著者:マーガレット・ミラー 2020年2月に東京創元社から出版
鉄の門の主要登場人物
アンドルー・モロー(あんどるー・もろー)
婦人科医
ルシール(るしーる)
アンドルーの2番目の妻。
イーディス(いーでぃす)
アンドルーの妹。
マーティン(まーてぃん)
アンドルーと彼の最初の妻ミルドレッドの息子。
ポリー(ぽりー)
マーティンの妹。
鉄の門 の簡単なあらすじ
アンドルーの妻ルシールは、謎の男が持ってきた小箱の中身を見てから失踪を遂げます。
警察に失踪を届け出た結果、ルシールは発見・保護されますが、彼女はすっかりと精神を病んで、精神科病院に入院することになります。
ルシールは同室の患者が亡くなったことで、自分の命が狙われていると思い込むようになります。
そしてある日、病院の屋上から投身自殺を遂げます。
ところが、精神を錯乱した末の自殺と思われるこの事件の裏には、恐るべき策略がめぐらされていたのです。
鉄の門 の起承転結
【起】鉄の門 のあらすじ①
医師アンドルー・モローの二番目の妻ルシールは、結婚して15年たった今でも、彼のこどもたちや義妹のイーディスとなじめていませんでした。
アンドルーの最初の妻のミルドレッドは、ルシールの家を訪れた帰り道に何者かに襲われて死亡していたのです。
アンドルーのこどもは、マーティンとポリーと言う名で、ルシールとポリーの関係が特にギクシャクしたものでした。
そんなポリーももうすぐ結婚し、出て行きます。
ルシールはそのことを、密かに歓迎していました。
ポリーの婚約者ジャイルズがモロー家に招待された日、列車事故が起きます。
ジャイルズを迎えにいたアンドルーと彼のこどもたちは、事故を間近で目撃し、救援活動にあたったため、家に戻ってくる時間が遅れました。
ジャイルズの訪問では、それ以外には特に問題はありませんでした。
しかし、その翌日、ルシールは姿を消したのです。
ルシールが行方をくらます前に、みすぼらしい身なりの男がモロー家を訪ね、ルシールに荷物があるといって、使用人に小さな箱を渡しました。
使用人がルシールに箱を渡してしばらくすると、彼女の部屋から悲鳴が上がりました。
使用人たちはルシールの様子を見に行きましたが、彼女は何でもないと言い放ち、使用人たちを追い払います。
ルシールが消えたのはそのあとでした。
しかも、彼女は自分のコートではなく、使用人のコートを着て家をでていくという不可解な行動を起こしていました。
ルシールがいなくなったことで、アンドルーは警察に相談することにしました。
【承】鉄の門 のあらすじ②
アンドルーは、警察にルシールが失踪したことを届け出ました。
警察には、サンズというアンドルーの古くからの知り合いがいました。
サンズはミルドレッドが殺害された事件に捜査チームの一人として関わっていたのです。
そのため、彼はモロー家の人間をよく知っていたのです。
警察はルシールが美容院に行き、髪型を変えたことを突き止めます。
警察はルシールが湖の近くのホテルにいることを突き止め、アンドルーに知らせます。
ところが、ルシールがホテルにやってきたアンドルーを見ると、彼女は発狂したのです。
また、彼女の近くでは麻薬中毒者のグリーリーという男が薬物中毒で亡くなっていました。
原因不明の発作を起こしたルシールは、精神科のペンウッド病院に入院することとなりました。
病院の中でルシールは命の危機を感じていました。
彼女は、アンドルー、ポリー、マーティス、イーディス、ジャイルズの誰か一人に殺されると思っているのです。
一方、グリーリーの検死審問では、死因は過失による薬物の過剰摂取と判断されました。
ところが、サンズ警部のもとにタレコミ屋がやってきてある情報を提供します。
死ぬ前のグリーリーはかなり羽振りがよく、これから金がどんどん入ってくると自慢していたというのです。
また、グリーリーの死亡時間にも不審な点がありました。
彼が死ぬ前に連れていた売春婦の話では、夜中の12時に薬を打ったのに、グリーリーが朝の6時に発見されたときには死後3時間と判断されていたのです。
薬を打ってから死ぬまでに3時間のズレがあることを不審に思ったサンズ警部は、グリーリー事件の捜査を密かに再開しました。
【転】鉄の門 のあらすじ③
グリーリーを調べていたサンズ警部のもとへ、マグノイア一家がやってきます。
息子が事件現場の湖で小箱を拾ったというのです。
箱の中には男性の人差し指が入っていました。
サンズは事情聴取のためルシールを訪ねますが、うまく話を聞き出せません。
