著者:スーザン・イーリア・マクニール 2020年2月に東京創元社から出版
スコットランドの危険なスパイの主要登場人物
マギー・ホープ(まぎー・ほーぷ)
特別作戦執行部(SOE)の諜報員。
カミラ・オデル(かみら・おでる)
訓練中に同僚を殺してしまった諜報員。
サイード・イナヤット・カーン(さいーど・いなやっと・カーン)
インド系イギリス人。医者の資格も持つ諜報員。
テディ・クレイン(テディ・クレイン)
釣り好きの諜報員。
ラムジー・ノヴァク(らむじー・のヴぁく)
まったく口をきかない諜報員。
スコットランドの危険なスパイ の簡単なあらすじ
第二次世界大戦中、上陸作戦に関する重要な情報を聞かされたうえで、仲間を危険にさらす作戦への協力を拒んだマギーは、スカーラ島と呼ばれるスコットランドの孤島へと幽閉されてしまいます。
そこにはマギーの他にも問題がある諜報員が収容されていました。
ある日、新しい収容者が来てから島で殺人が起きるようになります。
マギーは生き残るために仲間と協力して、この状況を打開しようとしますが、一連の殺人事件の裏にはドイツのスパイがいました。
スコットランドの危険なスパイ の起承転結
【起】スコットランドの危険なスパイ のあらすじ①
第二次世界大戦中、英国のスパイであるマギー・ホープは特別作戦執行部(SOE)が計画する特殊作戦への協力を拒んだことで、重要機密を知った非協力的なスパイとして、スコットランドのスカーラ島に幽閉されていました。
その島には、マギーのほかにも9人のスパイたちがいました。
釣りが趣味のテディ、インド系イギリス人で医師のサイード、無口なラムジー、未婚の母アンナ、インドア派のクウェンティン、元ショーガールのヘレン、ピアノと狩りが好きなレオ、アウトドア派のイアン、小男のトーヴァルド、個性豊かな面々ですが、彼らはみな軍の機密情報を知ったことや、問題を起こしたために島流しにされたのでした。
現在、彼らはマーカス・キロックという大富豪が建てた城に住んでいます。
キロックは城に招いた客人と自分の妻を皆殺しにしたうえに自殺した男で、スカーラ島はいわくつきの島でした。
城を管理するのは、アンガス、フィオナ、マードのマクノートン一家。
そして、看守としてエヴァンズ大尉がいます。
ある日、その島に新しいスパイが送られてきました。
彼女の名はカミラ、訓練中に仲間を殺害したため拘束されたのでした。
その日の夕食のあと、エヴァンズ大尉が突然、嘔吐して亡くなります。
死因は不明でしたが、みんなは心臓発作だと推測します。
マギーは城の通信機を使って、本土にエヴァンズ大尉が亡くなったことを伝えました。
こうして、本土でボートを出す準備が整えられます。
翌日、マギーはテディ・クレインと釣りをしていると、川から男性の死体が流れてきました。
それは、昨日から姿が見えなかったイアンでした。
【承】スコットランドの危険なスパイ のあらすじ②
イアンは誤って川に転落して亡くなったものと見られました。
ボートはその日の昼にやってくる予定でしたが、ボートが故障してしばらく時間がかかるとの連絡がありました。
マギーは、もう一人死者が出たことを知らせ、なるべく急ぐように頼みます。
次の日の朝、朝食の席で入り江にボートが見えました。
ところが、そのボートは波間を漂うだけで、進んでいるようには見えません。
マギーたちがボートに乗り込むと、そこにはマギーたちのカウンセリングをしていたイエーガー医師と船長の遺体がありました。
そのボートは本土から寄こされたものではなく、2日前に島から出ていったはずのものでした。
サイードは、遺体の筋肉の収縮を見て、ストリキニーネによる毒殺の可能性があると述べます。
あまりに多い死者に、エヴァンズ大尉の遺体を調べなおすと、口からアーモンド臭がにおうことがわかり、彼がシアン化合物で死んだことがわかりました。
さらに翌朝、ヘレンが寝室で亡くなりました。
規定以上の睡眠薬の服用が死の原因でした。
カミラがやってきてから次々に死者が出たことで、マギーは彼女を怪しむようになります。
スカーラ島に嵐が近づき、天気はあっという間に悪化し、ますます外界との連絡が難しくなりました。
一方、ロンドンではMI-5は無線を傍受し、スコットランド西岸付近にドイツのスパイがいることを掴み、捕縛しようと動き出します。
また、ロンドン空襲下で起きた連続殺人事件、通称ブラック・ビースト事件の裁判が行われることが決まりました。
警察が持っているのは状況証拠だけで、犯人を確実に有罪にするにはマギーの証言が必要でした。
マギーとこの事件を捜査したダージン警部は、彼女を探すために、友人たちからマギーの所在を訊いて回り始めます。
【転】スコットランドの危険なスパイ のあらすじ③
ダージンは、マギーの友人の一人デイヴィット・グリーンにもマギーの居場所を訊ねます。
