著者:今村昌弘 2017年10月に東京創元社から出版
屍人荘の殺人の主要登場人物
葉村護(はむらゆずる)
当作品の主人公。ミステリ愛好会の一員。明智の助手として推理勝負をしたり、明智に振り回される日々を送る。中学時代に震災に被災した過去を持つ。
明智恭介(あけちきょうすけ)
自称「神紅のホームズ」で、ミステリ愛好会の会長。様々な事件に首を突っ込みたがる。
剣崎比留子(けんざきひるこ)
葉村たちと同じ大学に通う、美しきお嬢様。数々の難事件を解決してきた探偵少女として有名だが、実は事件を引き寄せてしまうという特異的な体質の持ち主。
屍人荘の殺人 の簡単なあらすじ
神紅大学ミステリ愛好会の葉村譲と会長の明智恭介は、映画研究部の夏合宿へ加わるために、探偵少女として有名な剣崎比留子と共に「紫湛荘」というペンションを訪ねます。
なんと去年の夏合宿後には参加者の一人が自殺しているらしく、不穏な空気が漂います。
そんな中、予想外の出来事が起こり、一行は紫湛荘に閉じ込められてしまいます。
しかも参加者の一人が密室で何者かに殺害され、恐ろしい連続殺人事件が始まります。
屍人荘の殺人 の起承転結
【起】屍人荘の殺人 のあらすじ①
神紅大学に入学した葉村譲は、明智恭介という変わり者の先輩によってミステリ愛好会という大学非公認団体に引っ張り込まれます。
ミステリへの情熱と事件解決への意欲を持ちながらも、会員わずか2名という弱小サークルで、葉村は推理ゲームで勝負をしたり、明智の助手として振り回される日々を送ります。
夏休みが近く頃、「ペンションで行う夏合宿」という、ミステリにお誂え向きのシチュエーションを聞きつけた明智は、主催の映像研にしつこく参加を頼みますが、断られてしまいます。
諦めムードの中、同じ大学に通う美少女探偵・剣崎比留子が突然現れ、葉村たちに映研の合宿へ同行する「取引」を持ち掛けます。
実は合宿の目的はOBたちのためのコンパで、部外者が入れないのはもう客室が空いてないからでした。
ところが映研に「今年の生贄は誰だ」と赤字で書かれた脅迫状が届き、それが原因で部員たちは次々と合宿を辞退していました。
剣崎の提案は、コンパ目的なら女の子が増えればOKだから、彼女も加えて3人で合宿に参加するというものでした。
なぜ剣崎はこの話を持ちかけてきたのか?疑問を持つ葉村でしたが、剣崎はそれを聞かないことが取引の条件だと意味深なことを告げます。
是が非でも合宿に参加したい明智は、もちろん剣崎の取引に応じます。
そして3人はいわくつきの映研の夏合宿に参加するため、ペンション紫湛荘(しじんそう)を訪れます。
【承】屍人荘の殺人 のあらすじ②
かつて班目(まだらめ)機関という謎に包まれた薬品研究所が、危険な研究を繰り返し、特異集団とみなされて解体されていました。
しかし、その研究資料を受け継いだ男が存在します。
その人物は儀宣大学の生物学准教授・浜坂智教です。
浜坂は5人の部下を連れて、ある山中の廃ホテルにいました。
彼らは自分たちの成果を世に知らしめるために潜伏しています。
その成果とは、バイオテロ。
ウィルスをばらまき、人間をゾンビ(屍人)にすることでした。
彼らは目をつけたロックフェスの数万人の観客をゾンビにしようと決行します。
葉村たちはそのロックフェスの近くに泊まっていました。
そして、肝試しを行っている最中、ウイルスに感染してゾンビ化した人間たちに襲われてしまいます。
ペンションのオーナーの趣味で飾られていた西洋の不器を手にしてゾンビと戦う一行ですが、ゾンビの数が多すぎてキリがありません。
とにかく建物へ避難してガラス扉のシャッターを閉めようとしたその時、広場の階段に明智の姿が見えます。
明智は一緒に逃げていた合宿仲間を先に逃がし、続けて駆け出そうとする直前、足をつかまれてゾンビに噛まれてしまいます。
そしてそのまま、明智は階段から落下していきました。
ゾンビの群れから逃げきったメンバーは紫湛荘に立て籠もる事を余儀なくされました。
【転】屍人荘の殺人 のあらすじ③
あっという間に一階がゾンビに占拠され、二階の階段にバリケードを作りますが、いつまで持つかわからない状況です。