ルシールが部屋に戻ると、同じ部屋の入院患者のコーラが死んでいました。
コーラはルシールに贈られたブドウを食べていて、ルシールは毒殺されたと騒ぎますが、検死結果では毒物が検出されず、残りのブドウからも毒は発見されませんでした。
サンズもコーラの死因を心不全だと思いました。
しかし、サンズは捜査の過程で、ルシールに箱を届けた男がグリーリーだったことを突き止めており、ルシールの周りで次々に死者が出ていることに懸念を抱いていました。
コーラが死んでからルシールの状態はどんどん悪くなっていきました。
自分の食べ物に毒が含まれると信じ、食事をとらなくなりました。
ルシールの恐怖は限界にまで達します。
病院の屋上で散歩をしていたとき、職員を不意を突いて、彼女は投身自殺を遂げたのでした。
ルシールの葬儀には、コーラの妹のジャネットも訪れていました。
彼女はそこでイーディスと話し込み、次の火曜日に一緒に映画を見に行く約束をします。
葬儀のあと、イーディスはルシールの衣類の仕分けをしようと、アンドルーとルシールの部屋に入ります。
そのときに偶然、日記を見つけます。
それはアンドルーの前の妻、ミルドレッドのものでした。
イーディスはその日記を密かに読んだあと、知り合ったばかりのジャネット宛てに郵送しました。
日記をもらったジャネットはイーディスに、どうしてそんなものを送ってきたのか確認しようとモロー家に電話をするのですが、イーディスにつないでもらえず、とりあえずサンズに日記を渡すことにしました。
サンズはイーディスに話を聞こうと、モロー家を訪れますが、彼女は昨晩のうちに亡くなっていました。
【結】鉄の門 のあらすじ④
サンズはミルドレッドの日記を開きます。
日記からは、アンドルーと結婚する前のルシールが、生活に窮していたことが読み取れました。
サンズは、ルシールがモロー家の財産と、アンドルー目当てでルシールを殺害したのではと疑念を強めます。
イーディスの死因がモルヒネ中毒だとわかると、サンズはポリーに、すぐに家を出て婚約者のところへ行くよう命じます。
ポリーが家から出て行くと、サンズはアンドルーと対峙します。
ルシールを自殺に追い込み、グリーリーとイーディスを殺害したのはアンドルーでした。
アンドルーは2週間前に、偶然ルシールが隠し持っていたミルドレッドの日記を見つけ、ルシールがミルドレッドを殺害したと確信したのです。
そして、妻を殺し、そしらぬ顔で15年間も自分と暮らしを共にしてきたルシールに復讐を誓ったのでした。
ルシールに送った人差し指は、列車事故の救援活動の際に拾ったものでした。
ゆびさしは糾弾の象徴です。
ルシールには、”お前は殺人者だ”と糾弾するメッセージのつもりで送ったのでした。
箱を届けるのに、偶然道端にいたグリーリーを使ったのですが、彼は途中で箱を開けて中身を見てしまい、アンドルーが殺人を犯したのだと勘違いしたのです。
箱の件でグリーリーがゆすりをしてきたため、アンドルーは彼に致死量のモルヒネを投与して殺害。
日記の内容を知って騒ぎ立てたイーディスも、睡眠薬だと偽ってモルヒネを渡したのです。
アンドルーは、目論み通りルシールを自殺に追い込み、復讐を遂げました。
しかし、そこに爽快な気分はなく、アンドルーは人知が及ばない神のような存在からの裁きを恐れるのでした。
子供たちはいずれ結婚して家を出て行くので、ルシールを殺したことでアンドルーは一人きりになります。
「一人はいやだ」とつぶやき、絶望に打ちひしがれるアンドルーを残し、サンズはモロー家から去るのでした。
鉄の門 を読んだ読書感想
心理サスペンスの名手、マーガレット・ミラーの初期を代表する作品を聞いて期待に胸を膨らませて読み進めました。
満足な生活から一転、恐怖に囚われるルシールの心理描写はさすがミラーと思えるほど、ぞっとする書き方でした。
彼女は完全に狂ってしまったわけではなく、かといって正気からもほど遠い。
この正気と狂気のはざまにルシールを置くことで、バランスを欠いた人間の危うさがひしひしと伝わってきました。
そして、精神が狂気に振り切れたときに、ルシールは屋上から飛び降りるのですが、有刺鉄線がはられたフェンスをよじ登るさまは、それまでの弱々しさが嘘のような活力のある描かれ方でした。
逆に、復讐を遂げたアンドルーはそこからどんどん精神的に落ち込んでいくのです。
死んで救われ、生きて苦しむという2人の対照的な立場が強く印象的に残りました。
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