舞台は魔法界、魔法の使えないマッシュ
この物語の舞台は魔法界、皆が当たり前のように魔法を使い、当たり前のように魔法が日常にある世界です。魔法は神から与えられたものとされ、魔法の巧拙によって身分が決まります。
そんな魔法界の深い森にこの世界と相反する存在、マッシュル・バーンデッドがいます。自分の体重の何十倍もあるバーベルをリズミカルに持ち上げていました。『筋トレ後のシュークリームは格別である』そう言って好物のシュークリームを頬張ります。
マッシュの父、レグロ・バーンデッドはシックでエレガントな75歳。彼は長年積み重ねた経験によってストレスを対処できるので、大概のことはイライラしません。
ポットが一人でに浮いて、レグロの手に持つカップに飲み物を注ぎます。優雅にカップを傾けたその時、部屋の扉が大きな音を立てました。
ガタガタッガタガタガタガタッ。しーん。バキッ。
『ルアアアアアッ』レグロは発狂しました。なぜドアを破って帰って来たのかマッシュに確認します。マッシュは押し戸か引き戸が分からなくなってなんとかしたかったと答えました。
マッシュは意図的に壊した訳ではありません。落ち込み反省するマッシュを見てレグロは、『すっげー素直なんじゃよな…毎回…』と不憫に思って怒るのをやめました。
ガッガッガッガッガッガッガッガッ
『ルアアアアアッ』『向き向き向き向き向き向きイイイイイイイ』『いや向きィッ』レグロはまたしても発狂してしまいました。マッシュが外したドアを横にして、付け直そうとするからです。
でもやはり、マッシュに悪気はなかったので、レグロはそれ以上怒ることはしませんでした。
『それよりも今日のメニューはこなしたのか』とレグロはマッシュに確認します。マッシュは『もちのろん』と答え、それから『…ずっと気になってたんだけど なんで筋トレばっかり…』とレグロに聞きました。レグロはマッシュが普通の人と違う、だから魔法が使えないんだと、言いかけやめました。
レグロは出かけると言います。それからマッシュには絶対に街へ出ないよう忠告しました。マッシュは肯き、レグロを見送ります。
ところが、マッシュはどうしても本日限り販売の”ゴブリンシュークリーム”が欲しかったのです。『ごめんじいちゃん背に腹は変えられないんだ』と呟き、街へ出かけてしまいました。
アザのないマッシュに対する周囲の反応
マッシュが街に来るのは久しぶりです。街の人々は相変わらず人力で出来ることに魔法を使っていると、マッシュは思います。
お目当てのゴブリンシュークリームを買い終えた時です。マッシュがかぶっていたローブのフードが、風邪でめくれてしまいました。周囲が一瞬にざわつきます。
マッシュは周囲の反応を不思議に思いましたが、それよりもゴブリンシュークリームを入手できた喜びが勝り気に留めませんでした。
マッシュが帰り道シュークリームを食べながら歩いていると、魔法警察の男、テリーにぶつかってしまいます。テリーは酒瓶を片手に街を巡回していたようです。テリーはマッシュに傲慢な態度で、制服がシュークリームで汚れたと文句を言いました。
そこにテリーの上司、ブラッドコールマンが現れます。ブラッドはすぐに、マッシュがさっき通報が子供だと分かりました。ブラッドがマッシュに歩み寄ろうとしたその時、レグロが凄まじい勢いでマッシュを回収し街を駆け抜けて行きます。
マッシュを抱えて自宅に戻ったレグロは、言いつけを守らなかったマッシュを叱り付けました。ところが、例の如くマッシュは明らかに深く落ち込み反省している様子です。レグロは『すっげー落ち込んでっし反省してんだよなーもうこれ以上は怒れないよホント』と思ってやはり怒るのをやめました。
レグロはマッシュに罰として朝の筋トレメニューも午後ももう一回こなすように告げます。マッシュは肯き、レグロの為に買っておいたシュークリームを渡して家を出ました。
魔法警察に知られたマッシュの存在
レグロは街の様子を思い返し、早急に対処しなければと焦ります。魔法警察にマッシュの存在が知れてしまいました。
突然、家の壁が突き破られ、ブラッドと二人の魔法警察が姿を現わしました。ブラッドがマッシュの居場所を尋ねます。不穏な雰囲気が漂いました。
マッシュは言いつけ通りの連載メニューをこなして、ものの十分程度で自宅に戻りました。
ドアノブを握って中の異変に気がつきます。ブラッドの話し声が聞こえました。”有史以来この世界で魔法が栄えているのは魔法の使えない者の血を徹底的に間引いていたから”、”アザのないマッシュルは生きていてはいけない”等、その内容はマッシュにとって初耳でした。
レグロはブラッドに魔法で拘束されながら、マッシュを拾った時のことを鮮明に思い出していました。良家の血筋に生まれながら、何事にも不出来だったレグロ。どこにも居場所を見いだせずレグロが飛び降り自殺をしようとしたその時、人気のない場所に置き去りにされていたマッシュを見つけました。マッシュの額にアザがありません。レグロはマッシュと自分を重ねました。その時レグロはマッシュに必要とされた気がして、その日以来マッシュの父親として生きています。
レグロはマッシュの父親であり続けました。『逃げろマッシュ!!』その場で大声で叫びます。
ドア越しにその叫びを聞いたマッシュは逃げませんでした。一人で魔法警察に立ち向かいます。レグロはなぜ逃げないのかとマッシュに聞きました。するとマッシュは『家族だから 僕にとって一人しかいない』と答えるのでした。
ブラッドは魔法局直属の警備隊時代にドラゴンを倒した魔法をマッシュに向かって放ちます。マッシュはビタンと素手で跳ね返しました。ブラッドは更に強い魔法を放ちます。マッシュなバチンと素手で跳ね返しました。仕舞いには連続で強力な魔法を打ち込みましたが、マッシュはバレーボールを打ち返す様に跳ね返します。
『いや自衛のためと思って筋トレさせてたのワシだけど…なる!?そこまで!?』とレグロも魔法警察と一緒になって驚愕してしまいました。
ブラッドはここでマッシュを捕らえる事は出来ません。そこで交渉を持ち掛けます。マッシュに”神覚者”となって、それに付属する金品や権利を寄越せというのです。”神覚者”とは神に選ばれし者です。魔法学校に通う者の中から選ばれ、選ばれれば世間に認められます。
この提案を断れば、マッシュとレグロを待つのは一生追われ続ける人生でした。
『またじいちゃんと平和に暮らしたいしそれができない世の中ならぶっ壊すしかないでしょグーパンで』と言って、マッシュは話にのりました。第2話へ続きます。
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