著者:佐々木愛 2019年9月に文藝春秋から出版
プルースト効果の実験と結果の主要登場人物
長田(おさだ)
ヒロイン。見た目も学力も平凡な女子高校生。東京での大学生活に何となく憧れている。
小川(おがわ)
長田のクラスメイト。歯医者の息子だが文学青年で家業を継ぐ気はない。
マサコ(まさこ)
長田の学校の図書館職員。詰め込み教育に反対していて読書の喜びを知ってほしい。
プルースト効果の実験と結果 の簡単なあらすじ
高校3年生の時に一緒のクラスになった長田と小川は、同じチョコレート菓子を食べながら県外受験に励んでいる同志です。
小川はストレートで東京の難関大学に受かりましたが長田は不合格の末に浪人を選び、少しずつ疎遠になっていきます。
新天地でそれぞれがパートナーを見つけたふたりは、別々の人生を歩んでいくことを選ぶのでした。
プルースト効果の実験と結果 の起承転結
【起】プルースト効果の実験と結果 のあらすじ①
高校入学以来接点のなかった長田と小川でしたが、3年生のクラス替えで一緒になり席は男女混合であいうえお順に並んでいました。
自然と会話を交わすようになった小川から、「プルースト効果」について詳しく聞きます。
フランスを代表する小説家がマルセル・プルーストで、20世紀の小説に決定的な影響を与えたのが「失われた時を求めて」です。
マドレーヌを紅茶に浸して食べると昔の記憶が甦る主人公、受験勉強を始める前にはいつも「たけのこの里」を食べるようにしている小川。
本番前に同じお菓子を口にすることによって、暗記した単語や年号が頭の中に浮かんでくるのはあくまでも仮説です。
長田は姉妹品の「きのこの山」を購入するために、校門から歩いて5分くらいの距離にあるスーパーに向かいました。
図書室で小川と待ち合わせをすると、世界文学の棚の陰に隠れた場所にふたり分の席を確保します。
なるべく音をたてないように奥歯と舌で静かに押しつぶしているので、たまに見回りにくる司書教諭のマサコも気がついていないでしょう。
【承】プルースト効果の実験と結果 のあらすじ②
この学校ではほとんどの生徒が地元の国公立大学に進学予定で、東京の私立大学を目指しているのは長田と小川くらいです。
プルースト効果の「実験」で志を同じくするようになってからは、放課後はともに行動するようになりました。
夏休みに入っても閉校期間のお盆を除いては、私大志望者向けの夏期講習に参加してふたりで並んで受けます。
顔を合わせなかったのは長田がオープンキャンパスに泊まり掛けで行った2日間だけですが、お互いに告白をした訳でもありません。
実家が裕福な歯科医院のため歯並びが良くメガネも似合っている小川、サラリーマンの家庭に生まれて美人でもなく個性も特技もない長田。
小川には尊敬している小説家がいて、その母校の文学部に入りたいという明確な目標がありました。
一方の長田は消去法でこの町を出ていくことを選んだだけで、特にやりたいこともありません。
それでもたけのこの里ときのこの山が必ず棚に隣り合って並んでいるように、自分たちはペアだと信じています。
【転】プルースト効果の実験と結果 のあらすじ③
試験会場でプルースト効果を発揮して見事に第1志望に合格した小川、東京の空気に息苦しさを覚えた揚げ句に緊張でまったく駄目になった長田。
卒業式が終わるとふたりは写真撮影の輪にも加わることはなく、教室の異様なざわめきを抜け出して静かな図書室に駆け出しました。
いつものように地味な服装で貸し出しカウンターの中で本を読んでいたマサコに、たけのこの里ときのこの山を5箱ずつプレゼントします。
長田たちのことは年齢こそ離れているものの、若い頃の自分を見ているみたいに近くに感じていたというマサコ。
これからは過去がどんどん増えていくであろうふたりのために、彼女がプレゼントしてくれたのは「失われた時を求めて」です。
第1巻をもらった長田はワンランクほど高い大学を目指すために駅前の予備校に、第2巻をもらった小川は東京行きの新幹線に。
出発の朝にプラットホームでキスを交わした後に、長田は小川が中学生の修学旅行で使ったという東京の地図を預かります。
【結】プルースト効果の実験と結果 のあらすじ④
東京タワー、靖国神社、銀座和光、井の頭公園、神保町古本屋街… 主要な駅名や地名がプリントされている他に、観光スポットや商業施設にはフェルトペンで丸が付けられていました。
来年こそはこれを持って上京するべく予備校と自宅を往復していましたが、梅雨入り前に小川が電話をかけてきます。
他に好きな人ができたこと、きれいな花のような名前、サークルではふたつ年上の先輩、プルーストにも実験にも興味がない人。
暑くなり始めた頃には長田に交際を申し込んでくる男性が現れて、同じ授業を取っている浪人生です。
男友だちが多く女子からの評判も良く、意地悪なところはひとつもありません。
5日間だけ返事を待ってもらった長田は、彼と恋人同士になることを選びます。
ビニール袋をぶら下げた長田がひとり暮らしをしているアパートまで訪ねてきたのは、季節が本格的な夏の到来を告げた頃です。
たけのこの里だけでなくパックのトマトジュースも買ってきたのは、栄養バランスに気をつかってくれているのでしょう。
彼とはキスだけでは終わらないことを確信した長田は、あの地図を捨てて小川を忘れることを決意するのでした。
プルースト効果の実験と結果 を読んだ読書感想
教室のノリについていけないふたりの男女が、有名メーカーのロングセラー商品を片手に自習に打ち込む姿が思い浮かんできてほほえましい物語です。
ふたりをそっと見守る図書室の主のような、マサコさんのキャラクターも青春ドラマには欠かせません。
同じ未来を見ていたはずのふたりのベクトルが、徐々にズレていくのは切ないです。
名前こそ出てこないものの都会に出てきた長田の心をわし掴みにする先輩や、失恋の痛手をケアーする彼の登場も新鮮です。
ほろ苦くとろけるようなチョコレートには、しょっぱい野菜ジュースも意外と合いそうで試してみたくなりました。
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