【ネタバレ有り】説教師 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:カミラ・レックバリ 2010年7月に集英社から出版
説教師 の主要登場人物
パトリック・ヘードストルム(ぱとりっく・へーどすとるむ)
ターヌムスヘーデ警察の刑事。
エリカ・ファルク(えりか・ふぁるく)
作家。パトリックの妻。
ユハンネス・フルト(ふはんえす・ふると)
過去の女性失踪事件の重要容疑者。故人。
ガブリエル・フルト(がぶりえる・ふると)
ユハンネスの兄。牧場を経営している会計士。
ヤーコブ・フルト(やーこぶ・ふると)
ガブリエルの息子。宗教団体の指導者。
説教師 の簡単なあらすじ
スウェーデンのある洞窟で、全裸遺体となった女性と、2つの白骨遺体が発見されました。
彼女たちは同じように虐待された形跡があり、殺害の手口が同じでした。
パトリックは、代々宗教団体を運営するフルト家の人間が事件にかかわっているのではないかを捜査を進めます。
一方、パトリックの妻のエリカは、妹の新しい男性関係のことで頭を悩めることになります。
パトリックは事件を解決しますが、そこには苦い結末が待っていました。
説教師 の起承転結
【起】説教師 のあらすじ①
スウェーデンに異常気象が到来し、暑い夏が続いていました。
そんななか6歳の少年が洞窟で女性の全裸遺体を見つけます。
警察が到着して調べたところ、その女性のほかにも、2人分の女性の白骨死体が見つかりました。
それらの遺体には約20年の隔たりがありますが、どちらも死ぬ前に長い期間に渡って骨を折られるなどの虐待を加えられていたことがわかりました。
同一人物の犯行かもしれないこの事件に、長期休暇中だったパトリックが呼び戻されて捜査の指揮に当たります。
一方、彼の妻エリカは、近々出産予定でただでさえ生活に苦労しているのに、無遠慮な親戚一家が家に泊めてほしいとやってきて、ますます彼女を疲れさせます。
そんな妻を心配しながらも、捜査を任されたパトリックは、最近行方不明になった女性と20年以上前に行方不明になった女性を探して、彼女たちの正体を突き止めます。
全裸遺体はドイツから旅行に来ていた女性で、白骨遺体は過去の失踪事件の被害者でした。
過去の失踪事件にはユハンネス・フルトという重要容疑者がいました。
彼の兄ガブリエルが、弟が失踪した女性と一緒に車に乗っていたところを見たと警察に証言したのですが、ユハンネスがそれを否定したのです。
ユハンネスは警察に尋問された数ヵ月後に自宅の納屋で首を吊って死にました。
そのため、同一犯の犯行はありえなくなりました。
パトリックが捜査に奔走するなか、エリカは親戚一家の振舞いに我慢できなくなり、とうとう彼らを家から追い出します。
客人がいなくなったことで、エリカとパトリックは親戚と友人を誘ってパーティーをしようとします。
そこにはエリカの妹アンナも含まれていました。
【承】説教師 のあらすじ②
ユハンネスの名前が出てきたことから、警察は捜査網をフルト家に絞ることにしました。
フルト家は宗教団体を運営しており、ガブリエルの息子ヤーコブが現在の指導者です。
ガブリエルは、妻や子供たちと一緒に、父親が遺した豪華な家に住んでいました。
そのガブリエル一家を憎々しく思っているのが、ユハンネスの家族です。
妻のソルヴェイクと2人の息子ローバット、ユーハンは粗末な小屋に住み、希望のない生活を送っていました。
周りの人たちはユハンネスが女性たちの失踪に関わっていたと思っており、彼らは冷遇されていたのです。
そんななか、過去の事件と同じ手口で新しい犠牲者が出たことで、彼らはユハンネスの仕業ではなかったと活気づき、ガブリエルの家族たちに不躾な態度をとり始めます。
パトリックが解決の糸口をつかめないまま、自宅でパーティーをする日がやってきました。
エリカの妹アンナは、長年夫からDVを受けて、その暴力が子供にも及んだため、最近になってようやく分かれたのでした。
エリカは妹の離婚に一安心していたのですが、アンナがパーティーに連れてきた新しい彼氏を気に入りません。
後日、エリカがアンナを心配して忠告すると、口論になってしまい、妹と喧嘩別れをすることになりました。
頭を悩ませるエリカですが、捜査のほうでも深刻な事態が浮上しました。
ヒッチハイクでキャンプ場に向かっていた女性が行方不明になったのです。
【転】説教師 のあらすじ③
新たな行方不明者が出たことで、捜査陣は焦りをみせます。
そんななか、パトリックは、ユハンネスの遺体の処理が、警察も呼ばれずに、正規の手続きを踏んでいないことを知ります。
