著者:ドリアン助川 2013年2月にポプラ社から出版
あんの主要登場人物
徳江
ハンセン病を患って、しかしそれでも真面目に生きていこうとしている老婦人。どら焼きの餡作りが上手い。
千太郎
とあるフランチャイズのどら焼き屋の店長。どら焼きを作っては売る生活を繰り返している。
ワカナ
ペット禁止のアパートでカナリアの「マーヴィー」を飼っている少女。徳江にマーヴィーを託す。
あん の簡単なあらすじ
『あん』はハンセン病というナイーブで社会的なテーマをうまくどら焼き店長の個人的な人生のストーリーと絡めて描いた作品です。
千太郎は、雇われ店長として、よくもなければ悪くもない、ただどら焼きを作る生活をしていましたが、食べたことのないほどおいしい「あん」を作る女性との出会い、その徳江さんにハンセン病患者への嘲笑的なまなざしが向けられたことが千太郎の人生をも変えるというストーリーになっています。
あん の起承転結
【起】あん のあらすじ①
いつも通りに千太郎がどら焼きを一人で作っては一人で売る生活をしていた時の話です。
徳江と名乗るその女性は、先太郎が雇われでオーナーをしている街の小さなどら焼き屋さんで雇ってほしいと言います。
千太郎は初めはこの老婦人を雇いたくないという姿勢をあからさまに出しますが、そのおばあさんが作ったというあんを食べてみてからというもの、徳江さんに対する評価が彼の中で一変することになりました。
試しに徳江さんが持ってきたどら焼きの「餡」を試食してみると、とても甘く作られていて、美味しい餡なのでした。
そこで徳江さんにもどら焼き屋で働いてもらうことにした千太郎は丁寧に、時間をかけて朝早くからあんを作る徳江さんを見ることになります。
徳江さんは、非常に丁寧に、時間と手間をかけて餡を作るので、その結果非常においしい餡ができるのでした。
そんな徳江さんとの協同でのどら焼き屋運営が始まってからというもの、お店の評判は少しずつ上がっていくのでした。
【承】あん のあらすじ②
彼女が指導して作るあんでどら焼きを作ると、いままで作っていたどら焼きとは比べ物にならない程においしいどら焼きが作れることが分かりました。
千太郎が一人で作っていたどら焼きは、徳江さんのあんが加わることで、最高においしいどら焼きになったのでした。
その効果はすぐに表れ始め、先太郎の店のどら焼きがおいしいと知ったお客さんが集まったことでお店も繁盛しました。
時にはどら焼きの餡を早朝から仕込んでおいた分が営業時間終了前に完売してしまうこともあるほどに、美味しいどら焼きが作れるようになりました。
人生に意味を見出せずにいた千太郎と、対照的に、らい病(ハンセン病)を背負って体が曲がっていても前を向くことができている徳江。
そんな真面目で前向きな徳江さんの姿を見て、また交流を通して、千太郎もまた前を向くことができるようになっていきました。
この時は、どら焼きも売れて、徳江さんの影響もあり、ポジティブな毎日が続くかと思われました。
【転】あん のあらすじ③
徳江さんの美味しい餡を包んだどら焼きが売れていく一方で、街には悪いうわさが広まりつつありました。
それは、徳江さんがらい病(ハンセン病)の患者ではないかというものです。
徳江さんの指は奇妙に曲がっており、彼女はハンセン病の患者の方が人生を過ごす施設から来た人なのではないかと悪いうわさが立ってしまいます。
指が曲がっていることから、それがどのような事情によるものなのかお客さんに聞かれたときに、徳江自身で「病気をしていた」ということを伝えてしまったのです。
それ以来、悪いうわさが元凶となってお客さんはぱったりと来なくなってしまいます。
千太郎はハンセン病であろうと何であろうと徳江さんと一緒に働いていたいと感じているのですが、お客さんが来ない以上、和菓子を作ってもそれを売る相手がいなくなってしまいました。
そしてとうとう、オーナーに当たる人から、徳江をやめさせてほしいという内容の話を受けてしまいます。
オーナーはハンセン病の評判を気にする人だったのです。
【結】あん のあらすじ④
徳江さんは店に来なくなって同時に療養所へと帰っていきました。
彼女はどら焼き屋で働いた時間のことを楽しかったと感じていますが、それでも千太郎に迷惑をかけてどら焼き屋に復帰するということはできませんでした。
千太郎とワカナがハンセン病患者の療養所に会いに行くと、久しぶりに会った徳江さんは少し体調が悪い感じになっていました。
千太郎は、自分自身の責任で前科を負ってしまっているという事情があり、徳江さんの社会に対する引け目、それも彼女は何も悪くない引け目について少しだけ理解できるのでした。
そんな千太郎は、それでもポジティブにどら焼き屋での思い出を振り返る徳江さんを前に涙します。
千太郎は徳江さんに帰ってきてほしいと願うのですが、徳江さんはそのまま療養所で一生を終えてしまいます。
また、ワカナが徳江さんに預けたカナリアも、徳江さんは自由にするために放してあげたということが後になってわかるのでした。
徳江さんは、最後まで最も弱いものへの気遣いを忘れませんでした。
あん を読んだ読書感想
徳江さんが間違いなくこの文学作品のカギとなっています。
徳江さん自身が社会の中で最も弱い立場に置かれている中で、弱いもの、強いもの、その中間に置かれたすべてのものが社会の中でいかにして過ごすべきかという人生の哲学が貫かれてこの作品において千太郎にも多大な影響を与え、その人生観は千太郎を通して私たちにも語り掛けてきます。
常に弱いものへの配慮を忘れずに、ポジティブに、一瞬一瞬をいつくしんで生きていくスタイルは、私自身も真似したいと思いました。
『あん』の登場人物は二人とも少数派のバックグラウンドを持っていますが誰でもこの話から感じ取れるメッセージと感情があります。
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