デイヴィットはチャーチル首相の秘書で、機密文書を閲覧する権限を持っていました。
デイヴィットはスカーラ島に関する資料の中で、マギーの名前を見つけます。
チャーチル首相も参加する戦略会議で、デイヴィットはSEOのトップであるマーティンズにスカーラ島について質問をします。
マーティンズは非常に機密性の高いこととして、曖昧に回答しますが、これに興味を持ったのがMI-5の長官ピーター・フレインでした。
スカーラ島はドイツのスパイが潜んでいると見られるスコットランド西岸付近にあり、機密度が高いならドイツに有益な情報もあると睨んだのです。
一方、スカーラ島では、カミラが訓練中に人を殺したことを他のメンバーが知ったことで、彼女は全員から疑われるようになります。
しかし、翌朝カミラはベッドの上で銛を突き立てられて殺されていました。
その後も、ヘイガンがトイレで絞殺されて、死者は増えていきます。
収容者たちは、城を管理するマクノートン一家が怪しいと不信感を高めていきます。
そんななか、マギーとサイードは、何かを知らせようとするネコのあとを追って、城の塔の最上階へとたどり着きます。
そこには、マーカス・キロックに殺されたといわれていた、妻のベアトリクス・キロックがいました。
ベアトリクスは、キロック城でかつて起きた大量殺人事件の真相を、マギーたちに話します。
マーカスは近隣の村の若い娘を金で買っては、仲間とともに虐待していたのです。
アンガス・マクノートンの妻フィオナも被害者で、ある晩その光景を見たアンガスが猟銃を持って乱入し、マーカスとその仲間を全員撃ち殺したのでした。
また、ベアトリクスは夜な夜なボートに近づく人影を見たとも伝えます。
マギーは自分たちのなかにドイツのスパイがいて、ボートの無線機で仲間と連絡をしていると推測します。
【結】スコットランドの危険なスパイ のあらすじ④
スカーラ島にいるドイツのスパイは、嵐が収まり次第ピックアップしてほしいと付近のUボートに無線を入れます。
その通信をMI-5の監視網がキャッチし、島に海軍を差し向けます。
スカーラ島では、スパイが仕掛けたトラバサミにアンガスがかかり、脚を負傷します。
サイードが彼の治療に付き添っている間に、レオがとうとう耐えきれなくなり銃を持って城から出て行きます。
その後、マギーたちは教会の鐘が鳴り響くのを聞いて、レオが助けを求めているのではと考えます。
マギー、テディ、ラムジー、アンナ、クウェンティンは城にあった猟銃で武装して教会に向かいます。
ところが、教会の鐘はレオがマギーたちをおびき寄せるために鳴らしたのでした。
彼は全員殺せば自分は助かると言って発砲します。
これでアンナとクウェンティンが負傷、残りの3人は逃げ出しますが、レオに追いつかれます。
しかし、ラムジーがレオを撃ちます。
それまで誰とも話さなかったラムジーは口を開き、自分がみんなを殺したことを話します。
ラムジーはここがナチスの収容所と本気で信じており、自分が殺したのはナチスだと言います。
マギーが説得をすると、ラムジーは正気に返り、自分がしたことに耐えきれずに自らを撃って自殺します。
その直後、テディがマギーを殴り、彼女は意識を失いました。
マギーが意識を取り戻すと、彼女は縛られてボートに乗せられていました。
ドイツのスパイはテディで、彼はラムジーを洗脳して殺しをさせていたのでした。
彼はマギーが重要な情報を掴んでいると悟り、Uボートまで連れ去ろうとします。
ボートが海を進むなか、マギーはロープをほどき、テディを巻き込んで海に落ちます。
テディは溺れ死に、やって来た海軍がUボートを沈めます。
マギーは入り江へと流れ着き、海軍に救助されます。
スカーラ島でのマギーの活躍は評価され、彼女はスパイとしての復帰を許可されるのでした。
スコットランドの危険なスパイ を読んだ読書感想
クローズドサークル、いわくつきの大富豪の城という具合に、ミステリ黄金時代を彷彿とさせる設定ですが、そこに第二次世界大戦とスパイという要素が加わり、独特のストーリーに仕上がっています。
毎日起こる殺人にスパイたちの神経が苛立っていく様子は緊迫感がありました。
また、島の外ではイギリス諜報部が、ドイツのスパイを突き止めるために活動しており、イギリス対ドイツの構図も垣間見えます。
歴史上の人物を登場させたり、実際のスコットランドの城をモデルにするなど、ストーリーを重厚にする工夫が凝らされているのも本作の特徴です。
戦争という、短期間で何千人もの命が失われる時代を生きながらもマギーは、島で犠牲になった一人一人に想いをはせます。
その姿に人の命の重さというものを改めて考えさせられました。
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