著者:ジェイソン・レナルズ 2019年8月に株式会社早川書房から出版
エレベーターの主要登場人物
ウィル(うぃる)
本作の主人公。本名はウィリアム・ホロマン。兄であるショーンが何者かによる銃撃によって命を落としたことをリッグスのせいだと思い、復讐を決行しようとする。
ショーン(しょーん)
ウィルの兄。アトピーに苦しむ母親のために石鹸を買ったところを銃弾を受けて死んでしまう。ウィルが断固として守っている3つの掟を教えた本人。銃を隠し持っていた。
リッグス(りっぐす)
ショーンの幼馴染。本名はカールソン・リッグス。ウィルは「ショーンを殺した」と思っているものの、真偽は不明。ウィルはショーンを殺した理由は「入りたいギャング団に入団するためだ」と思っている。
エレベーター の簡単なあらすじ
「ショーンは幼馴染のリッグスに殺された」と思ったウィルはショーンが隠していた銃で復讐をすることを誓いました。
翌朝エレベーターに乗ったものの、1階ずつ人が乗り込んできます。
その人たちはウィルがよく知る死んだ人たちで、最後にはショーンがやってきました。
ウィルはショーンに乗り込んできた人たちに否定された自分の正しさを訴えますが、ショーンは何も言わず泣き、最後に「おまえも来るか?」と言うのでした。
エレベーター の起承転結
【起】エレベーター のあらすじ①
ウィルは兄のショーンが死んだ出来事を友人に語りかけるように喋り始めます。
友人のトニーと立ち話をしていたところ、突然銃声が響きました。
ウィルが住む町ではしょっちゅう起こるため、ウィルは地べたに突っ伏して難を逃れます。
しかし銃声がやんだ後に残された死体はショーンでした。
恋人も母親も悲嘆にくれるなか、ウィルはショーンが教えた掟を守るためにショーンが死んだ悲しみに耐えます。
「泣くな」「密告するな」「復讐しろ」という3つの掟に従い、ウィルはショーンが隠し持っていた銃を取り出しました。
ウィルはショーンを撃った犯人をショーンの幼馴染であるリッグスだと確信しており、復讐しようとします。
リッグスはショーンが最後に立ち寄った店が建っているあたりを縄張りとしているギャング団に入りたがっており、そのために殺したのではないかとウィルは思っていました。
他にも理由があるものの、とにかくショーンが死んだ翌日の朝、ウィルは銃をジーンズの腰にはさみ、泣きつかれた母親を起こさないように外に出ます。
そしてエレベーターに乗って下を目指すのでした。
【承】エレベーター のあらすじ②
午前9時08分02秒、ウィルが乗り込んですぐ下の階にて1人の男が乗り込んできます。
男もロビーに向かっていることを理解したウィルはしばしショーンとの思い出に浸りますが、ふと男が自分を見ていることに気づきました。
「おれがわからねえか?」と尋ねる男にウィルは「わかりません」と答えると、くるりと回って背中を見せます。
そこに描かれたプリントアウトされた写真を目にし、男ことバックのことをウィルは思い出しました。
しかしそれはあり得ないことで、ウィルはとても驚きます。
何故ならバックはすでに死んでいるからです。
ウィルはどぎまぎしながら「何でここに来た」と問いかけると、バックは「俺の銃を確認しに来た」といい、ウィルが持っている銃について触れます。
ウィルはショーンが死んだことも含め、説明するとバックは「おまえにはあるものが欠けている」と言いました。
噛みつくように反論するものの、まともに相手にされず、そうこうするうちに今度は女の子が乗り込んできます。
彼女はダニ、ダニもまた昔死んだ子です。
ダニのことを思い出したウィルはしばし再会できた喜びに浸りますが「なんのために銃が要るの」と問われ、冷や水をかけられたような思いをしながらも掟のことを教えつつ、「失敗なんてしないさ」と言い張ります。
それからも叔父さんや父親が乗り込んできては掟のことに触れ、ウィルが信じている掟を根底から揺るがす過去を告白していきます。
ウィルは歯がゆい思いに耐えながらエレベーターに乗り続けるのでした。
【転】エレベーター のあらすじ③
ダニに問われ、映画好きの叔父に「演技に付き合え」と言われて彼に銃を突きつけ、さらには父親に銃を突き付けられたウィルの精神はボロボロでした。
そんな時に乗り込んできた男は見知らぬ男で、あまりにも普通に乗り込んできたため、ウィルは思わず安堵します。
しかしバックの呼びかけに応じたことで、彼もまたこのイカれた空間の人間であることを悟ったウィルはバックに「どんな知り合いか」と尋ねました。
するとバックは男ことフリックを「俺を殺した犯人さ」と教えます。
とても驚くウィルはフリックから「ショーンから何も聞かされていないのか」と尋ねられ、ショーンが何も語らなかったことを思い出しました。
バックは「しょうがねえな」とぼやきながら、自分が死んだ経緯を語り出します。
その日バックはリッグスと仲違いしたショーンを励ますためにネックレスをプレゼントし、そのままショーンは立ち去ったものの、かわりにフリックがやってきました。
フリックはリッグスが入りたがったギャング団に入るための条件を満たすため、バックを襲ったといいます。
それを目撃していたトニーの口からショーンに伝わり、ショーンはバックの銃でフリックを撃ったそうです。
思わぬ過去を明かされてショックを受けるウィルに、バックは「どうしてリッグスがショーンを殺したと分かる」と質問します。
ウィルはそれには答えず、フリックに「そのギャング団に所属しているリッグスを知っているか」と訊くと「誰のことだ」と返されてしまいました。
【結】エレベーター のあらすじ④
ロビーまであと1階、しかしその前に2階でエレベーターが止まります。
開かれたドアからやってきたのはショーンでした。
他の死者たちとは異なり、死んだ状態のショーンでしたが、再会できた死者たちと同じように喜びます。
バックには音を立てて握手し、ダニには手を取って一回転、叔父はそんなショーンに軽くパンチをして固く抱擁しました。
父親には笑みを浮かべて抱き合いますが、やがてウィルに顔を向けると何の反応もしなくなります。
ウィルが呼びかけても返事をせず、抱きしめても硬直するばかりです。
ウィルは必死で「なんで何も言ってくれないんだよ」と言い募り、そして掟や銃のことをまくしたてていきます。
リッグスが仇であるかどうかも分からない恐怖も打ち明けたウィルの前の前には、涙を流すショーンの姿がありました。
掟を破ったショーンですが、ウィルはその事実を噛み締めつつ、兄への愛を実感します。
やがてエレベーターは音を立てて停止し、死者たちが吸っていたタバコの煙とともに彼らはエレベーターから出ていきます。
最後にエレベーターに残されたウィルにショーンは「おまえも来るか?」と告げるのでした。
エレベーター を読んだ読書感想
ジェイソン・レナルズさんのエレベーターです。
300ページ弱ある復讐をテーマにした作品ですが、一気に読めました。
それは主人公のウィルの視点で進めていることはもちろん、少年らしいスマートな文章や詩集のように短くまとめられたページなど独特な表現を使っているからだと思います。
それから印象的だったことは乗り込んでくる死者たちがウィルの復讐を否定せず、かといって推奨もしなかったことです。
彼らとしては止める意志はあるものの、ウィルに気づいてほしくてあえて遠回しに言っているのがウィルを対等に扱っているようで好きです。
もしもこんなふうに自分を引き止めてくれる存在がいたら、などとも思いました。
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