電波が繋がらず助けを呼ぶこともできません。
逃げられない空間で極限状態に置かれる面々。
ですが恐怖はそれだけではありませんでした。
ゾンビに囲まれた空間で、背筋も凍るような連続殺人が起こるのです。
最初の被害者は映研部長の進藤です。
紫湛荘の自室で遺体が発見されました。
紫湛荘の個室はオートロックタイプなので、密室殺人になります。
進藤の遺体はボロボロに噛み千切られていて、まさにゾンビに襲われたように見えます。
ですが、部屋の内外にはそれぞれ「いただきます」「ごちそうさま」という謎の紙が差し込まれていました。
ゾンビは知能がないので、人間の仕業だということになります。
次の被害者はOBの立浪です。
犯人は睡眠薬で立浪を眠らせた後、エレベーターに乗せました。
エレベーターの行き先はゾンビに占拠されている1階です。
犯人の思惑通り、立浪はゾンビに噛まれて命を落とします。
立浪の死体をエレベーターで2階に戻した犯人は、ゾンビ化した立浪を鈍器で殴り、頭部をぐちゃぐちゃに潰しました。
最後の被害者はOBの七宮です。
彼はずっとペンションの自室にこもっていたのですが、いつのまにか死んでいました。
遺体には目立った外傷はなく、何かしらの毒物が使われた可能性が高いと判断できます。
【結】屍人荘の殺人 のあらすじ④
ゾンビは3階まで侵攻しており、逃げられる場所はとうとう屋上のみとなります。
そんな中、剣崎による殺人事件の謎解きが始まりました。
第一の進藤殺害事件の真相は、実は人間が進藤を殺したのではなく、ゾンビ化してしまった進藤の恋人によって殺されたのでした。
しかしその場面を見た人物が、わざと人間が殺したように細工をして、自分のアリバイを作ろうと画策したのです。
第二の立浪殺害事件で犯人は、立浪と一緒に銅像をエレベーター内に乗せていました。
大人4人までという重量制限があるエレベーターでは、ゾンビが乗った状態では動きません。
こうして1階でゾンビに立浪を噛ませ、その遺体だけを2階に引き上げることに成功した犯人は、ゾンビになった立浪を鈍器で殴り殺します。
つまり、立浪は二回殺されたわけです。
第三の七宮殺害事件では、犯人はゾンビ化した人間の血を七宮の目薬に入れておいたのです。
ゾンビ化現象は感染するので、目薬をさした七宮はゾンビになってしまいました。
これら連続殺人事件の背景には、去年の合宿で、立浪が手を出した女子部員の件が関係していました。
実はその女子部員は妊娠していたのです。
彼女は退学をして実家に帰り、妊娠していることを立浪に告げましたが、立浪からはお金が送られてきただけでした。
絶望した女子部員は自ら命を絶ってしまいます。
今回の殺人事件の犯人は、その女子部員を姉のように慕っていた静原という女子部員でした。
事件解決した後、葉村たちは屋上へと避難します。
葉村が屋上の扉を閉めようとしたその時、目の前に明智の姿が現れました。
ゾンビ化した明智に襲われかけた葉村を、比留子が救います。
また静原は逃げる途中でゾンビに噛まれてしまい、最後は自ら屋上から飛び降り、命を絶ちました。
その後、政府による救助ヘリが到着し、生き残った面々は無事に紫湛荘から脱出します。
ゾンビたちは政府によって鎮圧に成功し、事なきを得ました。
屍人荘の殺人 を読んだ読書感想
この作品は、綿密に張り巡らされた伏線と、まさかのゾンビ襲撃という予想外の出来事が融合して、これまでになかった新感覚のミステリーになっています。
閉ざされた空間の中でいつゾンビに襲われるか分からない恐怖と、背筋も凍るような殺人の手口が怖かったです。
また、登場人物一人一人の個性が強いため、長編ミステリーにありがちな「この人、誰だったっけ?」という煩わしさも感じられず、最後までスピード感良く読むことができます。
個人的には、作品の主要人物かと思われた明智恭介が、あまり活躍しないままに物語の序盤で脱落し、最終的にゾンビとして刺されて死ぬというのは斬新かつ衝撃的でした。
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