【ネタバレ有り】1R1分34秒 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:町屋良平 2019年1月に新潮社から出版
1R1分34秒の主要登場人物
(ぼく)
本作の主人公。弱小ボクサー。
(ウメキチ)
主人公のトレーナー
(友だち)
主人公の唯一の友達。
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1R1分34秒 の簡単なあらすじ
第160回芥川賞受賞作品。プロボクサーである「ぼく」は、デビュー戦こそ初回KOと華々しかったものの、あとは二敗一分けと勝てずにいた。「ぼく」は、試合前に対戦相手を徹底的に分析する。ブログやSNSもチェックし、その結果試合が近くなると夢の中では親友になってしまう。しかし、試合では勝てず、あんなヤツ友達じゃなかったと裏切られた気分になるのだった。ついにはトレーナーにも見捨てられ、次にパートナーになったのが、ウメキチだ。ウメキチは「ぼく」のボクシングスタイルの長所と短所を見抜き、徐々に変えていく。今までスタイルを変えられていく事にイライラしながらも、徐々にウメキチを信頼し始める「ぼく」。そして、勝つためのボクシングを二人で目指していく。
1R1分34秒 の起承転結
【起】1R1分34秒 のあらすじ①
プロボクサーの「ぼく」は、デビュー戦こそ華々しくKO勝ちで飾ったが、それからは二敗一分けと負けが込んでいました。
次の試合相手が決まると、「ぼく」は相手をとことん分析します。
SNS、ブログ、通っているジム周辺の環境などもチェックし、終いにはいつも夢の中で親友となってしまいます。
今回の対戦相手、青志とも夢の中では互いに切磋琢磨し合い、友情を育みます。
しかし、現実で試合に負けてしまうと、勝手に裏切られた気持ちになるでした。
「ぼく」は試合のビデオを見ながら、がんばれと自分を応援し、涙します。
次の日は、唯一の友だちと出かけました。
友だちは変わっていて、iPhoneで映像をとりため、映画をとるのが趣味です。
いつも楽しそうに映像を撮っている友だちを、「ぼく」は羨ましく思うのです。
友だちは、よくiPhoneを「ぼく」に向けます。
カメラを向けられたら、出来る限りしゃべるように言われている「ぼく」は、今の心境などを取り留めもなく話すのでした。
ある日、ジムのスタッフとして働いていると、体験希望者の女性が2人やって来ます。
「ぼく」はその1人、タイプの女の子のフードに電話番号を入れて体の関係を持ちます。
彼女には彼氏がいましたが、「ぼく」は関係を続けます。
ジムへ行くと、いつものトレーナーからウメキチに代わってもらうと言われてしまいます。
トレーナーに見捨てられたのだが、いつかはこうなる予感はあり、ショックは受けませんでした。
【承】1R1分34秒 のあらすじ②
新しくパートナーになったウメキチは、「ぼく」の試合を欠かさず観ていてくれ、「君のボクシングに関心がある」と言います。
「ぼく」が頭の中で考える事が分かるかのように、話をするウメキチに戸惑います。
実際にミットを受けたウメキチに、「よくプロテスト受かったな」と告げられます。
負け続きで、確かなものはライセンスしかないのに、それすらもまぐれだったのかとショックを受ける「ぼく。」
しかし、ウメキチは「ぼく」の体型や体質からパンチのクセを見抜き、アドバイスします。
自分のボクシングスタイルとは異なる指導に、フラストレーションが溜まる「ぼく」でしたが、ウメキチはさらりと「フラストレーション溜めていこう」と宣うのでした。
「ジャブストレートを打つ時、半身を切って肩を相手にぶつけるような意識で、横に泳がせろ」といウメキチに、反発を覚える「ぼく。」
するとウメキチに問われます。
「お前は勝ちたいのか?きれいなボクシングにしがみつきたいのか?」と、さらに「お前を勝たせたい。
まだまだ勝てるお前の才能に嫉妬している」そのウメキチの言葉に、気づくと「ぼく」は涙してのでした。
「なんでいつも撮ってんの?」と友だちに聞くと、「なんでボクシングやってんの?」と逆に聞かれました。
理由などなく、ただ毎日がそうなっているのだと答えると、友だちも、上手く思い出せないと答えます。
友だちに頼まれ、シャドウボクシングをしてみせます。
いつしか、シャドウの相手は青志になっていました。
虚妄の中の対戦では、青志を追い詰めていたのでした。
【転】1R1分34秒 のあらすじ③
