「温泉妖精」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|黒名ひろみ

温泉妖精

著者:黒名ひろみ 2016年2月に集英社から出版

温泉妖精の主要登場人物

岡本絵里(おかもとえり)
ヒロイン。介護施設「露草荘」で働く。自分のルックスに自信が持てない。

岡本里花(おかもとりか)
絵里の姉。グラビア関係からキャバクラまで職を転々とする。

宮崎(みやざき)
絵里の主治医。美容クリニックを経営。患者の変身願望を言葉巧みにくすぐる。

アンナ(あんな)
祖母に代わって温泉旅館「花」を切り盛りする。ゆくゆくはコンビニにくら替えしたい。

影山(かげやま)
「花」のお得意様。無職のくせに人気ブロガーを自称する。

温泉妖精 の簡単なあらすじ

自分の見た目にコンプレックスがある岡本絵里の楽しみは、ハーフのアメリカ人に変装して温泉に泊まることです。

ブログの情報を頼りに穴場の旅館へいきますが、いい加減な情報を書き込んだ張本人・影山と鉢合わせしてしまいます。

影山や苦労人の若いおかみとの触れ合ううちに、絵里の胸の内に素顔を見せる勇気が湧いてくるのでした。

温泉妖精 の起承転結

【起】温泉妖精 のあらすじ①

 

成りきり外国人が高評価レビューにだまされる

ハンドルネーム・ゲルググは温泉マイスターとして、毎週水曜日に更新されるホームページで有名旅館や人気のホテルを攻撃しています。

そんなゲルググが文句なしで評価しているのが、東北地方にある隠れた名旅館「花」です。

神戸に住んでいる岡本絵里は片道2万5000円、新幹線と電車を乗り継いで10時間以上かけて「花」に到着しました。

フリルのような付けまつ毛とブルーのカラーコンタクトを装着しているために、アメリカ人の父と日本人の母親を持ちサンフランシスコからやって来た「エリザベス・リンチ」にしか見えません。

田舎ではハーフというだけで、アイドルとして手厚いおもてなしを期待できるでしょう。

木造2階建ての小さな宿には、常連の男性客と絵里の他には誰も泊まっていません。

ゲルググのブログに掲載されていた岩風呂にさっそく向かいますが、家庭用の白い浴槽が片隅に設置されています。

源泉掛け流しと紹介されていたお湯は、水道水に温泉の素を混入しただけでまったくの無駄足です。

【承】温泉妖精 のあらすじ②

 

美しいふたりに挟まれる苦悩

風呂から上がってコンパクトで左目を確認してみると充血していていましたが、「岡本絵里」を捨てて「エリザベス」に近づくためには外す訳にはいきません。

顔の方は何回か美容整形を繰り返していましたが、完成のために最後の大掛かりな手術が残っています。

美容外科医の宮崎の話では、頭頂部を切開して骨セメントで盛り固めると白人顔に仕上がるそうです。

消費税込みで150万円の費用は、介護施設で入浴介助の仕事に就いている絵里にとってはかなりの痛手でした。

若い頃に何度か宝塚音楽学校の試験を受けたという母親、日本人形のような容姿で10代の頃は芸能事務所に所属していた姉の里花。

母や姉のように変わりたいという欲望は昼も夜もついて回り、鏡で自分の顔を見る度に忘れられません。

そんな母も肝臓ガンが見つかってからは頭髪が抜け落ちて肌も黄色くなっていき、47歳の誕生日を迎えた数日後に亡くなりました。

かつては憧れの存在だった姉も、四捨五入したら30歳です。

【転】温泉妖精 のあらすじ③

 

化けの皮を暴き合うふたり

フロント係の女性はアンナという名前で、常連客は影山という中年男性です。

ふたりに混じって朝食をとることになった絵里は、延々とアンナの愚痴を聞かされる羽目になりました。

「花」の経営者はアンナの祖母、2年前に自転車で買い出し中に転倒して入院、東日本大震災の地殻変動で枯渇した温泉源。

影山は好きな時に宿泊できるように1カ月25万円を必ず振り込んでいて、お金持ちなのは間違いありません。

影山のたるんだ背中は、ゲルググのブログのプロフィール欄に映っている後ろ姿とそっくりに思えてきます。

隣りの敷地内にある露天風呂は水道水ですが、朝日の射し込む中で入る1番風呂は快適です。

何となく視線を感じたために旅館の2階を見上げると、カーテンに隠れるように影山がこちらを見つめていました。

あわてて湯船を出て問い詰める絵里に対しても、影山は15歳以下の女の子や美少女フィギュアしか興味がないと開き直ります。

案の定「ゲルググ」とは大好きなロボットのアニメから付けた名前で、影山の方も「エリザベス・リンチ」が偽名だとあっさり見抜いていました。

【結】温泉妖精 のあらすじ④

 

妖精の前ですべてをさらけ出す

明日の午前9時にはここをチェックアウトする絵里は、ふたりで一緒に日の出風呂に入ることを提案してみます。

夜が明けつつある中で絵里は全裸になって湯船に入りますが、影山の方は緑色のトランクスを履いたままです。

40歳をすぎているであろう影山が女性経験がないのは明らかで、ネットの世界では「妖精さん」と呼ばれているような人種に当てはまるでしょう。

亡くなった父親から一生かかっても使いはたせない財産を受け継いだという影山は、これといった仕事をしていません。

金持ちは消費することが社会のためになると信じている影山は、これからもスポーツカーに乗って優雅に温泉を巡るつもりです。

久しぶりに他人と話したという影山は、自らの存在理由を気づかせてくれた絵里にお礼を言いました。

朝日を直接見た絵里は目の奥が傷んだために、カラコンを外した目をサングラスで隠してフロントへ向かいます。

神戸に帰る前に北上川のカモシカを見ることをアドバイスしてくれたアンナの前で、ようやく絵里はサングラスを脱ぎ捨てるのでした。

温泉妖精 を読んだ読書感想

純粋な日本人の両親のあいだに生まれて一度も海外に行ったことがないのに、「エリザベス・リンチ」と恥ずかし気もなく名乗る主人公・岡本絵里が厚かましいです。

インターネット上に出回る情報をあっさりと信じてしまう軽薄さも、今の時代の若い世代の風潮が反映されていました。

そんなパッとしない絵里と旅の道連れになる、「ゲルググ」こと影山の煮え切らないキャラクターにも笑わされます。

遺産と時間を持て余している影山が、そう簡単に働き者に改心しないのは当然のことでしょう。

初対面にして朝日の下で裸のお付き合いをするシーンと、青い目の呪縛から絵里が解き放たれるラストがすがすがしいです。

コメント