著者:井上荒野 2011年12月に幻冬舎から出版
だれかの木琴の主要登場人物
親海小夜子(およみさよこ)
ヒロイン。夫を支えつつ娘の面倒を見る平凡な主婦。自分の感性を信じて行動する。
親海光太郎(ふりがな)
小夜子の夫。警備会社の営業マンで成績がいい。日に焼けたスポーツマン。
山田海斗(やまだかいと)
ヘアスタイリストに憧れる美容師。やせ型で胃腸が弱い。
真藤唯(しんどうゆい)
海斗の恋人。ファッションはゴスロリだが負けん気が強い。
田代剛(たしろつよし)
光太郎の後輩。ひとり暮らしで食生活が乱れている。
だれかの木琴 の簡単なあらすじ
夫・光太郎と娘のかんなと平穏に暮らしていた親海小夜子が、ある日突然に夢中になってしまったのは行きつけの美容室で働く青年・山田海斗です。
小夜子の行動がエスカレートしていくうちに、海斗と交際相手の真藤唯が自宅まで乗り込んできます。
妻を信じていると豪語する光太郎のおかげで、親海家はひとまずのところは日常生活を取り戻すのでした。
だれかの木琴 の起承転結
【起】だれかの木琴 のあらすじ①
勤め先の証券会社の3年先輩の親海光太郎と結婚した小夜子は、長女のかんなを授かってからは外で働いていません。
ホームセキュリティで業績を伸ばしている企業に転職した光太郎は、年収も増えて郊外に一戸建てを購入することができました。
引っ越し先の町を平日の午前中から散歩していた小夜子は、「ヘアサロンMINT」と書かれたお店にふらりと入店します。
たまたま手が空いていてカットを担当してくれたのが山田海斗で、メルマガ会員になると次回からお得になるそうです。
言われるままにアドレスを教えると、帰宅後にさっそく携帯電話が木琴のようなメロディーを奏でました。
いまは支店勤務だけどゆくゆくは原宿の本店への栄転を狙っていること、スタイリストとコネを作りCMの仕事もしてみたいこと。
小夜子こそが幸運の女神だという海斗からのメッセージは「またお店でお会いできるのを楽しみにしています」で締めくくられていて、営業用のメールだと分かっていても不思議と胸が高鳴っていきます。
【承】だれかの木琴 のあらすじ②
ふたたび小夜子がMINTを訪れたのは2週間後で、髪の毛は少ししか伸びていません。
短大の頃の友人と同窓会があると理由を付けて、海斗を指名して軽くパーマをかけたボブヘアーにしてもらいました。
この町に来てから日が浅い小夜子のために、海斗はおすすめの居酒屋「ふくろう」を紹介してくれます。
ふくろうから徒歩圏内のデザイナーズハウスに住んでいると聞いた途端に、小夜子は居ても立っても居られません。
光太郎が仕事に出ていてかんなが学校に通っているあいだに、ふくろうの近辺をひたすらに歩き回りました。
ようやくたどり着いたのは無色のコンクリートの建物、メゾネット式で吹き抜けとピッタリ条件に合います。
「K.YAMADA」の表札の隣のインターホンを押した途端に、玄関から飛び出してきたのは真藤唯という若い女性です。
裸に男物のシャツだけを羽織った格好なため、数分前まで海斗と愛し合っていたのでしょう。
彼女の若々しい肉体と敵意の込められたまなざしに気圧されした小夜子は、早々と退散するしかありません。
【転】だれかの木琴 のあらすじ③
次に小夜子が1週間と空けずに来店した時には、彼女の名前は店側の顧客名簿の要注意リストに登録されていました。
バッサリと男のようなショートカットにしてほしいというリクエストは、店長の伊古田の目の前で念書を書いてもらうことで了解されます。
まもなく本店に引き抜かれるとうわさのある海斗のことを、前々から苦々しく思っていたのが伊古田です。
小夜子の担当を外してほしいというお願いも受け入れられずに、尻拭いをするつもりもありません。
唯はもともと海斗と同じ美容学校の生徒でしたが、卒業後に選んだ就職先は青山にある10代の女の子向けのセレクトショップです。
その「プリンセス・ネージュ」にまで小夜子が客として顔を見せるようになり、唯は気が気ではありません。
被害届けを出すように海斗に勧めてみましたが、直接的に危害を加えられた訳ではないために警察も動いてはくれないでしょう。
唯にせっつかれてようやく重い腰をあげた海斗は、MINTの予約表で住所を調べて小夜子の自宅へと向かいます。
【結】だれかの木琴 のあらすじ④
さすがにセキュリティがしっかりした家でしたが、唯はお構い無しで夕食時のダイニングにまで上がり込みました。
小夜子がストーカーをしていると息巻く唯、唯たちこそ不法侵入して家族を中傷していると平然とした様子の光太郎。
当の本人である海斗が乗り気でないために、たちまち唯の方が悪いことをしているような雰囲気になってしまいます。
かんながこの辺りにできた新しいヘアサロンを見つけてきて、小夜子が2度とMINTに行かないと約束をし取り敢えずは一件落着です。
小夜子との仲を疑い始めた唯は海斗から離れていき、あの日以来連絡はありません。
相変わらず胃の調子が良くない海斗でしたが、新規のお客さんからの指名は絶えずに伊古田とも嫌々ながら仕事をしています。
光太郎が会社の同僚を連れてきたのは珍しく定時に退社したある日のことで、同じ大学の後輩ということもあり特別にかわいがっているそうです。
小夜子の手料理をとてもおいしそうに食べていたその田代剛から、帰り際に1枚の名詞を渡されます。
名前、会社の住所、部署名、メールアドレス… 久しぶりに携帯電話を取り出した小夜子は、頭の中で木琴の音を聞きながら送信ボタンを押すのでした。
だれかの木琴 を読んだ読書感想
高収入の夫に養われてひとり娘にも恵まれている主人公、親海小夜子が突如として階段を踏み外していくようで危なっかしいです。
たった1通のメールから一線をこえてしまうのは、SNSで誰とでもつながることができる今の時代ならではなのかもしれません。
いまいち主体性のない山田海斗よりも、終盤で思いきった勝負に打って出る真藤唯の方に感情を移入してしまいました。
彼女に詰め寄られた際に光太郎がとった態度が、美しき夫婦愛なのかことなかれ主義なのかも判断が分かれるところでしょう。
ハッピーエンドと思いきや、ラストにも思わせ振りなシーンが用意されていて憎いですね。
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