【ネタバレ有り】ネプチューンの影 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:フレッド・ヴァルガス 2019年10月に東京創元社から出版
ネプチューンの影の主要登場人物
アダムスベルグ(あだむすべるぐ)
パリ十三区警察署長。天才的な直感で数々の事件を解決してきた人物。
ダングラール(だんぐらーる)
アダムスベルグの直属の部下。多彩な知識の持ち主。
ルタンクール(るたんくーる)
アダムスベルグの部下。豊満な女性。
カミーユ(かみーゆ)
音楽家。アダムスベルグの元恋人。
フュルジャンス(ふゅるじゃんす)
アダムスベルグと因縁がある判事。故人。
ネプチューンの影 の簡単なあらすじ
アダムスベルグは、数々の難事件を解決してきた名刑事です。
そんな彼が十四年間追い続けていた連続殺人事件がありました。
その事件の遺体には三叉槍(トリダン)で刺したかのような傷がついているのです。
しかし、アダムスベルグが容疑者と目していた判事が死亡したことで、事件は終結したと思われていました。
ところが、三叉槍(トリダン)が凶器と思われる殺人事件が新たに発生しました。
アダムスベルグは最重要容疑者が死亡しているにも関わらず、事件の再捜査に乗り出します。
ところが、カナダでの研修中にアダムスベルグを狙った陰謀がうごめいていたのです。
窮地に立たされた彼は、信頼できる仲間とともに判事の影を追うのでした。
ネプチューンの影 の起承転結
【起】ネプチューンの影 のあらすじ①
アダムスベルグは、新聞を手にダングラールの部屋で話をしていたときに不意に不快感を覚えます。
その日の夜、大通りを歩いていたら今度は身体の中で竜巻が巻き起こっているかのような衝撃に襲われました。
これはおかしいと思い周囲を調べると、ポスターに目が留まります。
そのポスターは髭を蓄えた大男と水の精霊が描かれており、アダムスベルグはこの絵の正体を知るべく、夜中にも関わらずダングラールの家を訪れて彼を叩き起こし、そのポスターのところへ連れて行きました。
ポスターの絵はネプチューンでした。
三叉槍(トリダン)を持つ海の神と聞かされて、アダムスベルグはようやく不快感の正体を突き止めます。
彼は警察署に出ていき、新聞を開くとそこにはシルチカイムで若い女性が殺された事件の記事が載っていました。
女性の体にはまっすぐに並んだ三つの傷があり、現場からそう離れていないところで、新品の錐を手にした酩酊状態の男が捕まっていました。
きれいに並んだ、三つの傷、記憶がない容疑者、新品の凶器、どれもアダムスベルグがかつて追っていた事件と同じでした。
フュルジャンス判事が殺しを再開したと、アダムスベルグは確信します。
フュルジャンスは同様の手口で過去にも7件の殺人を犯していました。
そのうちの一件はアダムスベルグの弟が容疑者に仕立て上げられました。
アダムスベルグの証言で、弟のラファエルは無罪になったものの、彼はその後姿を消してしまったのです。
だから、アダムスベルグはフュルジャンス判事に執着していたのです。
その話を聞かされて同情するダングラールでしたが、最後にアダムスベルグから驚きの事実を聞かされます。
問題の判事は16年前に死んだというのです。
【承】ネプチューンの影 のあらすじ②
ダングラールは当然納得がいかず、容疑者が死んだのなら今回の一件は別の人間が犯人に違いないと主張します。
しかし、アダムスベルグはあくまでフュルジャンスが犯人だと譲らず、ひそかに探りを入れることにします。
シルチカイムの担当者は、最初はアダムスベルグを快く受け入れましたが、彼が死人を追っていることを知ると怒って協力を打ち切ってしまいます。
アダムスベルグは他人に頼ることなく捜査を続けますが、ずっと前から予定に入っていた、カナダで行うDNA鑑定の研修日がやってきました。
アダムスベルグは部下たちを連れてカナダへと飛びます。
アダムスベルグはカナダでノエラという娘と知り合い、親密になってベッドを共にするまで至ります。
一方で、元恋人のカミーユがカナダのコンサートに参加することを知って、アダムスベルグは密かに会場へと向かいました。
コンサートが終わったあとで、カミーユが赤ん坊と一緒にいるところを見て、彼はかつての恋人に子供ができていたことを知ります。
この事実はアダムスベルグの心をかき乱しました。
ノエラとの関係も悪いほうへ進展していきます。
ノエラは本気でアダムスベルグを愛しているといい、結婚を迫ってきたのです。
カミーユの赤ん坊とノエラの求婚に参ったアダムスベルグは、酒場でべろべろになるまで酒をあおり、帰り道で頭を何かにぶつけて気を失ってしまいます。
気が付いたアダムスベルグは頭から血を流していて、這う這うのていで宿舎へと戻ったのでした。
やがて研修期間が終わり、帰国の日がやってきます。
空港まで押しかけてくると思われたノエラでしたが、その姿はなく、アダムスベルグは胸をなでおろしてフランスへと戻りました。
ところが、アダムスベルグは、部下のルタンクールとともに再びカナダに呼ばれることとなります。
