著者:高橋陽子 2014年11月に中央公論新社から出版
ぐるぐる登山の主要登場人物
莓(まい)
ヒロイン。体の一部が無意識のうちに光る。異性を引き付けるが同性からは反感を持たれることが多い。
井刈(いかり)
莓の親友。表情が目まぐるしく変わる。趣味はカメラ。
水奈(みな)
大学生の頃に莓に助けられた恩を忘れていない。繊細で水にぬれるのが苦手。
香音(かのん)
水奈の小学生時代のクラスメイト。思慮深く他人には見えないものが見える。
ぐるぐる登山 の簡単なあらすじ
莓、井刈、水奈、香音には先天的に不思議な能力が備わっているために、自然と一緒にいることが多くなっていきます。
学生時代にはしつこい男に付きまとわれたり、職場ではトラブルに巻き込まれることも多いですが4人の友情は変わりません。
それぞれが仕事や恋愛でステップアップが決まるために、お気に入りの山に登って親交を深めていくのでした。
ぐるぐる登山 の起承転結
【起】ぐるぐる登山 のあらすじ①
莓も井刈も500人にひとり程の確率で生まれる「ケンゲン」で、第2次性徴期を迎える頃に特有の悩みを共有するようになりました。
「火」のケンゲン者である莓の体は熱を帯びてくると発光しますが、基本的にのんきな性格なので気にしていません。
時おり顔が別人のように変化する「風」のケンゲンはクリエイティブな仕事に向いているために、井刈もカメラや現像技術を本格的に学んでいます。
そんなふたりに相談を持ちかけたのは、「水」のケンゲンであるためにストーカーに悩まされている女子大学生の水奈です。
彼女とは小学生の頃から付き合いのある「土」のケンゲン、香音の力を借りてすぐに相手の男を突き止めました。
般若のような真っ赤な顔となった井刈と、左腕からまばゆい光線を放つ莓ににらまれてはストーカー男も退散するしかありません。
気分転換のために「扁平山」という起伏の激しくないなだらかな山にお花見に行った4人は、誰かの誕生日や記念日などで再びここに来ることを約束します。
【承】ぐるぐる登山 のあらすじ②
雨が降るだけで半透明になってしまう水奈には、国からケンゲン手帳がもらえて年金も支給されるために働く必要はありません。
一方の莓は日常生活に支障がないために会社勤めをしていますが、コピーを取ったり買い出しを頼まれたりと誰にでもできるような雑用ばかりです。
おまけにオフィスでも輝きを放って目だっている莓は、お局様の蒲田から嫌がらせを受けるようになりました。
長いこと派遣社員を続けている蒲田からすると、入って1年で正社員の打診を受けた莓のことが気に食わないのでしょう。
そんな最中に蒲田がカッターナイフで刺される事件が発生しましたが、警察に逮捕されたのは莓ではありません。
犯人は上司との浮気を嗅ぎ付けられて脅迫を受けていた若い女性社員で、蒲田の傷は浅かったために執行猶予の判決で済みました。
一連のゴタゴタにうんざりした莓は、会社を辞めて調剤事務管理師の資格を取るための勉強を始めます。
水奈も家庭向けのウォーターサーバーを扱う企業から協力を求められたために、無理のない範囲でパート勤務をしてみるそうです。
【転】ぐるぐる登山 のあらすじ③
香音の頭の中には1メートル四方の土地がうっすらと広がっていて、スクリーンのように未来が映し出されていました。
対面で占いを始めてみたところあっという間に商売繁盛で、今では新規の予約は電話で受け付けています。
ある時に花恵という女性から鑑定を頼まれたところ、土地のスクリーンに映し出されたのは「死」のイメージです。
まったく健康診断に行っていないという花恵に人間ドックに行くようにアドバイスをしてみたところ、夫の修がクレームを付けてきました。
親同士が姉妹であるために香音とはいとこの間柄でしたが、大手商社に勤めていて赤坂の高級マンションに住んでいる修とは昔から気が合いません。
「ケンゲンは非科学的」という修を何とか説得して花恵を病院に連れていったところ、検査の結果胃ガンが発見されました。
幸い初期の状態で開腹手術も必要ないほど経過は良好で、ようやく修はおわびの菓子折りを妻名義で送ってきます。
評判を聞いて客としてやって来たのは水奈で、パート先で知り合って交際中の男性との相性を調べてほしいとの依頼です。
【結】ぐるぐる登山 のあらすじ④
香音のお墨付きをもらって婚約を決めた水奈のお祝いをするために、莓と井刈にも声をかけて秋の紅葉を迎えた扁平山に集合しました。
右に右に曲がりくねって小さな滝の流れに沿った上り坂はほの薄暗いですが、汗ばんだ莓の背中に後光が射しているために道に迷う心配はありません。
広々とした山頂に到着してみんなで記念写真を撮る時には、コンペで入賞してカメラマンとして芽が出てきた井刈の出番です。
来年の春には挙式を控えている水奈はこれから忙しくなるそうで、莓も試験が近いためにこのメンバーがそろう機会はしばらくないでしょう。
下山の時には登りとは逆の、ぐるぐると左まわりになってコンクリートで舗装されたコースを歩いていきます。
いつの時代も季節は変わることもなくぐるぐると巡っていきますが、人間の顔ぶれは決して同じではありません。
同じような会話を交わして同じようなことで笑ったり怒ったりしてきた4人の目の前に、4つに分かれた穏やかな並木道が開けてくるのでした。
ぐるぐる登山 を読んだ読書感想
見た目は現代に生きるごく普通のアラサー女子ながらも、ちょっぴり厄介な性質を背負った4人が活躍しています。
意味もなく体が光ったり気づかないうちに百面相を披露していたりと、あまりありがた味はないのかもしれません。
何でも願い事がかなう夢のような魔法ではなく、いかにしてコントロールするかに焦点が当てられているのも特徴的です。
生まれながらに「ケンゲン者」として、社会の中で異端者として宿命付けられているのもほろ苦いですね。
迷いながらも一歩ずつ進んでいく彼女たちの姿からは、自分のウイークポイントを個性に変えることを学ぶことができました。
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