著者:小池真理子 2010年1月に中央公論新社から出版
東京アクアリウムの主要登場人物
わたし(わたし)
物語の語り手。平社員からスタートして編集長にまで上りつめた。意味のない笑顔や人なつこさを装うのが面倒。
佐和(さわ)
わたしの親友。フリーライターからプロダクションの代表に収まる。感じたことや考えたことをストレートにぶつける。
関根(せきね)
わたしの秘密の恋人。ドキュメンタリー監督として知名度があるが不健康。
佐久間(さくま)
佐和と不倫中。勤め先は小さな広告代理店で専業主婦と娘を養うので精一杯。
東京アクアリウム の簡単なあらすじ
安定した結婚生活よりも自分のやりたいことと自由な暮らしを選んだ「わたし」が出会ったのは佐和、同じような境遇であったために意気投合します。
ともに妻子ある男性との関係に深入りして、結果的には相手の家庭を壊したり不幸に追いやってしまうことに。
死んだはずの元恋人のシルエットに翻弄されながらも、わたしと佐和との友情は40代半ばに突入しても続いていくのでした。
東京アクアリウム の起承転結
【起】東京アクアリウム のあらすじ①
プールに顔をつける、両足で強くキックをする、何度も水をかく… ずいぶんと前に進んだろうと思って顔を水面からあげてみても、泳ぎはじめた場所から少しも進んでいません。
小学校の体育の時間に習う平泳ぎがうまく出来なかったため、休み時間には自然と教室や図書室で読書をしていることが多くなったわたし。
本を扱う仕事がしたかったために、就職先には中堅の出版社を選びました。
コネもなく後ろ盾もないゼロからの入社、オフィスを飛び出して四六時中外をかけずり回ることに。
外部のカメラマンや他社のライターとの横のつながりを作るためであり、ようやく秋の新作コスメのためのインタビュー特集を任されます。
一般の読者から化粧品メーカーの従業員まで複数を集めての覆面座談会、その中心にいたのが若干30歳にしてプロダクション会社の代表取締役である佐和。
もともとは女性誌などの美容ファッションに関する原稿をフリーで書いていたそうで、プライベートでもわたしとウマが合う仲です。
【承】東京アクアリウム のあらすじ②
職場の先輩と結婚したところ、「いい奥さん」になれなかったために短期間で離婚したところ、仕事のほうは順調そのもので楽しくて仕方がないところ。
同世代でもあり同じくらいにお酒が強いこともあって、飲みにいくとお互いの恋愛遍歴から性関係までを包み隠さずに打ち明けあいました。
いま現在わたしがお付き合いをしているのは、関根という名前でドキュメンタリーを専門に手掛けている映像作家。
年齢は10歳以上も離れていて、うつ病で入退院を繰り返している妻と中学3年生になったばかりの息子がいるため再婚には至らないでしょう。
一方の佐和も男が途切れない体質のようで、佐久間というコピーライターと割り切った関係を続けていますが彼もまた既婚者とのこと。
その佐久間は住んでいるマンションの地下室で首をつって、4日ほど経過してから管理人によって発見されます。
泣きもせず、取り乱しもせず、驚くほど冷静な佐和を見ていると逆にわたしの方の不安が募るばかり。
ありきたりな慰めの言葉しか出てこないわたしに待っていたのは、関根の急死です。
【転】東京アクアリウム のあらすじ③
規定量を超えた睡眠薬の常用と大量のアルコールが原因となって心臓発作を起こした関根、本人も予測してなかったようで身内に宛てたメッセージはありません。
立場上から通夜にも出席できず告別式にも顔を出せず、埋葬場所さえ知られていないわたし。
それ以上にショックだったのは1年くらい後で、いつも待ち合わせに使っていた広尾のレストランのオープンテラス席に関根が座っていたことです。
誰にも言えなかったのは頭がヘンになったと思われたくなかったから、見間違いだと断定されたくなかったから。
唯一分かってくれたのは佐和、やはり彼女も佐久間のそっくりさんに会っていました。
仕事関係の立食パーティーで大勢の人が招かれた会場、幽霊だったのか錯覚だったのかは分かりません。
ただひとつハッキリとしているのは、不思議な経験を通してわたしたちの絆がより一層に強くなったこと。
社内に新書編集部が設立されて編集長に起用されたわたし、しばらくは業務が多忙になり佐和と会う機会も減っていきます。
【結】東京アクアリウム のあらすじ④
毛穴やら隈やら静脈のハンドベインやら、人生の疲れがくっきりとクローズアップされてしまうのが40歳を過ぎてきたころ。
煌々とした明かりの下で安心して食事が取れなくなってきたわたしにとって、適度にほの暗く夜景がきれいなカフェは佐和と会う時に重宝しています。
乾杯はシャブリ、前菜は天然真鯛のミモザ・マリネ、メインディッシュはチーズプレート、岩のりのリゾットとひき肉のリングイネも追加で。
たとえ何年ぶりかの再会であろうとお互いに大げさな黄色い声を上げたり、ベタベタと抱きあったりする必要はありません。
女性ライターだけなく男性のイベンターまで社に出入りするようになった佐和の事業は順調そのもの、次に狙っているのはニューヨークにスタジオを所持するスタイリストだそうです。
都会の明かり、店内の間接照明、シャンパン用のクープグラス、夜を映し出す黒々とした窓際、深海魚のような目をした黒服のギャルソン… ここが巨大な水槽でガラスの向こうに新しい世界が広がっていることを確信したわたしたちは、軽くグラスを合わせて運ばれてきた料理を残らず平らげるのでした。
東京アクアリウム を読んだ読書感想
水の上にプカプカと浮いたままで、いつまで経ってもゴールにたどり着けないという何ともどんくさい女子児童。
絵本の中に逃げ込んでしまうのかと思いきや、出版業界に足を踏み入れてやり手の編集者として認められていくとは予測できませんね。
常にステップアップを狙う彼女の性格からして、おとなしく家庭に入ることなど端から考えていなかったのでは。
同じく「結婚」や「妻」といった枠には収まらない佐和、ふたりの間に芽生えていく戦友のような一体感がステキです。
無機質なオフィス街やスタイリッシュな喫茶店に、突如として水と魚が侵入してきて水族館に早変わりするシーンも幻想的ですよ。
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