を働くのが嫌になり、グループを抜け出してきたのでした。

美月と亮は黒岩を慰め、なんとか自殺を思いとどまらせます。

翌朝、黒岩は自身の本名が糸井良(いといりょう)であることを明かし、二人に背中を押されて、警察に出頭するのでした。

それから二週間が経過し、今度はお婆さんが宿泊しにやってきます。

彼女は大雪紗代子と名乗り、何故か二人分の宿泊費を払ったのです。

理由を聞くと、彼女は、もともと旦那さんと一緒にコテージに泊まり、その後、近くの羊蹄山を登るつもりだったのだと言いました。

しかし、旦那さんが二か月前に亡くなってしまい、せめて二人で旅行している気分を味わいたかったので、二人分の宿泊費を払ったのだと話しました。

美月はその考え方に感動し、自分に何か出来ることはないかと聞きました。

すると大雪さんは、富良野という土地にある思い出の蕎麦屋さんの蕎麦を一緒に食べる予定だったのだと言いました。

美月は、大雪さんの代わりに富良野へ行き、蕎麦を買ってこようと提案しました。

翌日、大雪さんはその提案に喜び、夕食に思い出の蕎麦を食べられることを楽しみにしながら、羊蹄山へと出かけて行ったのでした。

【結】駅に泊まろう! のあらすじ④

蕎麦と羊蹄山

美月は、慣れないローカル線の時刻表に四苦八苦しながらも、富良野の蕎麦屋に辿り着きます。

「持ち帰り用の蕎麦は予約してもらわないと販売できない」と渋る店主に無理を言って買わせてもらい、夕食の時間帯を少し過ぎてしまった頃に、美月はコテージに帰ってきました。

しかし、亮から「大雪さんが羊蹄山から戻ってきていない」ということを伝えられ、美月は驚くと同時に不安になります。

夜になっても帰ってきていないということは、山で遭難してしまったのではないかと、嫌な想像が脳裏をよぎります。

その後、すぐに大雪さんは戻ってきました。

山で遭難しそうになっていたところを、山岳ガイドに助けられたようです。

彼女を助けたのは、亮の兄・東山健太郎でした。

健太郎は亮から「今日登ったお客さんが一人戻らない」という連絡を受け、山岳ガイドとして羊蹄山を捜索していたのでした。

健太郎の話によると、大雪さんは、旦那との思い出の山である羊蹄山で命を絶とうとしていたのです。

しかし、大雪さんは美月が蕎麦を買いに行ってくれていることを思い出し、「まだ自分のことを思ってくれている人はいる」と考え、命からがら下山してきたのです。

4人はテーブルを囲み、一緒に蕎麦を啜ります。

美月はそんな光景を見ながら、このコテージ比羅夫を宿泊客にとっての家(ホーム)にしていこうと、決意を新たにするのでした。

駅に泊まろう! を読んだ読書感想

日本で唯一、「駅舎が民宿」となっているのが比羅夫駅です。

この小説は、その実在するコテージが物語の舞台となっています。

コテージの内装や取り巻く環境がリアルに描写されているのはもちろん、そこに辿り着くまでの北海道の豊かな自然や、バーベキューの地元食材も非常に細かく描写されており、実際に民宿に一泊したかのような現実味がありました。

特にバーベキューの場面は、焼いた肉やビールに舌鼓を打つ美月がとても美味しそうで、かつ、寒い駅ホームを包み込む温かさに溢れていて、読んでいるこちらが非常に癒されるワンシーンでした。

電車や鉄道好きの方はもちろん、寒い地域で描かれる温かい人間関係に触れてみたい、という方にも是非オススメしたい作品です。

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