カナダに戻ったアダムスベルグはノエラの死を知らされます。
遺体にはトリダンの傷跡がついていました。
【転】ネプチューンの影 のあらすじ③
ノエラの事件はアダムスベルグに不利な証拠でいっぱいでした。
アダムスベルグは判事の仕業だと直感します。
しかし、証拠はあまりにも彼に不利で、ルタンクールはアダムスベルグに逃げることを提案します。
逃走の前に、アダムスベルグはアメリカにいるとわかった、弟のラファエルのもとを訪ねます。
彼と弟はよく似ていて、ルタンクールはラファエルをアダムベルグだと思わせて、警察の包囲網をかいくぐる計画を立てました。
計画は無事成功し、二人は偽造パスポートを使ってフランスに帰国しました。
アダムスベルグは、クレマンチーヌという名の知り合いの老女のところで匿ってもらいます。
そこにはジョゼットという凄腕ハッカーの老女が同居していました。
アダムスベルグは、ダングラール、ルタンクール、ジョゼットの協力を得て、判事の痕跡を追います。
しかし、ダングラールは依然として判事犯人説に懐疑的です。
そこで、フュルジャンスの墓を掘り起こして、遺体があるかどうか確かめることになりました。
結果、棺には遺体ではなく砂が詰まっていました。
フュルジャンスが十六年前に死んでいなかったことがわかりましたが、新しい疑問が出てきます。
判事が生きているのなら、現在九十九になっているはずです。
そんな老人に殺人能力があるとは信じがたい事実です。
アダムスベルグは一九四四年にもトリダンが凶器に使われた事件があったことを思い出します。
しかし、その事件の犯人は二十五歳の若者が母親を殺害した事件で、当時の四十歳のフュルジャンスとは関係ないと判断していました。
アダムスベルグは、ようやくフュルジャンスが十五歳年齢を偽っていたことに気づきます。
戦後は、戦火で戸籍が失われたため身分と年齢を偽ることが容易でした。
フュルジャンスは法律家としての信頼を得るために、年齢を十五歳高く偽っていたのです。
彼の現在の年齢は八十四歳だったのです。
【結】ネプチューンの影 のあらすじ④
アダムスベルグは判事と決着をつけるために、自分のマンションへおびき寄せます。
現れた判事は依然として元気な老人でした。
判事の殺人の動機には父親の存在がありました。
判事の父親は事故にあって指が三本しかありませんでした。
判事の母はそんな夫を気遣うことなく、常にバカにし続ける悪妻でした。
父の趣味は麻雀で、常に役満を狙っていました。
しかし、妻はそれすらもひたすらバカにするのでした。
ある日、判事の父がボートに乗ったまま、湖の底に沈んで亡くなります。
村では、妻に耐えられなくなって自殺したとも、妻が何か細工をして手を下したとも噂されるようになりました。
父の葬儀の後、フュルジャンスはトリダンで母を殺害します。
そこから彼の長い殺人歴が始まったのです。
被害者は”風”という言葉や、”赤”・”緑”・”白”を連想させる名前の人物ばかりでした。
風は麻雀で”東南西北”、赤は”中”、緑は”發”、白は”白”の牌を意味します。
判事はトリダンを父の手、被害者たちを字牌に見立てて、役満”字一色(ツーイーソー)”を完成させようとしたのです。
アダムスベルグは銃を構えますが、判事は自分に危害を加えれば部下たちがカミーユとその赤ん坊を殺すと言って脅しをかけました。
そのとき、ダングラールが助けに入り、アダムスベルグは窮地を脱します。
フュルジャンスは逃走しますが、ダングラールは判事の会話を録音しており、アダムスベルグの潔白を証明することはできるようになりました。
判事には逃げられたものの、アダムスベルグはもう脅威を感じてはいませんでした。
判事の役満の完成にはあと、白が一つ必要でしたが、その人物はフュルジャンスだと気づいたからです。
フュルジャンスは雷という意味で、雷は”白い”閃光です。
名誉を回復したアダムスベルグはカミーユの元を訪れ、赤ん坊の父親が自分であることを知るのでした。
ネプチューンの影 を読んだ読書感想
連続殺人を扱う内容でしたが、陰惨な雰囲気はなく、どのキャラクターも生き生きとしているのが特徴です。
カエルに煙草を吸わせるとぷくぷくと膨らんで最後にはバーンと破裂する、という話を聞かされた結果、気になって執拗に質問するといった、どこかとぼけたやり取りが目立ちますが、それも読者を楽しませるための工夫だと思います。
読み始めたばかりの頃は、自分もダングラールと一緒に、アダムスベルグは何を言っているのだと思いました。
死んだ人間が殺人を犯すはずがないので、最初は判事の後継者がいてその人物が同じ手口で殺人をしているのだろうと考えていましたが、まさか判事が自分の死を偽装して、さらに年齢も偽っていたとは驚きです。
また、殺人の動機に関しては驚愕の一言です。
さまざまなミステリを読んできましたが、ここまで珍妙な動機は初めてでした。
英国推理作家協会のインターナショナルダガー賞を四度も受賞した作家は、考えることが違うと思いました。
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