そこでパトリックは、ユハンネスの墓を掘り起こして、彼が本当に死んでいるのかを確かめることにします。
結果、ユハンネスの遺体は棺桶に収まっていて、これは空振りかと思われました。
ところが、ユハンネスの遺体から意外なことがわかります。
彼は首を吊って死んだのではなく、後頭部をたたき割られて亡くなっていたのです。
また、ドイツ人女性の遺体についていたDNAとユハンネスのDNAを比較した結果、ドイツ人女性に付着していたDNAはユハンネスの肉親のものだと判明しました。
これで捜査は大きく動きます。
また、ユーハンが、遺体で見つかったドイツ人女性がガブリエルの家の周りをうろついているのを見たという証言もあり、警察は容疑者を団体の指導者ヤーコブに絞ります。
ヤーコブを署まで連行したパトリックは、彼を厳しく尋問しますが、何も聞き出せません。
結局、彼から採取したDNAが被害者についていたDNAと一致するかどうか待つしかありません。
一方、アンナは自宅に戻ると家の中がめちゃくちゃに荒らされているのを目にします。
犯人はすぐにわかりました。
元夫の仕業です。
彼はアンナに電話をかけていて、よりを戻さないと後悔することになると脅していたのです。
アンナは恐怖に支配され、元夫の元へと戻っていきます。
そのことを知ったエリカは深い悲しみに囚われるのでした。
ヤーコブのDNAは、被害者に付着していたものと一致しませんでした。
うなだれるパトリックですが、意外な事実も判明します。
ヤーコブはガブリエルの息子ではないというのです。
ヤーコブは、ユハンネスとガブリエルの妻の間に生まれた子でした。
ヤーコブは、その事実を知ったあとに失踪します。
【結】説教師 のあらすじ④
容疑が晴れた今、ヤーコブが危険にさらされているのでは思うパトリックでしたが、DNA解析をした監察医からある仮説を聞かされます。
ヤーコブは、子供のころに白血病に侵され、祖父から骨髄を提供してもらったのです。
その結果、ごくまれにヤーコブから祖父のDNAが検出されるというのです。
それで、DNAが一致しなかったことも説明がつきます。
パトリックはヤーコブの部屋を徹底的に調べた結果、秘密の手記を見つけます。
そこには驚くべきことが書かれていました。
ユハンネスの父エイフラムは、怪我や病気の人間を癒すパフォーマンスをしていたのです。
ユハンネスは奇跡の癒し手として参加し、患者が父の仕込みとも知らずに自分は奇跡の力があると思い込んでいたのです。
しかし、エイフラムがその見世物をやめて、息子にそうした力は歳とともになくなると嘘をつきとおすと、ユハンネスはそれを信じてショックを受けます。
ユハンネスは、癒しの力を取り戻そうと、女性を拉致して、傷つけては治そうという行為に及んでいたのです。
ヤーコブが隠し持っていた手帳は、その”治療記録”だったのです。
ヤーコブも、エイフラムのペテンを知らず、自分もユハンネスのような力が宿っていると教えられながら育ってきました。
そのため、手帳を見つけた彼はユハンネスと同じ行為に及び、治癒の力を確認しようとしたのです。
20年越しの事件は、エイフラムの嘘に端を発したものだったのです。
パトリックは、防空壕に潜んでいたヤーコブを発見しますが、ヒッチハイクの女性を助けるには遅すぎました。
女性を助けられず、捜査が終了しても暗い気分を引きずっていたパトリックでしたが、エリカから陣痛が始まったという報告を受けて飛んでいきます。
最後は回想で、ユハンネスの死の真相が語られます。
エイフラムが息子の殺人を知り、彼を殴りつけた結果、ユハンネスはコンバインに後頭部を打ち付けて死亡したのです。
説教師 を読んだ読書感想
エリカ・パトリックシリーズの2作目に当たる作品です。
シリーズのなかでもこの『説教師』は高い評価を受けています。
残忍な連続殺人の原因は、たった1つの欺瞞でした。
ミステリと言えば、犯人捜しが醍醐味ですが、本作は人間ドラマにも重きが置かれています。
フルト家の人間は一人一人にキャラが立っているので、その複雑な人間関係が物語に深みをもたらしています。
また、捜査だけでなくエリカの家族の悩みも、話の見どころになっています。
北欧ミステリは社会派と呼ばれる作品が有名ですが、こうして1つの家庭にフォーカスを当てて、丁寧な物語を描くというのがレックバリ氏の特徴です。
終盤の読者の意表を突く展開もミステリとして面白く、読み応えのある作品に仕上がっています。
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