著者:恩田陸 2015年9月に中央公論新社から出版
消滅の主要登場人物
小津康久(おづやすひさ)
大企業のエンジニア。マレーシアから帰国。日焼け男。
伊丹十時(いたみととき)
ゴートゥヘルリークスを立ち上げたベンジャミン・リー・スコットと友達。鳥の巣頭。
大島凪人(おおしまなぎひと)
必ず入管と税関で止められる男。変な柄シャツを着ている。
岡本喜良(おかもときら)
空間プロダクトデザイナー。乗りヒコ。
成瀬幹柾(なるせみきまさ)
カリフォルニアで豆腐工場経営。ごま塩頭。
消滅 の簡単なあらすじ
入国審査の窓口で別室に案内された10人は、ヒューマノイドのキャスリンに「この中にテロリストの方がいらっしゃいます」と告げられました。
彼女の目的は、10人に協議してもらいテロリストを見つけ出すことです。
テロリストたちは破壊とは言わず消滅と言います。
テロ行為により何が消滅するというのか?超大型台風接近で通信障害が起こり空港が閉鎖された中、10人の推理が始まりました。
消滅 の起承転結
【起】消滅 のあらすじ①
超大型台風接近中の日本の国際空港では、入国審査のゲートが人でごった返していました。
突然鳴り出したサイレンはすぐに止み、入国審査官たちが窓口を閉めてブースを出て行きます。
通信障害で携帯は通じず、漏電による火災で爆発も起こってしまいます。
人々の怒号と不満がどよめきに変わった瞬間でした。
鎮火のアナウンスが流れ入管が再開されたとき、匿名で激しい差別発言や攻撃を繰り返す者を告発するサイト「ゴートゥヘルリークス」を立ち上げたベンジャミン・リー・スコットが別室へ姿を消します。
そして、その他にも別室へ案内される人たちがいました。
3カ月ぶりに帰国する小津康久。
その康久と入国審査ブースで一緒に列を作り親しくなった伊丹十時。
なぜか怪しい人に見られてしまう大島凪人。
その凪人にぶつかり膝カックンを食らわし「ダディ」と呼んでしまった少年とその母親。
ノイズキャンセリングのヘッドフォンを装着している岡本喜良。
その喜良と心臓発作で倒れた男性に心臓マッサージを施した医療従事者の三隅渓(みすみけい)。
下痢でトイレの個室にこもっていた成瀬幹柾。
その幹柾に声をかけたぽっちゃりとした上品そうな女性。
すでに別室にいたさえない感じのオヤジとコーギー犬。
集められた10人がいるのはどこにでも見かけるような明るいオフィスでした。
ドアの向こうが慌しくなり警備員に囲まれたベンジャミンに十時が話しかけます。
彼らはイギリスの学校の同級生で、ベンジャミンは「大丈夫、今にそれがわかる」という言葉を残し行ってしまいました。
そして、そこに最初からいた泣いている若い女性は、人間そっくりに造られたヒューマノイドのキャスリンでした。
【承】消滅 のあらすじ②
不意打ちで現れたヒューマノイドに、一同は恐怖に戦きました。
キャスリンは、入管職員のアシスタントで情報収集をしていたのです。
キャスリンの目的は、みんなに協議してもらい、それぞれの嫌疑を晴らし、この中にいるテロリストを今日中に見つけ出すことです。
集められた人の共通点は、本日14時から15時までに着いた国際便に乗っている、日本国籍、海外渡航歴ありか、海外生活あり。
4月29日に品川駅のモビーディック・コーヒーでクレジット機能付きIC乗車券で何かを買っていることでした。
凪人は、入管を通過した所で少年に呼び止められ、間違いでここにいるので帰してほしいと訴えますが、この話を聞いてしまっているのでと却下されます。
テロリストグループは、今回初めて目覚めて活動するスリーパーだというのです。
大規模なテロ行為が計画されているのは確かで、彼らが連絡を取り合う過程で「消滅」という言葉を使っていることがわかっています。
当局は、明日、新たな航空支局長が赴任するまでに、テロリストの特定と入国申請せずにここにいるだけと主張するベンジャミンの問題を解決しなければなりません。
そして、ふくよかな女性の脱税が発覚します。
現金を新書やペーパーバックに見せかけ持ち出し、海外の預金口座に貯蓄していたのです。
食堂で少年にコーラを注いであげていたときに手が触れ、「お札いっぱい」と言い当てられてしまい、十時が推理したのでした。
気まずい空気が漂い一同は食事を待つことします。
康久は少年に、キャスリンと指切りげんまんをしたとき、何か見えたのではないかと問います。
聖斗(きよと)は少し考えてこくんとうなずきました。
【転】消滅 のあらすじ③
キャスリンは、無駄のない自然な動きをし、コミュニケーションには全く問題ない、高性能ヒューマノイドでした。
紛争地で医療活動をしている渓がキャスリンを欲しいと感じていたとき、幹柾が嫌な咳をします。
