著者:真下みこと 2020年2月に講談社から出版
#柚莉愛とかくれんぼの主要登場人物
青山柚莉愛(あおやまゆりあ)
高校2年生。売れないアイドルグループ「となりの☆SiSTERs」のセンター。甘える末っ子キャラを演じている。
江藤久美
19歳くらい。今年高校を卒業した。「となりの☆SiSTERs」のひとり。しっかり者のお姉さんキャラを演じている。
南木萌(みなみきもえ)
高校3年生。「となりの☆SiSTERs」のひとり。おバカなぶりっこキャラを演じている。
僕(ぼく)
部屋にこもってネットばかり見ている。柚莉愛にきついアドバイスを送る、自称アドバイザー。
田島(たじま)
柚莉愛たちが所属するセルコエンターテインメントの社員。「となりの☆SiSTERs」のマネージャー。
#柚莉愛とかくれんぼ の簡単なあらすじ
売れないアイドルグループ「となりの☆SiSTERs」のセンターをつとめる青山柚莉愛は、事務所の指示により、ライブ配信でドッキリを仕掛けます。
それはライブの終わりぎわに血を吐いて倒れ、謎の文面を表示させる、というものでした。
配信後、ネット上では騒ぎが起こります。
そして、翌日柚莉愛が再登場して、あれはドッキリだったことを告げると、ネットは炎上するのでした。
#柚莉愛とかくれんぼ の起承転結
【起】#柚莉愛とかくれんぼ のあらすじ①
青山柚莉愛は、三人組の地下アイドルグループ「となりの☆SiSTERs」のセンターです。
グループ結成から二年になりますが、売り上げはかんばしくありません。
事務所の先輩アイドル、如月由紀が、CDを二十万枚も売っているのとは大違いです。
かつて由香をプロデュースして成功した田島は、いまは「となりの☆SiSTERs」のマネージャーをしています。
彼は、柚莉愛にライブ配信でドッキリをさせようとします。
柚莉愛は、本当はそんなことをしたくないのですが、しようがありません。
次のCDが三万枚売れなければ、「となりの☆SiSTERs」はメンバーを増やして、別物のグループになってしまうからです。
せっかくこれまで三人でがんばってきたのに、と柚莉愛は思うのです。
グループのメンバー、江藤久美と南木萌と柚莉愛は、それぞれ曜日を変えて、自宅からライブ配信を行っています。
でもそこは、本当は自宅ではなく、事務所が用意した部屋なのでした。
柚莉愛の配信は金曜日に行われます。
いかにも自分でスマホを操作して配信しているふりをしながら、事務所のスタッフがついて配信しています。
さて、その晩のライブの終わりごろ、柚莉愛は血を吐いて倒れました。
その直後「柚莉愛を見つけてね」「#柚莉愛とかくれんぼ」という謎の文面が表示されたのでした。
一方、「僕」はほとんど部屋に引きこもってネットに入り浸っています。
@TOKUMEIのハンドルネームを使って柚莉愛にきついアドバイスを送ることを生きがいにしているようです。
金曜の夜、柚莉愛が血を吐いて倒れる様子ももちろん見ていました。
【承】#柚莉愛とかくれんぼ のあらすじ②
「僕」は柚莉愛が倒れた動画を詳細に分析していき、最後の謎の文面を書いた画用紙を持っている手が、柚莉愛の手とは違うことを見つけます。
「僕」はそのことをツィッターで流します。
ネット上で反響が広がっていきます。
ライブをしている部屋の窓のところに「頭文字はH」というのが見える、と指摘するツィートも現れました。
翌日の土曜日、本来は柚莉愛がライブ配信する日ではないのですが、「重大発表」と題して、配信が行われます。
そのなかで、柚莉愛は、きのうのライブがドッキリであったことを告白します。
実は、十一月に五枚目のシングル「Help Me!」が発売されるので、CDのタイトルにちなんで、自分が倒れたらみんなが心配してくれて助けてくれるかな、という意図でそんなドッキリをしかけたのだと説明します。
事務所としたらそれで話題になってCDの売り上げにつながるともくろんだようです。
しかし、ネット民の反応はおおむね悪く、悪意の書きこみがなされます。
