著者:秋竹サラダ 2018年10月にKADOKAWAから出版
祭火小夜の後悔の主要登場人物
祭火小夜(まつりびさや)
高校二年生。髪の長い美少女。不思議な話を知っている。
祭火弦一郎(まつりびげんいちろう)
小夜の兄。他人に見えない鳥から不思議な話を聞くことができる。
坂口(さかぐち)
二十代後半。高校の数学の教師。奇妙なものを見る。
浅井緑郎(あさいろくろう)
高校一年生。奇妙な虫に取りつかれる。
糸川葵(いとかわあおい)
高校二年生。奇妙な契約に怯える。
祭火小夜の後悔 の簡単なあらすじ
祭火小夜はさまざまな不思議なことを知っています。
彼女に教えられて、不思議な現象を見たり、助けられたりした教師と生徒たちが、今度は小夜の兄を助けるために、囮となって魔物を引きつけることになりました。
彼らは迫る魔物から逃げ切り、小夜の兄を救うことができるのでしょうか?
祭火小夜の後悔 の起承転結
【起】祭火小夜の後悔 のあらすじ①
ある日、坂口先生は、壊れた机を旧校舎の物置き場へ運び、まともな机と交換してくることになりました。
旧校舎に入ったところで、髪の長い美少女、祭火小夜と出会いました。
小夜は、ここには床板をひっくり返す『あれ』がいると言います。
そして『あれ』に出くわしたときは、すでにひっくり返った板に乗るのがよい、と忠告します。
放課後、坂口先生は、落とした鍵を取りに旧校舎へもどります。
そこで小夜の言っていた『あれ』が出現します。
坂口先生は、一枚だけほかと違う床板に乗ってやり過ごそうとするのですが、途中で気がつきます。
そここそが、まだひっくり返っていない床板なのだと。
先生はあわててその床板から降り、辛くも難を逃れたのでした。
一方、浅井緑郎は、親戚のあつまりで、いとこからこんな話を聞きました。
「うちの家系には虫の憑きやすい人がまれにいる。
その虫は人の身体の一部を食べるのだが、虫が憑いて生き延びた人がこの家の後継にふさわしい」と。
数か月後、緑郎にムカデのような虫が憑きました。
同時期に肋間神経痛となり、虫が出ると胸が痛むようになりました。
いとこからは神社に入ると虫がやってくるから注意するように言われます。
しかし、ある朝、遅刻しそうになったところで、祭火小夜に手を引かれ、近道となる神社に入ってしまいました。
たちまち虫が迫ってくるようになり、緑郎は逃げ続けます。
ところが事情を聞いた小夜が、それはにじり虫というもので、患部を食べてくれるものだから、心配いらないと教えてくれました。
言われた通りに虫が迫ってくるのにまかせると、虫は痛む胸に入りこんで、患部を食べて出ていきました。
こうして緑郎は肋間神経痛から解放されたのでした。
【承】祭火小夜の後悔 のあらすじ②
糸川葵は、幼稚園に行っていたとき、ワンピースを破いてしまいました。
そこへ奇妙な男、しげとらが現れ、同じワンピースを出してくれました。
それは親切ではなく取引です。
利息はありませんが、十年後に返済しなければなりません。
さらには三年目と七年目に、契約の確認に来ると言います。
さて、しげとらは別の男との契約が十年目になるので、やってきたのでした。
見ていると、しげとらは、その男に返済を迫り、体を取ってしまったのでした。
怖くなった葵はワンピースを返すと言いますが、しげとらは受け付けてくれませんでした。
それから三年たったときも、七年たったときも、しげとらは現れて、契約のことを思い出させます。
七年目のとき、同じ中学の髪の長い少女、祭火小夜が、髪を伸ばすように葵に助言しました。
葵は助言通りに髪を伸ばしました。
そして十年目、葵は、しげとらが何に化けて近づいてくるのかと神経をとがらせています。
そんなところへ祭火小夜が再接近してきたために、葵は小夜のことを疑います。
しかし、しげとらは小夜ではなく、新任の教師に化けていたのでした。
葵が用意していた武器では歯が立ちません。
そこへやってきた小夜が、葵の伸びた髪を切ってしげとらに渡します。
それでは不足だと言われたので、自分の髪を切って足しました。