幹柾の耳の後ろから顎にかけて赤い発疹を確認した渓は、世界各地で散発的に発生している「孤独な肺炎」という感染症を思い出します。
幹柾は、健康相談室に隔離されキャスリンが検査キットを取りに行きます。
オヤジがウイルスに感染した人間を送り込むバイオテロではないのかと言い出しました。
自分が感染していることは知らない、テロリストだと自覚がない、それこそスリーパーで、だからキャスリンが送り込まれたのだと。
キャスリンは感染者を入国させる程度では効果がない、テロの可能性は捨てきれないが消滅させるには程遠いという見解を示します。
突然、上司からの呼び出しで席を外すというキャスリンは、制したのを聞かずに俺もついて行くと言い張ったオヤジに軽く電気ショックを与えます。
一同にキャスリンは兵器なのではないかという不安が広がる中、渓はコーギー犬が警察犬だと気づき、凪人はオヤジが「一仕事終わらせて一杯やりてぇ」と呟いたことに違和感を持ちます。
幹柾は検査対象である病気すべて陰性で、犬アレルギーだったことがわかりました。
キャスリンに、テロリストは予定通り任務遂行中で空港を離れたら消滅するという情報が入ります。
空港を離れたら消滅。
高潮警報が出ているのにここを離れることができないということです。
幹柾はベンジャミンが落としたデンタルフロスを拾ったことを思い出し、十時に託しました。
【結】消滅 のあらすじ④
仮眠室の準備に行っていたキャスリンが戻ってきました。
キャスリンは、身の危険があるからテロリストの正体を知る必要はないと言います。
ここにいる面々と顔を合わせるのは最後かもしれないということです。
突然、ふくよかな女性がみんな殺されると言って逃げ出し、口紅ケースの爆弾を手に移送中のベンジャミンを人質に取りました。
その時、コーギー犬が飛びかかり爆竹がパンと鳴って呆気なく幕を閉じます。
ベンジャミンがテロリストではないのかと思い始めていた当局は、自白させるために十時を近づけ、女性に脱税を見過ごすかわりに協力しろと迫ったのでした。
犬はアギーという火薬探知犬で、オヤジは証人保護プログラムへ協力している警察官でした。
ロシアマフィアに追われていた親子を一時避難させることになっていたのです。
日付が変わったとき、一斉に携帯の着信音が鳴り出し、画面にベンジャミンが現れます。
耳栓を付ければ英語が日本語に聞こえ、デンタルフロスを付けて話せば相手が英語に聞こえる自動翻訳ソフト「バベル」のプロモーションです。
「消滅」とは人類の言葉の壁を消滅させることだったのです。
日米犯罪人引き渡し協定では、日本国籍を有する者は除くとあり、ベンジャミンが持っている日本国籍は失効していませんでした。
渓はキャスリンをスカウトしています。
ふくよかな女性、市川香子(いちかわきょうこ)は、シンガポールの息子夫婦が財テクに失敗したと連絡を受けています。
オヤジこと山中貞行(やまなかさだゆき)は、黒澤亜希菜(くろさわあきな)と聖斗親子と出発します。
凪人は、まだアイドル研修生の娘のコンサートに絶対行くからと、聖斗に言われます。
康久と十時と喜良は淡々軒に向かいます。
暖簾が出ていない店に戻ってきた主人は、娘に頼まれた耳栓とデンタルフロスを手にしています。
三人は笑いながら、揃って店の暖簾をくぐりました。
消滅 を読んだ読書感想
物語の舞台は、台風接近で通信障害が起こり、サイレンが鳴り響いて、漏電火災まで起こってしまった国際空港の一室です。
外からの情報は一切入らない、接している空港職員はヒューマノイドだけの状況なのに、切迫感は感じられません。
さらに、10人の中からテロリストを見つけるために、みんなで協議する様子は滑稽です。
空港内を走り回っていて御用となったコーギー犬の話から、ペットが自分の傷口をなめないようにするエリザベスカラーの話になるし、みんなが同時に「どうして?」と叫んだことに対して康久は「ハッピーアイスクリーム」と言いそうになって、十時と二人で「まさか」と答えたときに「ハッピーアイスクリーム」と呟いちゃっているし、窓がない部屋で長時間隔離されているのに、みんなで協議という雑談に興じています。
「みなさん、ついてきてくださいね」と食堂に向かって先頭に立って歩くキャスリンについて行く10人は、ツアーガイドと御一行様です。
文字だけ見ると、台風や通信障害、死の肺炎、バイオテロ、消滅など怖い言葉が並びますが、キャラクターの個性が強くクスクスと笑えるお話で、言葉の消滅という発想には驚かされました。
10人のキャラクターと一緒に推理して楽しめる作品だと思います。
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