著者:今村夏子 2011年1月に筑摩書房から出版
こちらあみ子の主要登場人物
田中あみ子(たなかあみこ)
ヒロイン。小学校の高学年だが欠席が多い。落ち着きがなくみんなと合わせるのが苦手。
田中孝太(こうた)
あみ子の兄。幼少期はおとなしかったが突如として非行に走る。
鷲尾佳範(わしおよしのり)
さゆりの教え子。飲み込みが早く字がきれい。
田中さゆり(たなかさゆり)
あみ子の義母。書道の心得があり料理も得意だが神経質。
こちらあみ子 の簡単なあらすじ
小学校に通っている田中あみ子でしたが、先生から叱られてばかりでクラスメートとも一向に仲良くなれません。
唯一の話し相手になってくれるのは、父の再婚相手・さゆりの書道教室の生徒の中でも1番に優秀な鷲尾佳範です。
中学校になると佳範とも決定的なトラブルを起こしてしまい、あみ子は進学をあきらめて父方の祖母のもとに身を寄せるのでした。
こちらあみ子 の起承転結
【起】こちらあみ子 のあらすじ①
家族3人で暮らしていた田中あみ子が、初めて父親の交際相手・さゆりを紹介されたのは喫茶店です。
兄の孝太が好きな食べ物はお肉、あみ子の最近のマイブームはホットケーキ。
きょうだいの答えを熱心にメモ帳に書き込んでいたさゆりは、間もなく田中一家に加わって新しいお母さんとなりました。
縁側に面した8畳ほどの和室に赤いじゅうたんを敷き詰めて横長の机を並べて、近所の子供たちに習字を教えるために解放します。
「赤い部屋」と呼ばれるようになったここで他の子とは比べ物にならないくらい書体が整っているのが、サラサラとした前髪の男の子です。
半紙には「3年3組 鷲尾佳範」と書かれていましたが、小学校をさぼってばかりのあみ子には読み仮名が分かりません。
「のり君」とあだ名を付けた彼が同じクラスにいると知ったあみ子は、次の日になるとさっそく話しかけてみました。
佳範とすればかなりの風変わりだと評判のあみ子に関わりたくはありませんが、さゆりから頼まれているために渋々一緒に下校するようにしています。
【承】こちらあみ子 のあらすじ②
授業中には歌をうたったり机にお絵かき、給食の時間には素手でカレーを完食、帰宅後にはテレビとおやつに夢中… 10歳になっても担任を困らせてばかりのあみ子でしたが、父から誕生日プレゼントとしてトランシーバーをプレゼントしてもらいました。
みんなが夢中で見ているアニメに出てくる必須アイテムで、2台で1セットになっていますがあみ子には遊び相手がいません。
そんな最中にさゆりのおなかが大きくなってきて、ちようど3カ月後には女の赤ちゃんが誕生するとのこと。
妹に片方のトランシーバーを渡して「こちらあみ子」とメッセージを送るのを楽しみにしていましたが、臨月を待たずに流産してしまいます。
すっかり落ち込んだ様子のさゆりは一日中寝室に閉じこもったままで、以前には熱心だった手料理にも興味を示しません。
カラーボックスに仕舞い込んでいたトランシーバーを久しぶりに取り出したあみ子は、電源ボタンを入れて耳に当ててみましたが何も聞こえません。
【転】こちらあみ子 のあらすじ③
あみ子が地域内にある公立中学校に進んだ頃、孝太は髪の毛をライオンのように染め上げました。
暴走族にも加入したせいで田中書道教室の生徒数は一気に激減してしまいましたが、佳範だけは毎週のように通ってきます。
決定的だったのはある日の指導中に赤い部屋に乱入してきた孝太が、佳範が提出したばかりの月謝袋を力ずくで奪い取ってしまったことです。
教室の閉鎖によって佳範と顔を合わせる機会がなくなったあみ子は、ボサボサの頭のままで登校するようになりお風呂にも入っていません。
あみ子をトイレに呼び出して順番に蹴ってきた3〜4人の女子生徒たちも、あの「田中先輩」の妹だと知った途端に慌てて逃げ出しました。
期末テストの順位、全国模試の結果、三者面談での進路相談… どれもまるでお話にならないあみ子は、フラフラと廊下を歩いているか保健室で寝ているか。
一方の佳範は寝不足になるほど受験勉強に打ち込んでいて、ある時に具合が悪くなって隣のベッドに運ばれてきます。
【結】こちらあみ子 のあらすじ④
保健教諭が席を外したすきにあみ子は思いきって「好き」と伝えてみましたが、佳範から顔面を殴られてしまいました。
2本ある前歯のうちの1本、その内側に隣り合う歯が1本、さらにその奥にある八重歯が1本。
合わせて3本の歯が折れたあみ子は父の運転する車で病院まで運ばれましたが、「転んだ拍子にどこかの角にぶつけた」としか言いません。
抜糸を終えて4日ほどたった頃にはこれまでと同じように会話・食事ができるようになりましたが、この事件がきっかけで保健室登校も辞めてしまいます。
心療内科に通院しながら入退院を繰り返しているさゆり、いよいよ家に帰ってこなくなった孝太。
心機一転して田中家を立て直すために父が思い付いたのは、母親の住む田舎町に移って1からやり直すことです。
あみ子に取っては祖母に当たる女性は優しい性格で、農作業を手伝ってくれるような働き者を探しています。
卒業式に出席したあみ子の目的は佳範と言葉を交わすことではなく、掲示板に貼り出されている習字の作品を見ること。
相変わらず「鷲尾佳範」が読めないあみ子は通りすがりの男子に教えてもらい、「わしおよしのり」だけはいつまでも忘れないことを誓うのでした。
こちらあみ子 を読んだ読書感想
ボクシングに夢中で常に軽やかなステップを踏んでいるという、ちょっぴりエキセントリックな女の子・田中あみ子が主人公。
当然ながら女子グループの中にすんなりと溶け込んだり、男子とお近づきになる時にも空気を読むことなどできません。
そんな彼女にとっては初恋のお相手、鷲尾佳範はいかにも大人びた秀才といったタイプでした。
墨と半紙を使ってお互いの思いを交換する仲になるなるのかと思いきや、漢字の読み書きが苦手だというのは致命傷ですね。
勇気を振り絞って気持ちを伝えた結果はあまりにも残酷ですが、新天地でもマイペースであろうあみ子がステキな男性に出会うことを願いたいです。
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