【ネタバレ有り】壁の男 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:貫井徳郎 2016年10月に文春文庫から出版
壁の男の主要登場人物
鈴木(すずき)
ノンフィクションライター。稚拙な絵に彩られた町に魅せられて取材を始める。
伊刈 重吾(いかり じゅうご)
町の住人。学習塾を開く家の壁に絵を描き始める。
安城 梨絵子(あんじょう りえこ)
伊刈と離婚した妻。自分に自信を持てない一面がある。
澤谷(さわたに)
伊刈が東京で勤めていた会社の子会社で働いていた。伊刈の友人。
壁の男 の見どころ!
・壁に描かれた絵の謎
・伊刈の東京での暮らしと苦しみ
・明らかになる過去の悲しみ
壁の男 の簡単なあらすじ
ノンフィクションライターの鈴木は、ある町が謎の稚拙な絵で埋め尽くされていることを知り、興味を惹かれます。
家中の壁に、カラフルで単純なタッチで動物や人間が大きく描かれているのです。
鈴木はその絵について調べようと町を訪れます。
絵を描いたのは、伊刈という男性でした。
次第に伊刈の半生と悲しい過去が明らかになります。
壁の男 の起承転結
【起】壁の男 のあらすじ①
ノンフィクションライターの鈴木は、偶然群馬県のある町に、不思議な絵で覆われた町があることを知ります。
ほとんどの家の壁や塀などに、稚拙でカラフルな絵が描かれているのです。
鈴木は不思議な魅力を感じてすぐにその町に向かいました。
住民に絵の描き手を聞いたところ、伊刈という住人が描いたと知らされます。
伊刈のもとを訪ねますが、趣味で描いたというばかりで、詳しいことは教えてもらえませんでした。
しかし、どうしても納得のいかない鈴木は伊刈についてもっと知りたいと思い、伊刈は若いころは東京で働いていたという情報を得て、取材を始めます。
【承】壁の男 のあらすじ②
伊刈の母親は美術教師で、三年連続で二科展に入賞するような才能の持ち主でした。
しかし、伊刈には絵の才能がありません。
学校では、美術の時間が来る度にコンプレックスを感じていました。
伊刈は町での田舎ぐらしに嫌気がさして、大学から東京で暮らすことを選択します。
そのまま東京で就職し、大学時代の後輩・梨絵子と交際を始めました。
会社の子会社に勤める澤谷という友人もでき、東京での暮らしに幸せを感じていました。
澤谷は児童養護施設で育ち、そこで出会った女性・美里と早くに結婚し、子どもを望んでいました。
伊刈はそんな二人を応援しています。
そしてある日、伊刈は美里の妊娠を知るのです。
美里が出産してからも、澤谷夫婦と伊刈の付き合いは続きました。
子どもは伊刈にもなつきます。
幸せな暮らしが続きましたが、ある日、澤谷夫婦が事故で即死してしまいます。
【転】壁の男 のあらすじ③
伊刈は澤谷夫婦の死を悲しみます。
澤谷夫婦は二人とも施設育ちなので、このままでは二人の子どもも施設に入ることになります。
伊刈は自分が二人の子ども・笑里を引き取ることを考えました。
そのためには、伊刈にも家庭が必要です。
伊刈は笑里を養子にすることを条件に、梨絵子にプロポーズします。
梨絵子は精神的に不安定なところがあり、過去に浮気騒ぎを起こしたこともありましたが、二度と伊刈を裏切らないと誓いました。
伊刈からのプロポーズも、笑里の存在を知らされて戸惑いましたが、澤谷夫婦のこともよく知っていた梨絵子はそれを受け入れます。
三人の新しい暮らしが始まりましたが、笑里が三歳になったころに悲劇が訪れます。
笑里が小児がんを発症したのです。
懸命に伊刈と梨絵子は看病をしましたが、笑里は闘病の末に亡くなります。
絶望の中、梨絵子は封印していた浮気癖がまた発症します。
梨絵子はそんな自分を恥じて、姿をくらまします。
笑里の看病のために仕事を辞めていた伊刈は東京に居場所を失い、故郷の町に戻ります。
しかし、町は一度出ていった者に対しては冷たい視線を浴びせます。
子ども時代に仲良くしてくれた人々も、どこかよそよそしいのです。
伊刈は町に住む子供たちのために、学習塾を開きます。
町内には塾はなく、遠くまで通塾する必要があったからです。
最初は生徒数は少なかったのですが、次第に増えていきました。
しかし、時代は少子化。
次第に生徒数は減少していったので、便利屋のような仕事も請け負うようになりました。
次第に伊刈は町の人々と距離を縮めていきました。
【結】壁の男 のあらすじ④
伊刈の学習塾は、亡くなった母のアトリエを改修したものでした。
伊刈は絵の才能を伸ばせなかったことを負い目に感じていました。
しかしある日、子どもたちを喜ばせようと室内に絵を描いてみたところ、自分でも驚くほどの解放感と幸せを感じることに気付きます。
その絵は稚拙で単純なものでしたが、笑里が喜んでくれたものだったのです。
塾に通う生徒たちも、壁に書かれた絵を見つけては羨ましがります。
伊刈は子どもにも絵を描かせました。
次第に、室内は絵だらけになり、空いているスペースはなくなりました。
伊刈は学習塾の外壁もキャンバスにしました。
伊刈の絵は、なぜか人々の心をとらえました。
ある日、町内の子どもを無くした夫婦が自分たちの家にも絵を描いてほしいと頼みにきます。
他にも、商店の店主が客寄せのために思いっきり目立つものを描いてほしい、と依頼を寄せます。
次第に伊刈への絵の依頼は増えてゆき、町中が伊刈の絵であふれるようになりました。
最初は良く思わなかった人々もいましたが、伊刈の絵のお陰で観光客が増えて町内が潤ってきたので考えを改めました。
伊刈の絵のきっかけは子どもの死という悲しい出来事でしたが、その悲しみを絵に昇華させることで、町の発展を生んだのです。
壁の男 を読んだ読書感想
大きな事件も起きない穏やかなストーリーですが、友人夫婦と子どもを失ってしまった伊刈の悲しい過去が胸を打ちます。
伊刈が町の住人に受け入れられていく過程に感動しました。
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