しげとらは身体のうちの、同じ重量のものを返済させるのです。
十年前に受け取った幼児用のワンピースと、髪の重量がつりあって、葵は難を逃れたのでした。
【転】祭火小夜の後悔 のあらすじ③
ある日、坂口先生は糸川葵から相談を受けます。
T町でお祭りがある晩に、魔物が出てきて、小夜の兄、源一郎の命を狙うのです。
そこで、源一郎の代わりに囮となって、ひと晩、車で逃げ続けてほしい、というものでした。
車に乗るのは、ほかに祭火小夜と、糸川葵と、浅井緑郎の計四名です。
坂口先生は同僚からの話により、小夜の両親は12年前、強盗に襲われて死んでおり、いまは祖父母と暮らしていることを知ります。
さらに新聞で調べて、小夜の兄の源一郎は、四年前に不審死していることを知ります。
源一郎の死をみんなに黙ったまま、坂口先生は祭の晩、車を走らせます。
浅井が首からお守りをぶら下げていて、それが囮の印です。
山のトンネルをくぐると、なにか不気味な声がしました。
トンネルをもどると、いくつかの奇妙なことが起こります。
みんなのスマホが圏外となり、月齢も異なっているのです。
ともかくガソリンを補充しようとすると、小夜がお札を出してこれを使ってほしいと言い張ります。
さらに、給油したあと、自分でお金を機械に入れ、レシートを取ったのです。
それから数時間走っていると、いよいよ魔物が追ってきたのでした。
【結】祭火小夜の後悔 のあらすじ④
やがて魔物は先回りして現れるようになりました。
走り回るのはかえって危険かもしれない、ということで、田んぼ道に車を停めて、様子を見ることにしました。
すると魔物は山の大木をむしり取って、道において通せんぼしたのです。
通せんぼで前後を挟まれたら、逃げ場がありません。
すぐにその場を脱出しました。
ここで坂口先生は、弦一郎がすでに死んでいることを小夜にぶつけます。
すると小夜は、兄はいまは死んでおらず、自分は嘘をついていない、と言いました。
坂口先生は気づきました、自分たちは四年前のT町に来ているのだと。
だから今現在、小夜の兄は死んでいないのです。
スマホは圏外で、月齢が合わず、ガソリンスタンドで小夜が新しいお札を使わせなかったのも、それで説明がつきます。
理解した坂口先生は、魔物を倒すのと併せて、自分の死んでしまった恋人を助ける方法を考えつきます。
恋人は三年半前、T町の橋が落ちて死んでしまったのです。
坂口先生は、囮になるためのお守りを浅井から譲り受け、小夜とふたりで橋へ行きます。
老朽化した橋の脚にロープをかけ車につなぎます。
そして魔物が来たところで引っぱり、橋を壊したのでした。
その後、四人でトンネルをくぐって現実の世界へもどりました。
そこでは変化が出ていました。
弦一郎は四年前ではなく、三年前、両親を殺した強盗と対峙して殺されていました。
坂口先生の恋人は生きていて、彼の妻となっていました。
過去を変えた結果、未来が変わったのでした。
祭火小夜の後悔 を読んだ読書感想
第25回ホラー小説大賞で〈大賞〉と〈読者賞〉をダブルで受賞した作品です。
読んでみて、まずアイディアのユニークさに驚かされました。
特に第1話から第3話で登場人物が体験する妖怪のようなものとの体験がすごいです。
登場する化け物がヘンテコで、かつ展開が意外なのです。
ホラー小説大賞というから、さぞやおどろおどろしい怪物が出てくるのかというとそうではなく、それでいて、こんなのが実際にいたら怖いだろうなあ、と思わせるのです。
本の末尾に選評が載っていますが、三人の選考委員のいずれも、このアイディアの秀逸性を評価しています。
そして、第4話となって、それまでの登場人物がまとまって、ひとつの魔物と対峙するのですが、これもなかなかアイディアを詰め込んで、サスペンスと謎解きの楽しさが詰まっています。
とにかく、全編を通じて、一読の価値は充分にある小説でした。
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