すっかり落ち込んで帰る柚莉愛に、久美からは、励ましのLINEが来るのでした。
【転】#柚莉愛とかくれんぼ のあらすじ③
「僕」は@TOKUMEIともう一つ別のアカウントを使って、ネットをあおり、炎上させようともくろみます。
ツィッターであることないことをつぶやき、まとめ記事に炎上のプロセスをアップして、それを読んだ人が柚莉愛炎上のことを知るようにして、ネット民を炎上へと誘導していきます。
ネットを知りつくしている自分だからできることだと「僕」は誇らしい気分です。
しかし、ネットの炎上を見た人から、こんな冷静な分析もアップされます。
今回のことは、アイドルが自分の思い通りにならないことに怒りを覚える人によって起こされたものだ、と。
それは「僕」には痛い指摘でした。
「僕」は柚莉愛の心まで支配できないことを知っているからです。
その翌日、「となりの☆SiSTERs」の握手会が開かれました。
柚莉愛に対しては、好意的に言う人もいるものの、罵声を浴びせる人も多くいました。
休憩中に柚莉愛がネットを覗くと、「謝って済む問題じゃない」といった罵声が飛び交っています。
柚莉愛は、途中でひとりだけ握手会を抜け、帰ることにしました。
ところが、田島に送ってもらい、母親との待ち合わせ場所で待っているとき、正体不明の男に殴られ、失神してしまったのでした。
【結】#柚莉愛とかくれんぼ のあらすじ④
※文体は「です・ます」調に統一して下さい。
====================例)路行く人を押しのけ、跳ね飛ばし、メロスは走っていきます。
ほとんど全裸で、息もできず、口から血が噴き出ます。
途中、セリヌンティウスの弟子であるフィロストラトスが止めにはいりましたが、メロスは制止を聞かず走ります。
最後の死力をふりしぼり、メロスは走りました。
まさに最後のわずかな光も消えようとした時、メロスはもの「僕」は自分の部屋でネットを見ています。
柚莉愛を批判する書きこみに、「僕」も批判するリプライを投稿します。
「僕」は炎上を作りだしたことを少し後悔しています。
そんな「僕」とは、実は「となりの☆SiSTERs」の久美なのでした。
久美は売れないアイドル活動を続け、大学にも行かず、部屋にこもって、不安でいっぱいでした。
その上、アイドルとしての久美は、本当の自分とはかけ離れていることに悩んでいて、アイドルではない自分を指し示す言葉として「僕」という人称を使うようになっていたのです。
「僕」がネットで柚莉愛をたたいていたのは、彼女が悲劇キャラであると見抜いていたからでした。
いじめられることにより柚莉愛に同情が集まって、人気が出る、というわけです。
そんな「僕」こと久美のほうが、グループのセンターにふさわしい、と考えているファンのおじさんがいました。
どうやら柚莉愛を殴って失神させたのは、そのおじさんのようです。
柚莉愛は気がつくと監禁されていました。
男は柚莉愛のスマホをいじり、彼女に成り代わって「助けて」と投稿します。
しかし、配信のドッキリで懲りたファンは、誰も本気にしないのでした……。
#柚莉愛とかくれんぼ を読んだ読書感想
第61回メフィスト賞受賞作品です。
既存の賞ではすくえない尖った作品を拾い上げることで有名な賞です。
この作品も尖っています。
ライトノベルのような口語的な文体で、ぽんぽんと話が進んでいきます。
どうしてもアイドルで売れたい、でも売れない、アイドルとしての顔と本当の自分の顔がどんどん離れていく、といった少女たちの心の葛藤がうまく描かれています。
ネットとアイドルについての参考書として読むことも可能です。
著者がどこまでそれらにかかわっているのかはわかりませんが、見てきたようにリアルに描かれています。
ただひとつ注文をつけるなら、ラストはハッピーエンドにしてほしかったです。
もっともこれは単に個人的な趣味の問題かもしれませんが。
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