著者:彩瀬まる 2018年12月に双葉社から出版
珠玉の主要登場人物
真砂歩(まさごあゆむ)
二十代前半。真砂リズの孫。服装デザイナー。物語の語り手である〈私〉。
真砂リズ(まさごりず)
歩の祖母。かつて美少女歌手としてスターだった。
真砂秀久(まさごひでひさ)
真砂リズの元夫。歩の戸籍上の祖父。パールライトという芸能事務所の経営者。
木暮ジョージ(こぐれじょーじ)
パールライトに所属する芸能人。二十代後半くらい。
遠藤詩音(えんどうしおん)
歩といっしょに「no where」ブランドを立ち上げ、ジュエリーデザイナーとモデルを務める。
珠玉 の簡単なあらすじ
かつて、真砂リズという伝説的な美少女歌手がいました。
その孫の真砂歩は、平凡な容姿にコンプレックスをいだきつつ、友人とふたりで、地味なオリジナルブランド服を作っています。
しかし、その友人が愛想をつかして去っていき、仕事がうまくいかなくなります。
そこへ、芸能事務所をクビになったあやしげな男、ジョージが転がり込んできて……。
珠玉 の起承転結
【起】珠玉 のあらすじ①
かつて、真砂リズという、伝説的な美少女歌手がいました。
元々の造形が美しい上に、マネージャーが、神秘的に見えるように演出していたのです。
真砂歩はリズの孫ですが、容姿的にはパッとしない、二十代の少女です。
歩は、友人の詩音と二人で、オリジナルの洋服のデザイナーズブランドを運営していました。
けれとも売れ行きは悪く、歩自身が、リズのことばかり頭にあって、仕事にやる気を見せません。
とうとう詩音は歩に愛想をつかして、出ていったのでした。
歩は、芸能事務所を経営する祖父の秀久に、家賃を待ってくれるよう、頼みにいきます。
秀久は二つ返事でOKするものの、宿題として、そこでやっていたパーティの参加者の一人と親しくなって、一緒に出ていくように、と言いつけます。
歩は、木暮ジョージという、秀久から見捨てられつつある芸能人と話をして、秀久の家を出ます。
ジョージは、歩のパートナーになると約束しつつ、酔いつぶれました。
歩は、しかたなく、ジョージを自分の事務所に連れていって、寝かせました。
翌朝、ジョージは早起きして、さっそく仕事を取るべく、アクションを起こすのでした。
【承】珠玉 のあらすじ②
映画監督の土浦玄馬を前にして、衣装コンペが行われました。
そもそもは、詩音が抜けたために、一度は流れた仕事だったのを、ジョージが無理やりねじ込んだものです。
参加したのは、詩音と歩。
監督は、歩のアクセサリーはおもちゃっぽく、服はおばさんっぽい、とけなし、今回の仕事は詩音に仕事を任せる、と言います。
それでいて、詩音に対しても、情け容赦ない言葉を浴びせます。
歩は、涙をこらえて、その場をあとにしたのでした。
後日、ジョージは事務所のなかから金目のものをかき集め、買い取り業者に持っていきます。
そのなかには、祖母のリズが大切にしていた黒真珠もありました。
しかし、鑑定書がない、ということで、とりあえず取引は不成立となったのです。
そのあとジョージは、知り合いの女子に no whereのブランドのことを尋ねてまわります。
みな、知ってはいても、持ってはいません。
そんななか、彼の妹だけは持っていました。
容姿がよくないことを気にする彼女は、no whereなら自然に着ることができる、というのでした。
ジョージは歩に、リズからの呪縛から離れ、自分の道を行くようなブランドに方向転換することを勧めます。
そのために、まず、祖父の芸能事務所が保管しているリズの記録を見て、彼女のことをよく知るように勧めるのでした。
【転】珠玉 のあらすじ③
歩はリズのことを調べます。
調べていくうちに、本当のリズと、虚構のリズがわかってきました。
本当のリズは、確かに美少女の造形を持って生まれた、才能のある少女でした。
そこに、敏腕マネージャーが虚構を付けていったのです。
谷崎潤一郎の「痴人の愛」に出てくるナオミのような、男の情欲をそそる、魔性の女の仮面が、リズにかぶせられていきました。
リズは売れ、紅白にも出場します。
その一方で、雑誌は、リズのあることないことを勝手に書きたてたものでした。
やがてリズは自分の虚と実が入れ替わったかのように、男におぼれ、男をとっかえひっかえする、スキャンダラスな女へと変わっていきます。
そうして五十過ぎで、ガンのために亡くなったのでした。
リズのことを知ったせいか、歩のなかでなにかが変化します。
それまでの歩にとって、リズは、乗り越えることのできない、しかし愛されたいという、ひとつの壁でした。
それが少し変わり、歩は自分の進むべき方向を見つけたような気になりました。
そんなとき、ある女性政治家が、選挙のための服を、歩に依頼しにきました。
歩は、外との比較で服を作るのではなく、彼女の内面から出てくるものをつかんで、それを服に仕立てるべきだと考えたのでした。
【結】珠玉 のあらすじ④
日一日と、歩は市事に集中していきます。
ジョージは、どうしたのか、と訊きます。
歩みは答えます、「自分はこれまでリズに褒められる服を作ろうとしていた。
でも今は、リズに気に入られなくても、自分がこれだ、と思う服を作ることにした」と。
自立した歩から離れようと決めたジョージは、歩がリズから受け継いだ天然黒真珠を持ち出し、売り払って、当座の資金にしようとします。
ところが、業者に持ち込むと、ちょうど秀久が書いたリズの回顧録が出版されたところでした。
その本によると、ジョージが持ち込んだ黒真珠は養殖物だというのでした。
そこへ歩から、「助けて」という連絡がきました。
ジョージは急いで引き返します。
回顧録のせいで、歩のところへ記者たちが押しかけていました。
回顧録によると、リズは、母と進駐軍のアメリカ兵との混血児だったのです。
リズの美しさは、混血のせいでした。
群がる記者や電話を、ジョージがしりぞけてくれました。
ふだんは交流のない歩の母親も、心配して駆けつけてくれました。
さて、そんな騒ぎがありましたが、女性政治家から依頼された二着のスーツが、無事にできあがりました。
内側には、お守りのように百合の花を刺繍してあります。
二着とも、依頼主に気に入ってもらえました。
歩は、自分から離れていこうとするジョージを引きとめ、新しいブランド、nobanaの一員になってもらいます。
彼の助けを借り、芸能関係者を集めた披露パーティーで、歩はしっかりと自分の考えを述べたのでした。
珠玉 を読んだ読書感想
祖母であるリズの呪縛にしばられて、自分の才能を伸ばせなかったファッションデザイナーが、その呪縛から解き放たれて、自分の道を歩き始める、という、それほど複雑ではないストーリーです。
著者はそこに、リズの愛用のアクセサリーについていた真珠と、歩のお気に入りのアクセサリーである模造真珠を擬人化し、彼らの視点と、歩の視点を切り替えて描くことで、物語に複雑な厚みを持たせることに成功しました。
たとえば、ジョージという男について、主人公の歩の視点で見た表の顔と、真珠たちの視点で見た裏の顔が描かれ、「この男、何をやらかすのかな?」と思ってハラハラドキドキするのです。
また、天然真珠のキシの秘密が途中で暴かれて驚かされ、ラストでは、キシに幸せな終わり方が待っていて、ホロリとさせられます。
青春ファンタジーとして、心地よいひとときを過ごさせてくれる作品でした。
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