著者:木内一裕 2023年11月に講談社から出版
一万両の首 鍵屋ノ辻始末異聞の主要登場人物
市岡誠一郎(いちおかせいいちろう)
江戸に住む浪人。めっぽう腕が立つ。
神崎彦六(かんざきひころく)
御家人。誠一郎の友人。
河合又五郎(かわいまたごろう)
岡山藩池田家の藩士の息子。江戸に出奔した。
兼松又四郎(かねまつまたしろう)
旗本。けんかっ早いので有名な男。
安藤源次郎(あんどうげんじろう)
旗本安藤治右衛門の弟。
一万両の首 鍵屋ノ辻始末異聞 の簡単なあらすじ
備前岡山藩池田家で、河合又五郎という青年が、小姓を斬って出奔しました。
又五郎は江戸へ出て、旗本兼松又四郎の庇護下に入ります。
又五郎を引き渡すように要求する池田家と、又四郎の争いは、じきに、外様大名連合対旗本八万騎の争いへと発展していきます……。
一万両の首 鍵屋ノ辻始末異聞 の起承転結
【起】一万両の首 鍵屋ノ辻始末異聞 のあらすじ①
河合又五郎は、備前岡山藩池田家の家臣の息子です。
彼は、やむにやまれぬ事情から、殿が寵愛する小姓の渡部源太夫を斬って、出奔しました。
又五郎は江戸へ出て、父が昔いた高崎藩安藤家を頼ろうとします。
が、ふとしたきっかけで、けんかっ早い旗本の兼松又四郎の家来になりました。
又四郎のところには、岡山池田家より、又五郎を引き渡すようにとの要求がありますが、又四郎はがんとして応じず、又五郎をかばおうとするのでした。
一方、江戸には、市岡誠一郎という腕の立つ浪人がいます。
彼は、知り合いの御家人、神崎彦六の紹介で、用心棒の仕事などしながら、糊口をしのいでいます。
あるとき誠一郎は、浪人に難癖をつけられた娘を助けます。
それは、旗本阿部家の娘でした。
後日、阿部家からお礼の金品が届けられました。
そのおり阿部家のほうから、兼松又四郎の家で、腕の立つ剣客を求めているので、紹介したい、と言われたのでした。
さて、それとはまた別の話ですが、誠一郎と同じ長屋に住む、竹蔵という少年が家に帰ってこない、という話が持ち込まれます。
【承】一万両の首 鍵屋ノ辻始末異聞 のあらすじ②
兼松又四郎の家では、河合又五郎を守るため、腕におぼえのある用心棒を雇うことになりました。
呼びかけにより、数十名の浪人が集まりました。
そのなかには、又五郎を殺すための刺客も混じっていました。
しかし刺客は、兼松家の家来によって、返り討ちにあったのでした。
一方、集まった浪人のなかに、市岡誠一郎もいました。
又四郎は、誠一郎の腕と人柄を見抜き、用心棒たちのとりまとめ役として雇いたい、と申し入れます。
給金も、ほかの浪人より高く払うそうです。
けれども誠一郎はその話を断って、帰宅したのでした。
長屋にもどると、どこかの家の武士が、行方不明だった竹蔵の遺体を運んできました。
妓楼から身請けされた禿と恋仲になった竹蔵は、それをとがめられて切腹したとのことです。
ただ問題は、武士たちが竹蔵を介錯しようとせず、苦しんで死ぬのをただ見ていた、ということです。
誠一郎の妻は怒り、誠一郎は彼らを討ち果たすことを誓います。
一方、兼松家と池田家の争いに、仲介する家が出てきます。
又五郎の父、半左衛門と、又五郎を交換することで手打ちにする、という案を出します。
しかし、池田家の者が半左衛門をつれて又五郎の家にいくと、仲介案は罠であったことがわかります。
だまされたと知った池田家の責任者は、その場で腹を切ったのでした。
【転】一万両の首 鍵屋ノ辻始末異聞 のあらすじ③
騒ぎは大きくなり、備前岡山藩池田家と、旗本兼松又四郎の争いにとどまらなくなりました。
外様大名たち合計百七十万石対、旗本八万騎の対立へと発展したのです。
江戸幕府はこれを憂慮し、対策案を練ります。
