「海猫ツリーハウス」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|木村友祐

海猫ツリーハウス

著者:木村友祐 2010年2月に集英社から出版

海猫ツリーハウスの主要登場人物

沢田亮介(さわだりょうすけ)
主人公。市内の専門学校に馴染めずに家業を手伝う。デザイナーとして自活するのが目標。

沢田慎平(さわだしんぺい)
亮介の兄。舞踏家を自称する。飽きっぽく惚れやすい。

竜太郎(りゅうたろう)
東京で芝居をやっていたが結婚を期に引退。顔が広く「親方」の愛称で親しまれる。

原口(はらぐち)
和紙工芸とカルチャースクールの講師で生計を立てる。誰にも分け隔てなく接する。

香子(こうこ)
竜太郎の長女。オカルトとミニチュア細工を趣味にする女子高正。

海猫ツリーハウス の簡単なあらすじ

農作業に明け暮れながらファッションデザイナーを目指していた沢田亮介の静かな生活は、兄の慎平が帰ってきたことによって振り回されていきます。

地域コミュニティーのまとめ役である竜太郎と仲たがいしてしまったのも、思い込みの激しい慎平の恋愛が原因です。

見知らぬ土地で新しい生活をスタートさせるために、亮介は兄弟の縁を切って地元を飛び出すのでした。

海猫ツリーハウス の起承転結

【起】海猫ツリーハウス のあらすじ①

兄弟の絶対的な主従関係

弘前市にある服飾デザイン学校に通っていた亮介でしたが、いま現在では祖父母の田んぼや畑を手伝ってデザインの勉強を続けていました。

実家から国道を沿って車で10分くらい離れた場所にあるのが、木の上に小屋が団地のように点在する「海猫ヴィレッヂ」です。

この一帯を管理しているのはみんなから「親方」と呼ばれている40代前半の男性・竜太郎で、精米業の片手間にツリーハウスの看板や内装も手掛けています。

アングラ劇団に所属していた親方がロンドンのギャラリーでパフォーマンスをやった時に、舞踏担当として参加したのが亮介の兄・慎平です。

「舞踏」といっても日本刀を振り回しながらクネクネとダンスをするだけで、特別な訓練を積んだり教育を受けたりした訳ではありません。

つい最近まで大阪の友人の家に居候しながらグラフィック関係の職探しをしていたはずの慎平が、今度は無農薬栽培の兼業農家をやると言い出しました。

いつものように30分以内に車で迎えにこいという一方的なメールを受け取りましたが、亮介は高校生くらいの時から兄には逆らえません。

【承】海猫ツリーハウス のあらすじ②

海猫の村に囚われた人たち

ジャズピアニストから陶芸家まで、海猫ヴィレッヂには都内や海外で腕を磨いたアーティストや職人が集まっていました。

和紙でランプシェードを作ったりカルチャーセンターで教えている原口もそのひとりで、親方から紹介された慎平は初対面で彼女のことを好きになってしまいます。

自然農をやるという当初の計画の方はいつの間にやら忘れてしまったようで、家の手伝いさえしようとしません。

日雇いの建設現場で働いている父親から文句を言われた慎平は家出を決行しますが、身の回りの物をヴィレッヂの空き部屋へ持っていくのは亮介の役目です。

荷物を軽トラックで運んでいる途中で、亮介は高校生になったばかりの竜太郎の娘・香子がひとりで繁華街の外れを歩いている姿を目撃しました。

すでにバスの運行も終わった遅い時間帯でこの間も近くで誘拐未遂事件が発生していたために、助手席に乗せて送り届けてあげます。

先生と親、部活と受験が世界のすべてだと嘆いている香子でしたが、何かに包まれて外に出ていけないのは亮介も同じです。

【転】海猫ツリーハウス のあらすじ③

恋と宴のあっけない終わり

原口とデートの約束を取り付けたと自慢気に言う慎平は、亮介に車で送り迎えた上に5000円を借りていきました。

市の郊外にあってジャズのコンサートが開かれる喫茶店に行ったり、山道をふたりで登ったという健全なお付き合いです。

デートの終わりに慎平は自分の気持ちを告白をしましたが、他に好きな人がいるという原口からやんわりと断られてしまいます。

海猫ヴィレッヂの「空中談話室」と名付けられた多目的スペースで、竜太郎は慎平を慰めるための飲み会を開催してあげます。

不規則だった生活のリズムを改めて毎朝ヴィレッヂから祖父の畑に通うようになったという慎平は、もはや原口に未練はありません。

これを機会に兄弟で竜太郎の精米所に入って社員にならないかと提案されますが、亮介は前々からの計画を思いきって打ち明けました。

ツリーハウスが完成したら県外に働きに出ようとしていること、失敗しても成功しても自分の責任として引き受けること。

竜太郎からは猛反対されてしまい、会は気まずい雰囲気のままでお開きです。

【結】海猫ツリーハウス のあらすじ④

木の上の家から飛び立つ

明かりのついたツリーハウスへの小橋を渡っていると、頭上から聞こえてきたのは竜太郎と慎平のひそひそとした会話です。

次男坊はお気楽者、あいつの作る服には魂がない、25歳にもなって夢を見ても無駄。

いろいろな言葉が頭の中を駆け巡っているうちに、気がついたら亮介はチェーンソーでツリーハウスを切り倒そうとしていました。

居合舞踏と称したパフォーマンスの時に使う模造品の刀で斬りかかってきた慎平に、亮介は香子から聞いていたすべてを暴露します。

原口の言う「好きな人」とは竜太郎、妻子がいながら続けている不適切な関係、おなかの中にいるふたりの子供。

それでも竜太郎に付いていくという兄に見切りを付けた亮介には、これまでデザインを描きためていたスケッチブックと全財産の14万円しかありません。

ATMで残高を引き出して家族への置き手紙を書いた後で、故郷の見納めのために中心街を抜けた先にある海の方へと車を走らせます。

視界に広がった空が亮介の目に鮮明に映り、茶色い毛に覆われた海猫たちが羽を広げて飛んでいくのでした。

海猫ツリーハウス を読んだ読書感想

風に飛ばされて枝に引っ掛かったような小屋が、30棟近く並んでいるツリーハウスの壮大な眺めには圧倒されました。

田舎町ならではのコミュニティーの結び付きの強さには、都会の暮らしにはない人と人との温かさが伝わってきます。

その一方では煩わしい人間関係や血縁に思い悩んでいる、主人公・沢田亮介のような若者もいて一長一短です。

いくつになっても大人になれない困ったお兄ちゃんの慎平に悩まされながらも、簡単には縁を切れそうにありません。

自分の好きな場所に行って好きなことをしながら、他者との程よい距離感を保つのが幸せな生き方なのかもしれませんね。

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