「ぼく」は、自分の意見を放棄してウメキチの指導に忠実に従いました。
気持ち良さや、拳に響く手ごたえより、ウメキチの指示や動きに合わせたパンチを打つ事に終始するようにします。
ウメキチの指導に疑問があっても、コミュニケーションが苦手な「ぼく」は訪ねる事もしませんでした。
ある日、ウメキチにショートアッパーを打ちたいのか、と問われます。
ショートアッパーは、青志と対戦した際、倒されたパンチでした。
ウメキチの言葉で、自分があのパンチを追い求めていたと気づきます。
ウメキチが、試しに「ぼく」に打ったアッパーに、「ぼく」は戦慄したのでした。
まさに青志にもらったアッパーと全く同じものでした。
それと同時に、負けた時の無念や恥ずかしさが思い出されました。
どんなに「立派に闘った」と言われても、敗けることも、倒されることも本当に恥ずかしいことだと改めて噛みしめます。
「ぼく」の減量方法と、生活習慣を聞いたウメキチは、起床時間やロードワークの時間を今までよりズラす事を提案します。
朝食をあまりしっかり食べない「ぼく」へ弁当まで持参し、食べるように告げます。
それが面倒くさく、「ぼく」は中身も見ずに弁当を捨ててしまうのでした。
友だちに誘われ、オペラ鑑賞に行きました。
そこで友だちが、ショートフィルムのコンペで最優秀賞に選ばれたと告げます。
「ぼく」は、本当なのかと友だちに問います。
友だちは、「嘘に決まってるだろ」と笑います。
しかし、嘘だろうが本当だろうが、その時感じた嫉妬の感情を苦々しく思ってしまうのでした。
【結】1R1分34秒 のあらすじ④
次の試合が決まりました。
友だちは、いつも試合が決まると小旅行をおごってくれます。
終電で北へ向かいます。
どこへ向かっているのか聞いても、「川」としか答えない友だちですが、着いた所は本当に、巨大な川でした。
友だちは大はしゃぎで、叫ぶながら走り回り、挙げ句の果てに激しく転倒して流血する始末です。
しかし、それでも真っ先にiPhoneの心配をし、カメラを「ぼく」へ向けるのでした。
シャドウして、と言われると、言われるがままシャドウしてみせます。
なぜか、友だちがカメラを構えている時だけ、素直になれる気がしていました。
「勝てよ」という友だちに、「いつだって勝つつもりでやってる」と本心から答えるのでした。
対戦相手が決まると、ウメキチが相手を徹底的に研究し、対戦相手に成り切ってスパーをしてくれました。
階級も違い、「ぼく」とは9キロ以上の差がありながらも、なりふり構わず練習相手になるウメキチに戸惑いを覚えます。
そしていつの間にか、タメ口でウメキチと会話をするようになっていました。
ウメキチから受け取る弁当も、捨てずに食べるようになります。
追い込みの練習と減量の日々の中、「ぼく」は、彼女と会いました。
セックスをし、試合への不安と恐怖を打ち明けてしまいます。
泣き言を全て受け止め、相槌を打ってくれる女を愛しいと感じます。
しかし、試合前のボクサーの激しい情緒の乱高下に付き合わせる覚悟は持てない「ぼく」は、翌日女に別れを切り出すのでした。
試合が近づくと疲労と減量はピークに達していました。
体重は落ちにくく、飢餓感と筋肉痛で身体中痛んでいた。
情緒の乱高下はすさまじく、ウメキチに八つ当たりをし、大泣きをし、人格は破綻寸前でした。
しかし、絶対に勝つという信念だけは持ち続けていたのでした。
一ラウンド一分三十四秒にTKOであっさり勝つ、あっけない結末の時まで。
1R1分34秒 を読んだ読書感想
文章がとても簡潔で読みやすかったです。
ただ、展開が早く、人物の名前表記が極端に少ないため、混乱する箇所も多かったです。
主人公の「ぼく」は、頭脳派ボクサー。
対戦相手はとことん分析します。
人付き合いが不得手だが、夢の中では対戦相手と無二の親友になってしまう不器用な人間です。
しかも、対戦後敗けると勝手に裏切られた気分になる始末です。
終始不器用で、もどかしく、人見知りの思春期の少年のようだと感じました。
ボクシングはあまり興味がなく、ルールもほとんど知りませんが、対戦中の描写などは臨場感があり楽しく読めました。
主人公の周りの登場人物の中で、特に強い個性を持っていたのは「友だち」です。
お互いを尊敬し合い、映画とボクシングという異なるジャンルながらも嫉妬し合っているようでした。
ラスト3行は、最高にカッコいいです。
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