著者:薬丸 岳 2015年9月に講談社から出版
Aではない君との主要登場人物
吉永 圭一(よしなが けいいち)
主人公 まさに少年Aとなる人物の父親(妻と離婚しており、翼とは姓が違う
青葉 翼(あおば つばさ)
主人公 中学2年生 同級生を刃物で刺し、少年Aとなる
藤井 優斗(ふじい ゆうと)
翼に刺されて亡くなった中学生
野依 美咲(のい みさき)
翼の父吉永圭一の恋人 会社の同僚
青葉 純子(あおば じゅんこ)
翼の母親
Aではない君と の簡単なあらすじ
離婚した妻に付いて行った息子は別居こそしていたが定期的に会い、コミニュケーションは取っていたつもりだった父親の吉永圭一。
ある日突然彼の息子の翼が同級生を殺して逮捕となった。
親とは、子とは。
どうして、なぜ、色々な感情が渦巻き、問題は深まっていく。
Aではない君と の起承転結
【起】Aではない君と のあらすじ①
吉永圭一は離婚し、子供の翼とも離れて暮らしていたものの、定期的に会いコミニュケーションを図っていたつもりでした。
ある日突然、殺人事件の加害者となった息子。
被害者となったのは息子の友人でした。
元妻も自分自身も訳のわからないまま、警察・世間の目・仕事での立場、全てが一瞬にして変わってしまいます。
飲み会の時に鳴った電話に圭一は出ることができませんでした。
どうして気付かなかったのか?本当に変わったことはなかったのか?年賀状に書いてあった愛犬「ぺロが死にました」これは翼のSOSではなかったのか?見て見ぬふりをしていたんじゃないか?と父親である圭一は混乱し、どうすればいいのかさえ分かりません。
世間で取り上げられるセンセーショナルなニュースに嫌でも入ってくる声、中傷。
マスコミの容赦のない追い込みなど。
全てが変わってしまったのです。
ぎくしゃくしてしまう恋人との関係や会社での立場など父親だけど、遠くにいた父親として物語が進んでいきます。
【承】Aではない君と のあらすじ②
翼は最初は何も話さず、母親である純子も心労で参ってしまっていました。
圭一は翼に会いに行くが何も話さないまま…。
そんな中マスコミの根も葉もない言い方や、警察からの質問に圭一も弱っていきます。
何度も弁護士と面談を重ね、父親とも面談をしてもなかなか翼は話してくれなかったが、少しずつ氷が解けていくように言葉を交わして行く。
「どうしてお父さんとは二人きりで会えないの?」と言った翼の瞳は何かを訴えているようだが、圭一には分からないままです。
もしかして、自分だけに伝えたいことがあるのではないか?自分だけに知ってもらいたいのではないか?まだまだ分からないことが多い中、圭一は色々な方法を使って、翼と二人で話ができるよう、付添人になることを提案されます。
翼も苦しんでいますが、父親・母親それぞれが自分の知らなかった息子の一面に戸惑い、恐れ、それでも家族として向き合おうとして行きます。
少しずつ翼にも変化が表れ、話をするようになっていきます。
【転】Aではない君と のあらすじ③
同級生だった「正人」に圭一と弁護士は話を聞きに行きます。
そこで不思議な話を耳にします。
「被害者の藤井君と、加害者の翼は仲がよかったの?」その質問に「そうではないと思う。」
と、また「藤井君は翼のことを「ヒコク」と呼んでいた」と聞きます。
藤井君の親は弁護士でした。
そして、翼の家のキッチンの食器棚には「木槌」と「コルクのコースター」がありました。
最初は何を意味するのか分からなかった圭一ですが、これが後々にヒントとなり、そして重大なポイントとなります。
翼は藤井君にいじめられていたんじゃないのか?「ヒコク」なんて呼ぶのか?と圭一は不安になり、翼に告げます。
翼から発せられた言葉は胸がえぐられるような内容でした。
「被告は親からも見捨てられた存在です。
可哀そうな生い立ちなのです。
でもいつも有罪になるんだ。」
毎日毎日、裁判の繰り返しでした。
翼は全て耐えていました。
長い間ずっとずっと。
「どうして言ってくれなかったんだ」圭一は言いましたが、翼は目に一杯の涙を堪えていました。
【結】Aではない君と のあらすじ④
翼は被害者の藤井くんに自身のペットの「ぺロ」を殺すように命令され、殺してしまいました。
その動画を父親に送ると脅され、定期的にハムスターを買わされ、それも翼の手で殺させていました。
万引きも脅してさせて、翼をじりじりと精神的に追い込んで行ったのです。
もちろん人を殺すことは罪ということは分かっています。
ただ、翼は限界だったのです。
真実が分かり、父の圭一と翼は話ができました。
裁判では刑を言い渡れますが、出所後は父である圭一が見守り、サポートすることを約束します。
その後の翼と圭一の様子も少しですが書かれています。
翼の出所後、翼はアルバイトなどをし、生計を立てようとしますが、やはり犯罪者ということが分かってしまったり、生きにくさを感じてしまいます。
また、翼が罪を犯してしまった藤井君の家にも謝りに行かなければいけない。
それは分かってはいるのですが、なかなか踏み出すことができません。
最後は翼は藤井君の家に行って謝ると自分で決め、藤井君の父親に謝ります。
藤井君の父が持っていた翼と藤井君の写真。
その藤井君は満面の笑顔でした。
Aではない君と を読んだ読書感想
とてもリアルな、そして本当にあった話なのではないかと、とても考えさせられる小説でした。
ここまで深く、そして読み終わった後に落ち込んだ小説はありませんでした。
何が落ち込む原因だったのかは何度も読んだ今も分かりませんが、重く、深いお話でした。
どこかで掛け違えてしまったボタンのように、何がきっかけで罪を犯してしまうかは分からないし、加害者になってしまうことは紙一重なのかもしれません。
確かに殺人というものは許されるものではありませんし、あってはならないことだと思います。
ただ、主人公の翼の葛藤や、心の傷を思うと、とても「殺人犯なのだから」とだけ思うわけにはいかないなと考えさせられる作品でした。
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