著者:高山羽根子 2023年1月に講談社から出版
パレードのシステムの主要登場人物
私(わたし)
物語の語り手である〈私〉。作中に名前は出てこない。美大を中退して芸術家として活動している。
カスミ(かすみ)
大学にいたころの〈私〉の友人。本名は小林某で、「カスミ」とはまったく違う。
祖父(そふ)
〈私〉の祖父。作中に名前は出てこない。台湾が日本の統治下にあったときに、台湾で生まれ育った日本人。
梅さん(うめさん)
〈私〉がギャラリーカフェでアルバイトしていたときの同僚の女性。台湾から美術の勉強をするために来日している。
()
パレードのシステム の簡単なあらすじ
〈私〉は、少しばかり作品が売れるようになった芸術家です。
祖父が自死したという報せを受けて実家に帰りました。
そこで〈私〉は、祖父が、かつて台湾で生まれ育った日本人であることを知ります。
〈私〉は祖父の経歴に興味を持ち、やがて知り合いを頼って台湾へ旅立ちます。
現地で見たものは、〈私〉に強い印象を残すのでした……。
パレードのシステム の起承転結
【起】パレードのシステム のあらすじ①
〈私〉は久しぶりに里帰りしました。
祖父が亡くなったので、その死に顔を一目見るためです。
高齢の祖父は自死したため、実子である〈私〉の母と、叔母の京子さんのふたりだけで葬式を終えていました。
〈私〉が帰省したというので、高校時代の友人が会いに来ました。
彼女から、〈私〉が大学を辞めたことについて訊かれます。
〈私〉は高校を出たあと、逃げるようにして故郷を出て、東京の美大に入り、いままた大学を逃げ出したのです。
しかし友人に本当のことは言わず、「美大に在籍中に、作品の依頼がくるようになったので、そちらを優先したのだ」と用意してある回答を説明したのでした。
一方、実家に、いとこのまあちゃんが手伝いに来ました。
おしゃべりしているうちに、祖父が台湾生まれだということが話題にのぼります。
かつて台湾が日本領であったころ、日本から移り住んだ夫婦の間に生まれたのが祖父だったのです。
その後、敗戦により、祖父は日本に帰国し、三度の結婚をしたのでした。
祖父の二人目の妻との子が〈私〉の母で、三度目の妻との間にできた子が〈私〉の叔母です。
さて翌日、帰る段になって、叔母から「大学を辞めたために、仲のよかった子の葬式に出席できなかったんでしょう」と指摘されました。
〈私〉が無理やり祖父の家に来たのは、そのときの代償かもしれないと思います。
その一方で、祖父のこれまでの人生が、〈私〉のなかで明確に実感となってくるのでした。
【承】パレードのシステム のあらすじ②
東京にもどった〈私〉のもとに、母から荷物が届きます。
祖父の残した写真や切り抜きを送ってきたのでした。
写真の裏には、写っている人物の名前がカタカナで書かれています。
日記も遺書も、およそ文字というものをいっさい残さなかった祖父の、貴重な文字です。
〈私〉は切り抜きについて教えてもらおうと、ギャラリーカフェで働いている、知り合いの台湾人女性、梅さんを訪ねます。
梅さんは親身になって台湾のことをあれこれ教えてくれました。
祖父が残した切り抜きは、日本が統治していた時代に、台湾で開かれた美術展に関する研究の記事だそうです。
それからしばらくして、梅さんは、お父さんがなくなり、葬儀のために帰国することになりました。
彼女は〈私〉に台湾へ来ないかと誘います。
〈私〉は誘いに乗って、台湾へ飛びました。
台湾では、建物は見覚えがあるものの、生えている植物は南国の見慣れないものです。
散歩の途中、歩道の一画に、好兄弟(ハオションディ)という、亡くなった人たちへのお供え物が積んでありました。
〈私〉は、そのことを説明してくれた青年から、お勧めの場所を案内してもらいます。
そこは公園のなかにある博物館です。
なかに入ると、意外に本格的な展示がなされ、そのなかに、山に暮している人々の顔が展示されていました。
顔の刺青がさまざまに入れ替わるようになっています。
〈私〉の創作物は顔にかかわりがあります。