知恵伊豆と呼ばれた松平伊豆守は、又五郎の首に一万両の賞金をかけ、江戸府内の浪人たちに討たせることを提案します。
これにより、外様大名と旗本に、共通の敵を作るのが目的です。
大久保彦左衛門と柳生但馬守宗矩が、この案を実行するために動くことになりました。
一方、市岡誠一郎は、竹蔵を切腹させたのが、旗本安藤治右衛門の弟、安藤源次郎であることをつきとめます。
が、源次郎は加勢のために兼松家にこもっていて、手を出せません。
そんなとき誠一郎は、柳生家から呼ばれて、出かけていくことになりました。
柳生家には、腕に覚えのある浪人三十数名が集められていました。
柳生十兵衛が説明するところによると、又五郎を討ち取った者に一万両を支払う、ということです。
誠一郎は、又五郎を討つために兼松家に突入したときに、安藤源次郎を斬ることを考えます。
誠一郎は、浪人たちのなかで、実戦経験のある、矢嶋平蔵と澤部弥十郎のふたりと結託して、兼松家に討ち入ることを決心したのでした。
【結】一万両の首 鍵屋ノ辻始末異聞 のあらすじ④
江戸城内では、松平伊豆守と、柳生但馬守と、大久保彦左衛門の三人が集まって、今後のことを話し合いました。
その結果、河合又五郎を彦左衛門の家に引き取ることとし、運ぶ途中の牛ケ淵で浪人たちに討たせよう、ということになりました。
一方、矢嶋平蔵は、又五郎の護衛隊長をつとめる安藤源次郎と会い、又五郎が運ばれる隊列が偽装部隊であることを聞き出します。
さらには、源次郎の兄、治右衛門を斬ることを約束し、それと引き換えに、襲撃のための情報を引き出します。
さて、又五郎が大久保家へ運ばれるという日、誠一郎、平蔵、弥十郎の三人は、兼松家に踏み込みました。
平蔵は治右衛門に深手をおわせますが、又四郎に邪魔されて、又五郎を斬れません。
又四郎は、自分の命にかえても、又五郎を守るつもりです。
武士の矜持に感銘した誠一郎は、又五郎の側につき、平蔵と対決します。
平蔵は逃げていきました。
誠一郎は、安藤治右衛門の了承を得て、彼の弟の源次郎を討ちに向かいます。
又四郎が愛馬を貸してくれました。
牛ケ淵に向かう途中、浪人の子供をひろい、そのまま馬に乗せて進みました。
そうして、牛ケ淵で、誠一郎はみごとに安藤源次郎を討ち果たしたのでした。
誠一郎は、先ほどひろった子供を、家につれて帰ります。
その子は、又五郎討伐のために、岡山藩池田家の刺客が殺した浪人の、息子でした。
誠一郎と妻は、その子を家族として育てることに決めたのでした。
一万両の首 鍵屋ノ辻始末異聞 を読んだ読書感想
一読して感じたのは、なかなか堂に入った作品だなあ、ということでした。
この著者は、アウトローを主人公とした現代小説を多く書いています。
でも、時代小説は初めてのようです。
それなのに、もう何年も時代小説を書いているかのような、どうどうたる作風だったのです。
感心したところを具体的にひとつあげると、セリフです。
いかにもその当時の人がしゃべったであろうと思える、時代劇調のセリフが、ちゃんと書かれているのです。
時代劇を書きなれていない作家さんですと、まずこのセリフで破綻してしまうことが多いのです。
つまり、ぜんぜん時代劇らしくない、現代人がしゃべっているようなセリフを書いてしまうのです。
そのところを、木内一裕氏はみごとにクリアしています。
もちろん、セリフがいいだけではありません。
複雑に絡み合ったストーリーを、いとも簡単なように展開してみせる構成力は、今回もさえわたっています。
クライマックスでのチャンバラも見事に魅せてくれます。
実によい時代劇を読ませてもらった、と思いました。
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