著者:遠藤彩見 2020年12月に講談社から出版
二人がいた食卓の主要登場人物
猪原泉(いのはらいずみ)
ヒロイン。プラスチックの小物をデザインする。規則正しい毎日と栄養バランスを心がける。
鈴木旺介(すずきおうすけ)
泉の夫。外回りをしていて社内でも顔が広い。がっつりメニューと濃い味つけを好む。
鈴木弥生(すずきやよい)
泉の義理の妹。人懐っこくよくしゃべる。
ソノ(その)
旺介の同僚。仕事はできるがプライベートは謎が多い。
元島聖子(もとじませいこ)
泉の隣人。弁護士事務所を構えて家庭問題を主に扱う。
二人がいた食卓 の簡単なあらすじ
鈴木旺介と職場結婚をした猪原泉でしたが、食に関する好みや意識の違いから少しずつ夫婦仲は険悪になっていきます。
決定的だったのは旺介が生産本部の若手社員、ソノと浮気をしていると一方的に思い込んでしまったことです。
正式に離婚した後に旺介は海外への転勤を自ら申し出たために、泉はこれまで通り会社に残ることを選ぶのでした。
二人がいた食卓 の起承転結
【起】二人がいた食卓 のあらすじ①
東京の中心で生まれ育った猪原泉は幼い頃から絵を描いたり手芸をしたりしていて、国立の工芸大学ではプロダクトデザインを専攻しました。
「栄光化成株式会社」に就職したのは、一部上場企業の関連会社だけあって福利厚生がしっかりしているからです。
コンビニエンスストアで販売する女性向けのランチ用容器を任され、営業部の鈴木旺介と一緒に新規顧客を開拓していきます。
初めて旺介と仕事以外の話をしたのは、休憩室で持参のお弁当を広げていた時。
白いご飯にタラコをあえて、ハンバーグと卵焼きを詰めただけで特に手はかかっていません。
自らを「ファミレス舌」という旺介を満足させるために、泉はホワイトソースをかけたチキンドリアをマスターしました。
旺介の実家は新都心から新幹線で小1時間、各駅停車で3駅、タクシーで15分弱。
結婚式をふたりだけで挙げると伝えると旺介の母親は機嫌が悪くなりましたが、何とか認めてもらえます。
市役所の市民課に勤めていてあと2年で定年を迎える父親と、就職が決まった妹の弥生が取り成してくれたおかげです。
【承】二人がいた食卓 のあらすじ②
栄光化成では理系の女性社員が少なく、源泉徴収票など経理の負担を減らすために結婚後も旧姓で通すことは認められていません。
鈴木泉として仕事を続けていたために夕食は遅い時間帯、カロリーを考えて和食を中心にしていました。
最初に違和感を覚えたのは、お得で日持ちするはずのファミリーサイズのマヨネーズがわずか1週間でなくなったこと。
さっぱりしたものばかりで物足りないという旺介は、ご飯にソースとマヨネーズをかけて食べています。
くちびるを重ねた時に感じたのは化学調味料が混じったスパイスと脂、泉の料理では絶対に使いません。
コンビニエンスストア、カレー、ホットスナック… スマートフォンで検索してみるとハッピーマートの人気商品、「カレーくん」だとすぐに判明しました。
会社でランチボックスを作っているように「家庭」という幸せの器を作るのが泉の理想でしたが、旺介は「しんどい」と本音をこぼします。
企画チームの勉強会が始まって外で食べてくるようになった旺介、そのメンバーの中でしつこくアプローチをしてくる女性がいるそうです。
【転】二人がいた食卓 のあらすじ③
服装は技術開発室のジャンパー、髪の毛はきっちりと後ろでまとめていて体格は小柄、年齢は泉のひとつ下。
社内報を漁ってみましたが個人情報の保護が徹底していて、「ソノ」と呼ばれていることしか分かりません。
ソノと言葉を交わしたのはお昼休み、ほぼ満席だったために泉のすぐ手前のテーブルに座って有名チェーンのベーカリーの紙袋を取り出しました。
10センチほどの厚切りのレーズンブレッドの角をちぎって、何もつけずに口に入れています。
彼女に言わせるとすべての料理は調味料をまぶしているだけ、他人に美味しいものを食べさせるのは口を塞ぐため。
何とかソノに負けたくない泉が相談したのは、同じマンションに住んでいて弁護士をしている元島聖子。
メール、写真、動画、音声データ… ハッキリとした証拠を押さえなければ離婚請求もできないそうです。
まもなくソノは学生時代から付き合っていた彼の田舎で家業を手伝うために退社、白い花束と紙袋を片手にあいさつ回りにやって来ました。
【結】二人がいた食卓 のあらすじ④
家庭料理ばかりではなく外食をしたかったこと、テレビを見ながらのんびりと食べたかったこと、結婚に対する覚悟が足りなかったこと。
ひとりになりたいという旺介は不動産会社で紹介してもらった小さな部屋を借りて出ていき、しばらくは家庭内別居が続いていきます。
会社の最寄り駅を挟んで夫婦の住まいとは反対方面にある1Kのマンションを見つけた泉も、引っ越しの準備を始めました。
離婚の保証人をお願いしたのは聖子、慰謝料を払って有責の記録を残したのは旺介。
泉には責任がなかったことになり、将来再婚する時にもマイナスにはならないでしょう。
プラスチック製品への風当たりが強くなってきたために台湾支社で紙容器のプロジェクトが立ち上がり、旺介はその一員として出向します。
台湾に行っているあいだに荷物を預かりにきたのは弥生、泉は旺介の好物を作ってごちそうしますが食が進んでいません。
兄とは違ってチーズ風味が苦手だという弥生、旺介が好きだったものはチーズを振り掛けるものばかりです。
旺介が愛したのは自分の手料理ではなく、上にかかっていた粉チーズだったことにようやく泉は気が付くのでした。
二人がいた食卓 を読んだ読書感想
性生活ではなく食生活の不一致からひと組のカップルが破局へと過程が、シニカルなタッチで描かれていました。
プラスチックの入れ物をデザインすることを仕事にしている主人公の泉が、夫を理想の形に押し込もうとするのは必然的なのかもしれません。
おなかが空いていると菓子パンでもジャンクフードでも気にせず口に入れてしまう旺介とは、根本的に価値観が違うのでしょう。
クロックマダムにローマ仕立ての卵スープ、ボロネーゼのペンネにほうれん草のキッシュ。
ふたりの目の前に並んでいるのはおしゃれで見栄えがいい一品ばかりですが、食卓を隔てている大きな距離感を埋められなかったのが残念です。
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