そのため〈私〉は、興味深くそれらの展示を見たのでした。
【転】パレードのシステム のあらすじ③
博物館から出た〈私〉は、一軒のカフェに入って、コーヒーとケーキを食べつつ、博物館で見たものをスケッチブックに記録していきました。
山に暮している人たちの顔にほどこされた入れ墨も、覚えている限り描きとめました。
そんなことを夜まで続けたのでした。
ホテルにもどると、梅さんからのメッセージが届いていました。
彼女は〈私〉の祖父について、非常に細かく調べてくれているようでした。
翌日、列車で駅に着くと、梅さんが迎えに来てくれていました。
〈私〉たちは中距離バスに乗っていきました。
山中にある梅さんの実家は大きなものでした。
葬式とあって、たくさんの人が集まっています。
〈私〉は客人用の一室をあてがわれます。
梅さんは葬式の準備で忙しく、〈私〉は言われた通り中庭で散歩します。
亡くなった梅さんのお父さんのアトリエがありました。
あとで、梅さんに聞いて、彼女の父と祖父の仕事が、肖像画家だったことを知ります。
梅さんはさらに説明します。
かつて、日本からやってきた教師によって、祖父は絵の才能を見出されたのでした。
写真の発達していなかった当時、祖父・父の描く想像画は、重宝がられたようです。
〈私〉の祖父の持っていた切り抜きは、第一回台湾展のものでした。
日本の県展のように、その当時、台湾で公募作品をつのり、そこから選んだ作品を展示したのです。
金賞を採ったのは、原住民の子でした。
へたに西洋化しない、台湾ならではの表現が、選考委員に好まれたようでした。
【結】パレードのシステム のあらすじ④
梅さんから、今度は〈私〉の話を、と促されました。
〈私〉は自分の作品について話します。
〈私〉は人の顔をモチーフにした作品を作っています。
いろいろの人の顔をつなぎ合わせ、変形させ、誰のものでもない顔、それゆえに誰のものでもある顔、を表現しています。
かつて、大学で友人だったカスミは、〈私〉の作ったある作品が、彼女の顔に似ているから、展示するのをやめてほしい、と主張したことがありました。
〈私〉は自分の作品のポリシーを説明して、彼女の要求をはねつけました。
しばらくして、カスミは大学に出てこなくなりました。
カスミのアパートに行ってみると、彼女は自殺していました。
彼女の部屋には、作品であるピタゴラ装置があふれ、それが彼女の自殺を手助けしていました。
〈私〉は大学をやめ、カスミの葬式にも出ませんでした。
それ以来、〈私〉はスランプにおちいっています。
梅さんにそんな話をするうち、疲れの出た〈私〉は、眠ってしまいました。
翌日、葬式の派手なパレードが繰り広げられました。
鼓笛隊のコスチュームに身を包んだ若い女性が、楽器をかきならします。
出席者のなかで、たぶんただひとり〈私〉だけが、梅さんの父の顔を知りません。
ひどくめまいをおぼえます。
湿度は高く、気温は体温と同じ。
〈私〉のなかの水と、外の水をへだてているのは、薄い皮膚一枚です。
音と食べ物の匂いに満ちた、この生き死にがとなりあう場所で、いつしか〈私〉は生者と死者の幻想にのみこまれていくのでした。
パレードのシステム を読んだ読書感想
著者は「首里の馬」で芥川賞を受賞した作家です。
本作は簡潔な文章で書かれ、かつ、ネタを小出しにしていくことで、うまく読者の興味をひきつけていると思いました。
ここで、ネタを小出し、と書いたのは、たとえば、主人公の祖父が亡くなった、それは特殊な死に方であったので実子だけで葬儀をおこなった、実はその死は自死だった、といった具合に、読者の前に順に出していることを指します。
小説全体としては、波乱万丈の冒険物語というわけではありませんが、前記の手法を使って、私のような「文学に疎い読者」にもちゃんと読めるように描かれています。
ただ、全体のテーマとなると、これはむつかしくて、正直言ってよくわからない面があります。
そこは、これから二度、三度と読み返すことで、徐々に核心に迫れるのではないかと思っています。
コメント