「紅葉街駅前自殺センター」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|光本正記

紅葉街駅前自殺センター

著者:光本正記 2013年1月に新潮社から出版

紅葉街駅前自殺センターの主要登場人物

土井洋介(どいようすけ)
主人公。無職だが以前は制作部のコピーライターとして頼りにされていた。お酒と睡眠薬が手放せない。

前原悠里(まえはらゆうり)
洋介の元妻。 息子の祐樹を守れなかった罪悪感を抱えている。

土井勝次(どいかつじ)
洋介の父。パチンコにはまり家族を省みなくなった。

土井浩平(どいこうへい)
洋介の兄。 親代わりに弟を育てていたが14年に死去。

香川茂智(かがわしげとも)
自殺センターの職員。仕事で人を死なせているうちに快楽を覚える。

紅葉街駅前自殺センター の簡単なあらすじ

息子を失い人生に絶望した土井洋介が訪れたのは、希望者の自殺を助ける国の施設です。

担当官の再三の説得にも耳をかさなかった洋介ですが、別れた妻からの手紙に心を動かされます。

凶悪犯としての裏の顔を持つ執行官に殺されそうになったところを、死んだはずの兄に助けられ洋介は生きることを選ぶのでした。

紅葉街駅前自殺センター の起承転結

【起】紅葉街駅前自殺センター のあらすじ①

 

自殺志願者受付中

34歳になる土井洋介は妻の悠里と離婚して、今年の5月までコピーライターをしていましたが現在では仕事をしていません。

11月25日、電話で予約して印鑑と免許証を用意してから紅葉街駅前自殺センターへと向かいました。

自分でここに来たという意思確認の書類と、センターでの情報は外に漏らさないという誓約書にサインした後で担当官と面接します。

灰色のスーツを着て小太りで年齢は50代の半ばくらいと思われる「紅葉街K3」と名乗った担当官から自殺をやめる気はないか聞かれましたが、考えを改めるつもりはありません。

2回目の面談も前とまったく同じ流れで進んでいきますが、紅葉街K3はこの5日間で洋介の身辺調査を済ませています。

14年前に兄の浩平が34歳で自殺をしたこと、6年前に息子の祐樹を殺されていること。

3回目の面談までの宿題は赤い封筒に入った自死通知書、世間では「赤紙」と呼ばれている手紙を出す人間を次回までにリストアップしておくことです。

【承】紅葉街駅前自殺センター のあらすじ②

 

国家によって管理される生き死に

自宅に帰った洋介はテーブルにノートを広げて赤紙を送る相手を書き込んでいきますが、両親しか思い浮かびません。

母親の信子は洋介が幼稚園に入る前に若い男性と浮気をした揚げ句に家出、父親の勝次はそれ以来ギャンブル依存性。

母と父以上に大切なのは悠里でしたが、これ以上は悲しい思いをさせないためにも送るつもりはありませんでした。

リモコンでテレビを付けてみると、洋介が住んでいる紅葉街が「殺人鬼が潜む街」というテロップとともに映し出されています。

この街では殺害した後に被害者の体を切断してその一部を遺族に送りつける、「切断魔」によって5人目の犠牲者が出ていましたが犯人は捕まっていません。

3回目の面談ではセンターが誕生してから全国の自殺率が減少していること、紅葉街K3も自分の手で何10人もの命を救っていることを説明されます。

6年前に与党によって自死管理法案が提出された時にこの国は世界中から非難を浴びましたが、設立されたセンターに通って自殺を思い止まった人がいるのも事実です。

やはり自殺をやめる気はないのか説得されますが、答えは変わらないために4回目の面談を6日後に入れます。

【転】紅葉街駅前自殺センター のあらすじ③

 

明かされる洋介の過去と最期の面談

切断魔の6人目の犠牲者が出た12月10日、4回目の面談で紅葉街K3はようやく洋介の自殺の動機にたどり着いたとして推理を披露しました。

初めて洋介がここにきたのが11月25日、その前日の11月24日が祐樹の命日。

アルバイト先を解雇されて住んでいたアパートの家賃を払えなくなった神原直哉が、コンバットナイフを持って地下鉄に乗ったのは6年前の11月24日です。

神原は見ず知らずの乗客を刺殺していき、被害者の8人の中には洋介と悠里の息子で1歳になったばかりの祐樹もいます。

一時的に声を失い、眠りを失い、夫婦の絆までも失い。

神原の死刑が今年の5月に執行されて、ついに生きる理由を失いました。

12月26日が最後の面談となり、「自死確認書」にサインして自殺センター本館の門をくぐった瞬間にもう後戻りはできません。

15畳程度の施錠された部屋で自死執行を待つ洋介が受け取ったのは、1通の赤紙です。

送り先は同じ紅葉街駅前自殺センターで、自死者名の欄には前原悠里と記載されていました。

自分の苦しみだけで頭がいっぱいになっていた洋介は、初めて悠里の思いに気が付いて生きることを決意します。

【結】紅葉街駅前自殺センター のあらすじ④

 

死を乗りこえて生の意味を見いだす

自殺を撤回すると宣言した洋介は暴れ出しますが、「紅葉街L9」というナンバーの担当執行官に取り押さえられて処置室に連れていかれます。

これまでにも何10人もの自死確定者を法律に従って死なせてきた紅葉街L9でしたが、その正体は紅葉街を騒がせている切断魔です。

以前の職業は警察官で本名は香川茂智、14年前に洋介の兄・浩平を自殺に見せかけて殺害したのもこの男の仕業でした。

薬物を投与されてベッドの上で意識がもうろうとしている洋介を見下ろしていた香川は、浩平の「弟が帰ってくる」という言葉を聞きます。

次の瞬間に香川は鼻と口から大量の血を流しながら崩れ落ちていき、洋介が気が付いた時にはすでに息がありません。

洋介も夢の中で兄からの、「6年間入らなかった自宅の子供部屋のドアを開けろ」というメッセージを受け取っています。

香川に殺された兄たちの道となるためにも、このセンター内のどこかに閉じ込められている悠里を助けるためにも、自分自身が全てをやり直すためにも。

洋介は大きく息を吸い込んで息子の魂に祈りながら、外の世界へとつながるドアに手をかけるのでした。

紅葉街駅前自殺センター を読んだ読書感想

時の政府によって自殺が管理される近未来を舞台にした、骨太の社会派文学として幕を開けていきます。

日本全国どこにでもありそうな地方都市・紅葉街の真ん中にそびえ立つ、自殺センターが何とも不気味でした。

お役所仕事のように淡々と国民の死を処理する者もいれば、懸命の説得を続ける者もいて職員の対応も千差万別です。

中盤以降には推理小説のようなスリリングな謎解きも盛り込まれつつ、ラストはファンタジーのような展開が待ち受けていて驚かされます。

著者自身も本作品を刊行したわずか1年後に、35歳の若さでこの世を去ってしまったのが残念でなりません。

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