著者:永尾和子 2016年9月に銀の鈴社から出版
カリヨンを聞くふたりの主要登場人物
紀子(のりこ)
ヒロイン。都内の教材販売会社で規則正しく働く。変化のない毎日に物足りなさを感じている。
美紗(みさ)
紀子の同僚。キャリアと家庭の両立に行き詰まる。
真希(まき)
紀子の幼なじみ。商社勤務の経験をいかして英会話教室のオーナーになる。
エレン(えれん)
真希のビジネスパートナー。教科書やマニュアルに頼らない指導法で評判がある。
三谷(みたに)
勤め先は外資系でヨーロッパ圏によく行く。医療から歴史までと知識が広い。
カリヨンを聞くふたり の簡単なあらすじ
40代に突入したのを期に辞めた紀子でしたが、はっきりとした次の目標ややりたいことがある訳ではありません。
スキルアップにつながることが何かないかと探ししていた矢先に、10年ぶりに再会を果たしたお相手が三谷です。
世界各地を多忙に飛び回る三谷とは行く先々で偶然に鉢合わせをすることになり、ついにはプロポーズを受けるのでした。
カリヨンを聞くふたり の起承転結
【起】カリヨンを聞くふたり のあらすじ①
英語教材の会社に入った紀子は与えられた仕事をこなしながら、40歳まではひたすら平穏な道のりを歩んできました。
誰にも相談せずに辞表を提出したのが11月、同期入社の美紗は送別会で結婚か転職かとしつこく聞いてきます。
美紗の方は大学の先輩と結婚、ふたりの子どもを授かった後に離婚と波乱にみちた20年を送ってきたようです。
乾杯のワインを飲み過ぎたのか翌朝目が覚めたのは平日の午前11時、この時間帯に家にいるのは久しぶりで自分がどこに向かっているのかも分かりません。
地方鉄道のひなびた木造の小さな駅で降りて10分くらい歩くと、広がる田んぼの真ん中に紀子が生まれ育った家が見えてきます。
2年ぶりに福岡県の実家に帰ってみましたが、すでに空き家になっていて誰も住んでいません。
家の跡継ぎだった兄は突然の事故死、父をみとった母、その母は入院先で自殺… お墓の前で手を合わせた紀子は、わずか2年のあいだに家族に降りかかった不幸の数々を思い出していました。
【承】カリヨンを聞くふたり のあらすじ②
エレベーターを出て右に行けばレストラン街、左をまっすぐに進むと突き当たりによく行く本屋がありました。
デパートの7階にテナントとして入っていて、ビジネス書や啓発本などの種類もそれなりに充実しています。
レジに並んでいる時に声をかけてきた男性は三谷で前に会ったのは10年前、場所はドイツ南部ニュルンベルクで紀子は友人と海外旅行中、三谷は製薬会社の支社に出張中。
カフェでコーヒーをごちそうになった後に自宅の電話番号が書かれた名刺を手渡されましたが、紀子は彼が既婚者であることを忘れてはいません。
忙しくも順調だという三谷に刺激を受けて、紀子が電話をかけたのが真希。
小学生の時から仲良くしてきた彼女は大手の商社を退社した後、住宅街を抜けた角地にあるビルの一室を借りて英会話を教えているそうです。
真希と一緒にこの教室を立ち上げのはアメリカからやって来たエレン、賛否両論はありますが授業は活気があふれています。
来月には大学生2人と主婦3人による英国語学研修があって、その引率を紀子が引き受けることになりました。
【転】カリヨンを聞くふたり のあらすじ③
ピーターラビットが出てきそうな田舎町のコッツウォルズ、シェイクスピアの生地として名高いストラトフォード・アポン・エイボン、古代ローマ帝国の面影があるバース… UKブリストル空港からタクシーで生徒たちをそれぞれのホームステイ先に送り届けた紀子は、想像していた通りのイギリスの風景を楽しんでいました。
現地の事務室ではオリエンテーションやクラス分けのテストを任されたりと、これまでとは違った自分を見つけた気持ちです。
帰国はベルギー経由で北西部にあるブルージュの小さなホテルで待機していると、ラウンジでコーヒーを飲んでいる三谷の姿が。
目があった途端にふたりは手を取り合い、お互いにフライトの時刻が迫っていますが駆け出します。
どうしても見ておきたかったのが中心地にそびえる鐘楼、高さ83メートルで階段は366段、47個の「カリヨン」と呼ばれる組み鐘が特徴的です。
上りきった場所の見晴らしはフランドル地方が一望できて、カリヨン奏者が鍵盤を使って鳴らす音色は紀子と三谷を祝福しているかのようでした。
【結】カリヨンを聞くふたり のあらすじ④
3カ月ぶりに帰国してマンションのカギを回した紀子でしたが、室内は静まりかえっていてしばらくは何も手につきません。
ドイツでやり残したことがあるという三谷から、毎週の土曜日から日曜日にかけてかかってくる電話が何よりもの楽しみです。
来月には45歳になること、ふたりの息子は大学生になって家を出ていること、妻は子どもたちが小学生の時に病気で亡くなったこと。
海外赴任が終わってすぐに関西に行かなけれはならないという三谷と、紀子は東京駅の新幹線ホームで待ち合わせをしました。
山手線から常磐線を乗り継いで柏駅で下車、車を走らせて30分くらいで手賀沼へ。
今では住宅が立ち並んでいるこの沼地には、三谷が敬愛している前々から訪れてみたかったという杉村廣太郎記念館があります。
明治から昭和にかけて活躍したジャーナリスト、エッセイに俳句、外国語も堪能。
幅の豊かな人間に憧れているという三谷から結婚を申し込まれた瞬間、紀子の鼓動はカリヨンのように優しいリズムで高まっていくのでした。
カリヨンを聞くふたり を読んだ読書感想
自宅と職場を延々と行き来するような日々に退屈さを覚えることは、誰しもが1度や2度は経験したことがあるでしょう。
しかしながらアラフォーにしてこれまで積み上げてきたキャリアを投げ捨てるという、主人公の紀子の決断は簡単にはまねできません。
東京、九州、イギリス、ベルギーと物語の舞台は目まぐるしく移り変わっていき、千葉県柏市という終着駅のチョイスには意外性がありますね。
人生の充電期間ともいえる数カ月で、英気をしっかりと養った紀子。
プライベートでも幸せを手にして、まだ見ぬ新天地へと突き進んでいくかのようなラストが清々しいです。
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