「天頂より少し下って」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|川上弘美

「天頂より少し下って」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|川上弘美

著者:川上弘美 2011年5月に小学館から出版

天頂より少し下っての主要登場人物

真琴(まとこ)
ヒロイン。語学が堪能で翻訳家としてフリーで食べていける。シングルマザーだがいくつになっても恋愛を楽しみたい。

涼(りょう)
真琴の恋人。見た目は柔らかげだが警戒心は解かない。

利幸(としゆき)
真琴の元夫。仕事もプライベートも無難な方を選ぶ。

真幸(まさき)
真琴の息子。幼い頃から数式と図面に興味をもつ。

初子(はつこ)
真琴の親友。子育てが忙しくても自分の時間を大切にする。

天頂より少し下って の簡単なあらすじ

若い頃から彼氏の絶えない真琴は利幸とのあいだに赤ちゃんを授かりましたが、結婚生活は短期間で破綻することに。

真幸と名付けた我が子を女手ひとつで育てていきますが、遊び好きな性格は相変わらずです。

思春期・反抗期を経験しつつ社会人として自立していく真幸は奔放な母に戸惑いながらも、適度な距離感と良好な親子関係を維持していくのでした。

天頂より少し下って の起承転結

【起】天頂より少し下って のあらすじ①

少女から大人女子になるまで男が途切れない

高校生になってすぐの初恋を皮切りにして、真琴は何人もの異性とお付き合いをしてきました。

背の高い人や低い人、太った人や痩せた人、男性器の大きな人や小さな人… 体つきやしゃべり方はボンヤリとは思い出せますが、名前や顔は定かではなく今頃どこで何をしているのやら。

大学に入ってからすぐに利幸という先輩と学生結婚、技術畑の仕事に就いているそうですが文系の真琴には話を聞いてもサッパリ理解ができません。

2年後には妊娠・出産と慌ただしくなりそのまま退学へ、生まれてきた男児にはそれぞれの名前を1字ずつとって「真幸」と命名します。

離婚話が具体的になってきたのは30歳になる直前から、ふたりの間の問題点を掘り下げていく精神的な余裕がなかったから。

真幸の親権を獲得した真琴、元妻にどことなく似たような女性を見つけるとしばらくしてから一緒になった利幸。

真琴がふたたび恋をはじめたのは30代の半ば、出会ったのはショッピングセンターにテナントとして入っている靴屋さんです。

【承】天頂より少し下って のあらすじ②

水を得た魚のような再燃に家族不和のモーター音が

最初はお客さんと店員として、常連になってからはどちらからともなく食事やデートに誘って。

久しぶりに男の人のくちびるを感じた真琴、気持ちがいいとも悪いとも言えません。

強いていうならば初夏にプールにつかった時のあの感じ、濡れてない体と水着のあいだにやってくる解放感のような感じ。

涼は中肉中背でこれといった特徴がなく、11歳も年下でしたが年齢よりも落ち着いた不思議なムードをまとっています。

真琴が抱きしめると少しだけ力が入って、肩やおなかに触ると緊張感が走って。

他人行儀なところがある涼をラブホテルに引きずりこんだ真琴、全身全霊をかけて愛してあげるつもりです。

お互いにすっかり肌馴れることができましたが、朝帰りをしてきた母に眉をひそめるのは小学校の6年生になった真幸。

つい先日に頼まれていた磁石とニクロム線を買ってくると、自分でモーターを組み立てて懐中電灯を作っていました。

あっという間に大学を卒業したかと思えば家庭電化製品メーカーに就職、やはり利幸の血を色濃く受け継いでいたのでしょう。

【転】天頂より少し下って のあらすじ③

新しいページが開けてくるもののお先は真っ暗

学生時代から真琴が1番に仲よくしていて、今でも頻繁に連絡を取りあっているのが初子。

彼女に頼まれて海外の料理本を和訳してみたところ、思いのほかに評判がよかったために翻訳のプロとして見通しが立ちました。

今年中に出版するという約束を出版社と交わしているのが2冊、間もなく40代に突入するために体力的にはきつく感じています。

以前であれば1週間でできたことがこの頃では10日かかり、あと5年もすれば2週間に延びていくでしょう。

さらに10年たてば1カ月、20年後には2カ月… 年齢的な不安を口にするようになった真琴、来年のことを言えば鬼が笑うとあっけらかんな初子。

ふたりの女の子を生んでも若さとバイタリティーを失わず、趣味と仕事を両立させているとのこと。

真幸とはつい先日も言い争いに、ピーナッツを食べながら作業をしていてキーボードをベタベタにしてしまったというつまらないことが原因です。

1度だけ涼のことを紹介してみましたが、困惑した表情を浮かべていていまいち打ち解けていません。

【結】天頂より少し下って のあらすじ④

今宵の月に酔う恋多き母子

冬がくると涼のお店にはブーツが大量に入荷してきて、検品やら棚卸しやらで大忙し。

真琴も枯れ葉色で甲を覆うデザインのシューズを探しにいきましたが、話しかけるチャンスはありません。

そんな夜にはウイスキーでも1杯、サラミソーセージでもお摘みにして。

スーパーマーケットで買い物をして帰宅すると真幸が、浴槽には湯気が立っているので珍しく先にお風呂を済ませたのでしょう。

点けっぱなしにしてあるテレビからは騒がしいバラエティー番組が、ぼんやりと画面を眺めていてなにやら落ち込んだ様子。

技術開発部に配属された勤め先のほうはいたって順調、お悩みは最近になってできた彼女のこと。

ふたりでグラスを傾けて静かに飲んでいると、少しだけ笑顔が戻ってきます。

涼も好きだけど真幸はもっと好き、不埒で女をむき出しにした自分のことも大好き。

リビングをゆっくりと横切るとサッシ越しに満月が、煌々と輝きながら天頂から少しくだったところです。

「おやすみ」と真琴が声をかけると、軽く手を挙げながら答えるのでした。

天頂より少し下って を読んだ読書感想

突然に「わー」とさけび声をあげて走り出し、隣町まで遊びに行ってしまうほどのお転婆ちゃんだった主人公・真琴。

そんな彼女も多彩な男性たちを魅了するようなお年頃に、泣いたり泣かせたりといった別れの場面が思い浮かんできました。

ようやく地に足を着けて家庭を築くのかと思いきや、誰かを好きになる気持ちとトキメキは抑えられないんですね。

生真面目な年下でちょっぴりシャイな好青年の涼くんや、戦友のような絆で結ばれている姉御肌な初子さん。

良き理解者に恵まれた真琴と最愛の息子が、月下で杯を交わすラストには美味しいお酒が飲みたくなりますよ。

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