著者:日向蓬 2010年6月に武田ランダムハウスジャパンから出版
空の名前の主要登場人物
延原真(のぶはらまこと)
主人公。小学3年生になったばかり。ぽっちゃりとした体形だがスポーツは得意。
延原るり子(のぶはらるりこ)
真の母。いくつになっても夢見がち。
延原みち子(のぶはらみちこ)
るり子の妹。水商売をしていて根が明るい。
延原作治(のぶはらさくじ)
真の父。セールスのノルマがきつく不在が多い。
双葉カオル(ふたばかおる)
真のクラスメイト。物静かで大人びている。
空の名前 の簡単なあらすじ
仕事が忙しい父親と精神的に不安定な母親に育てられている延原真にとって、いちばんに心を許せるのはおばのみち子です。
同じクラスの風変わりな女の子・双葉カオルや、ちょっぴり意地悪な名取信一とも少しずつ打ち解けていきます。
双葉が転校して信一とすっかり仲良くなった頃、だいぶ症状が良くなった母・るり子と再会を果たすのでした。
空の名前 の起承転結
【起】空の名前 のあらすじ①
延原真の父・作治は百科事典や図鑑のセールスマンで、特に新学期を迎える頃には全国各地を渡り歩いていました。
母親のるり子が体調を崩して入院しているために、スナックを切り盛りしている叔母のみち子と大阪の下町にある一軒家で暮らしています。
この春の健康診断の時に「肥満児」と書かれたカードを受け取ってしまったために、同じ3年2組の名取信一がしつこく絡んできますが相手にしません。
真と同じく放課後になるとひとりで下校しているのが、絶対にクラスの女の子たちの輪に加わらない双葉カオルです。
ある時に飼い犬を散歩させている双葉に声をかけると、自宅に招待されてガラスケースにズラリと並べられた動物を見せてくれました。
弟が剥製を作る会社を経営しているという双葉の母親は経理を担当していて、夜遅くになっても帰ってきません。
スライド式の本棚には児童文学全集がそろっていて、おもちゃ箱も満杯ですから商売繁盛しているのでしょう。
発売されたばかりの野球盤でふたりで夢中になって遊んでいると、テレビから笹川良一の「一日一善」が流れてきたために家に帰ることにします。
【承】空の名前 のあらすじ②
体育の水泳の時間に真だけがスイミングクラブの上級クラスの水着を着ていることが、目立ちたがりの信一からすると気に入りません。
実家がタクシー会社でるり子が心療内科に搬送されたことを知っていたために、休み時間にみんなに言いふらしてしまいました。
思わず真が顔面にパンチを食らわせるとあっけなく泣き崩れてしまい、連絡を受けたみち子と一緒に名取家に謝りにいきます。
玄関で出迎えてくれたのは現れたのは信一の父親で、名取タクシーの社長としてだけでなく町の青少年スポーツ振興会の会長としても有名です。
虎の野球帽を被った真のことをひと目で気に入ったのは、関西に本拠地を置く万年最下位の球団が今年に限って調子がいいからでしょう。
新しくできた少年野球チームに入るように誘ってくれたために信一とも仲直りできて、今回の一件のおとがめもありません。
ただひとつ真にとって気がかりなことは、みち子や作治が自分に本当のことを打ち明けていなかったことです。
【転】空の名前 のあらすじ③
出張から帰ってきた作治とお店を早めに閉めて帰ってきたみち子が、明かりも付けずに居間で言い争いをしていました。
小さい頃から姉のお下がりばかりを押し付けられてきたことが嫌だったみち子、周りから反対されながらもるり子を妻にした作治。
ふたりの仲を疑い始めたるり子はもともと神経が細いところがあって、突発的に台所の包丁で手首を切ってしまったことが真相です。
ショックから家を飛び出した真は、ズボンに入った100円玉を握りしめて行き先も確認せずにバスに乗り込みます。
たまたま後ろの席に座っていたのが双葉で、帰りたくないという真に気が済むまで付き合ってくれるそうです。
梅田のデパート、屋上の遊園地、レストラン街、土産物のテナントが入った地下街… 夜の街にネオンが輝く頃には警察官に補導されてしまい、真には作治がいましたが双葉には迎えに来てくれる人がいません。
たったひとりだけ思い付いたのは長寿寺の住職で、かなりの高齢ですがスクーターを飛ばしてやって来ました。
後日ふたりでお礼参りをして、境内の栗林にコレクションの剥製を埋めます。
【結】空の名前 のあらすじ④
夏休みに入ってすぐ双葉は家族の都合で東京へと引っ越して行きましたが、新しい住まいは建設されたばかりのニュータウンマンションでペットを飼うことができません。
双葉から譲り受けた犬は、今では延原一家の新しいメンバーです。
作治はつい最近になって課長補佐への昇進が決まったために、梅田の本社に出勤することが多くなっていました。
慣れないデスクワークで疲れ果てて帰ってくることもありますが、たまに家の近くの原っぱで真とキャッチボールをしてくれます。
みつ子の方も神戸の有名店に引き抜かれてチーフママになったそうで、本人に言わせると「出世」だそうです。
長寿寺の住職は相変わらずスクーターで町内を走り回っていて、その名の通りに長生きするでしょう。
ようやく安定してきたるり子は一時的な帰宅が認められましたが、正式な退院の日は決まっていません。
それでも母が誰かを傷つけることはないと信じている真は、大きな声で「お帰りなさい」と出迎えるのでした。
空の名前 を読んだ読書感想
肥満児カード、エポック社の野球ゲーム、笹川会長のCM、阪神タイガース初の日本一… これらのキーワードにピンっとくる皆さんは、この本を手に取って読んでみると昭和の懐かしい思い出が胸に湧き上がってくるでしょう。
何かにつけて引っ込み思案な男の子・延原真が、不器用ながらも一歩ずつ勇気を振り絞って成長していく姿には心が温まりました。
周りの大人たちがひた隠しにする残酷な真実に、時には深く打ちのめされてしまうシーンも後半には用意されていて切ないです。
ミステリアスな雰囲気を漂わせた少女、双葉カオルとのつかの間の友情とやがて訪れる別れも忘れられません。
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