著者:足立紳 2016年12月に幻冬舎から出版
14の夜の主要登場人物
大山タカシ(おおやまたかし)
主人公。妄想だけは達者な中学3年生。身長は163センチで伸び悩んでいる。
大山忠雄(おおやまただお)
タカシの父。高校教師だが小説家になる夢もあきらめてない。
ミツル(みつる)
タカシの幼なじみ。普段は寝技の実験台にされているがキレると強い。
金田(かねだ)
タカシのクラスメート。暴走族と付き合いがあり女子の体にも平気で触る。
早目優(はやめゆう)
嫌々ながらレンタルビデオ店の雇われ店長をする。アイドルグループのメンバーとしては不発で終わった。
14の夜 の簡単なあらすじ
1980年代後半、田舎暮らしとさえない父親に退屈していた大山タカシはAV女優に会えるとのうわさ話を信じて真夜中のレンタルビデオ屋を訪ねます。
ビデオの中の女優ではなく生身の店員との肉体的な触れあいで満足したタカシ、この日をきっかけに俳優業に進んでいくことに。
芽が出ないもののそれなりに充実した日々を歩んでいき、中年期を迎えた頃に地元の友だちと再会を果たすのでした。
14の夜 の起承転結
【起】14の夜 のあらすじ①
大山タカシが中学最後の夏休みに入って間もない1987年8月、父親の忠雄は小説コンクールの1次審査に落選しました。
ヤケ酒をひっかけてオートバイで接触事故を起こしてしまったために、勤め先の高校からは謹慎処分を言い渡されます。
毎日のように家にいる父にウンザリしている時に耳にしたのが、「ワールド」の1周年記念のイベントです。
鳥取県の田舎町にようやくできた1軒のレンタルビデオショップで、よくしまる今日子のサイン会があるとのこと。
アダルトビデオやグラビア雑誌でその巨乳を披露しているタレントで、実物を見られるとなると居ても立ってもいられません。
川北中学校の道場に顔を出してみましたが、顧問は来ていないようで部員たちが畳の上で寝転んでいます。
黒帯の竹内、たくさんの投げ技を知っている岡田、特に特徴のないタカシ、使いぱしりばかりさせられているミツル… 弱小柔道部にも自然とヒエラルキーが形成されていて、竹内を先頭にしてワールドの店内を歩き回りましたがサイン会の情報はありません。
【承】14の夜 のあらすじ②
店を出た途端に絡んできたのが不良グループを束ねている金田で、先日忠雄がバイクではねたのは彼の先輩だそうです。
そのまま町外れの砲台場まで連れてこられたタカシたち、頼りになりそうな竹内は熱があるとか来ていません。
江戸末期に鳥取藩が設置した海岸防備の要所で、当時の原型を保存している日本唯一のものだと歴史の授業で習っています。
高級そうなカメラを手に押し付けてきた金田、幕末に多くの維新志士が亡くなったこの場所で幽霊の写真を撮ってこいとの無理難題。
岡田も逃げ出してしまい残るはタカシとミツルだけ、震えながらシャッターを押しましたが暗闇でフラッシュをたいたために何も写ってはいないでしょう。
小学校の6年間ずっと同じクラスだったミツルでしたが、母親はおらず父親は昼間からお酒を飲んでいるかパチンコをしているかです。
家庭環境を心配したタカシの母親が時おり夕食に招待していましたが、その時間は思い出すだけでも苦痛だったとのこと。
数発のパンチを顔面に見舞ってきたミツルは、物悲しげな目をして闇に消えていきました。
【転】14の夜 のあらすじ③
散々だった8月6日が終わってすでに日付が変わっていましたが、よくしまる今日子に会えれば何かが変わるかもしれません。
ワールドのカウンターには化粧の濃い女性がひとりで店番をしているだけで、タカシは誘われるままに彼女の前に右手を差し出します。
服の上から揉んでみた乳房は意外にもツルツルとしていましたが、この上なく幸せな気持ちです。
東京でアイドルをしていたという彼女は早目優、サインを書くのも慣れたものでサラサラと「よくしまる今日子」と書いて渡してくれました。
翌朝になって色紙をみんなに見せると大興奮で、あの金田まで「根性があるな」とほめてくれて偽物だとは疑っていません。
早目とはおすすめの映画を紹介し合うようになりましたが、カーテンのかかった18禁コーナーで裏営業をしていたとかで辞めさせられてしまいました。
高校生になるとワールドは閉店しますが、映画部に入ったタカシはジャッキー・チェンに憧れ始めます。
柔道部を引退した途端に竹内たちとは疎遠になっていきますが、更正して家業の建設業を手伝っている金田とは時たま連絡し合う仲です。
【結】14の夜 のあらすじ④
間もなく40歳を迎えようとしていたタカシはアルバイトをしながら俳優事務所に所属していましたが、妻の方が収入が多いために文句を言われていました。
退職後に文芸雑誌に投稿した短編で新人賞をもらった忠雄は、「もう少しだけ頑張ってみなさい」アドバイスしてきます。
久しぶりに川西中の同窓会に出席してみると、実家の新聞配達所を継いだ竹内と都内で服飾関係の講師をしている岡田の姿が。
ふたりともタカシの事務所のホームページをしっかりとチェックして、出演作は欠かさずに見てくれているそうです。
交通事故に遭って車イス生活をしていた父親を悲観して、5年前に無理心中をしたというミツルだけはこの場に来ていません。
クラスの中でも1番の出世頭である金田が遅れて顔を出すと、大きな歓声が湧いて会場のムードも一気に明るくなっていきます。
金田グループの社長として貫禄が出てきましたが、あの頃と変わらないままの笑顔でズンズンとタカシの方へ歩いてくるのでした。
14の夜 を読んだ読書感想
ヤンキーにも優等生にもなれずに、文科系にも体育会系にも所属していない無色透明のような少年が主人公です。
そんな大山タカシを外の世界へと導くのが、ビデオテープだというのが時代を感じさせますね。
スマートフォンにタッチするだけで見たいものにも知りたいことにもアクセスできる、今の若い世代の方からすると想像するのは難しいかもしれません。
「よくしまる今日子」や「早目優」というネーミングセンスには、80年代に青春を満喫した皆さんはニヤリとしてしまうでしょう。
中学生があっという間に中年になってしまう終盤の展開に驚かされつつ、浮き沈みの激しい彼らの人生にしみじみとしてしまいました。
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