著者:朝比奈あすか 2015年1月に講談社から出版
あの子が欲しいの主要登場人物
川俣志帆子(かわまたしほこ)
37歳くらい。株式会社クレイズ・ドットコムの採用プロジェクトのリーダー。
セキ(せき)
志帆子と同棲している青年。クレイズの元社員。小説を書いている。
笹原千夏(ささはらちなつ)
採用チームの志帆子の部下。新人。
蟻川隆之介(ありかわりゅうのすけ)
採用チームの志帆子の部下。二十代後半。
馬淵達也(まぶちたつや)
採用チームの志帆子の部下。三十代なかば。志帆子の大学の後輩。
あの子が欲しい の簡単なあらすじ
川俣志帆子は新進のIT企業に勤めるアラサー女性です。
このほど社長の命を受け、次年度の新卒採用のプロジェクト・リーダーをまかされました。
彼女は従来の採用手法を改め、新しいやり方で進めていきます。
一方、偶然に見つけた猫カフェには、昔志帆子が飼っていた猫にそっくりの猫がいたのですが……。
あの子が欲しい の起承転結
【起】あの子が欲しい のあらすじ①
川俣志帆子は、新進のIT企業、クレイズ・ドットコムで働いています。
今年、クレイズは、新卒採用で大惨敗を喫しました。
そこで心機一転をはかるため、転職組の志帆子が、来年度採用プロジェクトのリーダーに任命されたのでした。
クレイズでは、プロジェクトごとに、リーダーが部下を社内リクルートします。
志帆子は、笹原千夏、蟻川隆之介、馬淵達也を部下にして、活動を始めます。
もちろん、前回までとは違う、志帆子ならではのやり方で進めます。
一方、志帆子にはセキという、同棲している恋人がいます。
セキは以前、志保子の部下でした。
あるときライバル会社が主催するネット小説コンテストで受賞し、会社をやめて、作家になったのです。
志帆子のアパートに転がりこんできたのは、会社をやめたあとでした。
さて、採用の仕事で忙しいある日、志保子は「猫を抱ける部屋」を見つけました。
猫カフェです。
入ってみると、昔飼っていた猫にそっくりなのがいて、嬉しくなったのでした。
それから何日かあと、志保子はセキの存在にいらだちます。
忙しい仕事から帰ると、セキは部屋で、あるいは外で、マイペースで小説を書いています。
志帆子は自分の部屋が仮眠室みたいに使われることにいらだったのです。
でも、外の飲食店で懸命に書いているセキを見て、今度ボーナスが出たら、自分のマンションを買ってセキと住もうか、と思うのでした。
【承】あの子が欲しい のあらすじ②
志帆子の採用プロジェクトは好調にスタートしました。
会社の就活用ツィッターアカウントは、わずか二日で数百名にフォローされました。
志帆子は部下たちから、川俣さん、川俣さん、と声をかけられるたびに、笑顔でてきぱきと指示を返します。
それが彼女のモットーなのです。
また、志保子は蟻川と千夏に、別々に、後輩を使ってスパイ活動させるように依頼します。
ネットを監視して、会社の悪口が出てきたら、修正する意見を書き込み、ネット世論を良いほうへと誘導する、というものです。
金銭面について聞きもせず引き受ける部下たちを、どこか冷ややかに見る志保子でした。
やがて、ネットにあふれるクレイズへの悪口が、書き込みによって少しずつ良い方向へと修正されるようになったのでした。
一方、志保子の猫カフェ通いは続いています。
が、隙間時間を使って店に行っても、嫌なオバサンが四六時中来店して、志保子のお気に入りの猫を独占しているのです。
ムカついて、セキにそのことを話します。
彼は「女に触りたい男と猫に触りたい女って似てますね」と、妙な意見を言うのでした。
さて、志保子の採用プロジェクトが好調なので、社長の段田はご機嫌です。
志帆子は部下たちに言います、「キツそうなんて舐めたことを言ってる学生は他社へ行ってもらってけっこう。
でも、クレイズを成長させたいと思っている学生は逃がさない」と。
【転】あの子が欲しい のあらすじ③
初冬のころ、一次面接が行われ、五百名の半分を落としました。
合格者のなかには、三人の面接官の評価がバラバラの学生がいました。
牧瀬乃亜というその女子に、志帆子は興味を持ちます。
選考結果を通知した日の夜、志帆子は珍しくスパゲティを茹でました。
セキの好きなたらこスパゲティの材料を、仕事帰りに買ってきたのです。
食事しながら、面接試験のことなど話します。
セキの小説について出版社から連絡はないのか、と尋ねるのですが、いつもの通り、まだ、という答え。
いままではそれですませていた志帆子ですが、その夜はしつこく絡みました。
するとセキがキレました。
蛍光ピンクのたらこは生理的に受けつけない、と言います。
そこから言い争いになり、セキは荷物をまとめて、部屋を出ていったのでした。
翌日、猫カフェのスタンプが貯まっていたので、志帆子は出かけていきます。
が、そこにはまたしてもあの嫌なオバサンが陣取って、志帆子の好みのザビエルという猫を独り占めしています。
と、猫の様子が変です。
オバサンがこっそりとマタタビを持ってきて、猫に舐めさせたようです。
志帆子は、マタタビを使ってあの猫を誘拐できるのでは、と考えるのでした。
さて、春になり、採用の仕事が順調なので、チームで少し呑んで帰ることになりました。
その席で、あの牧瀬乃亜が地下アイドルをしていることがわかります。
志帆子は、とりあえずその情報を自分が預かることにしました。
【結】あの子が欲しい のあらすじ④
最終面接へ進める学生が決まりました。
ここで志帆子は囲い込みにかかります。
最終面接組の各人に会い、その場で他社の内定を断らせたのです。
そのひとりに、Fランク大ながら、能力があると見た小柳弘文がいました。
志帆子は、小柳を買っているのは自分だけ、この場で他社内定を断ってくれたら自分が社長を口説き落とす、と迫りました。
小柳こそは簡単に落ちると予想していたのですが、結局彼は志帆子の申し出を拒否したのです。
彼は志帆子に言います、「ぼくの名前は、こやなぎ、ではなく、おやなぎ、です」と。
最終面接が終わり、志帆子は社長の段田に呼びだされました。
小柳の件です。
社長は志帆子が青田買いしようとしたことを知っていました。
実は小柳は志帆子の申し出を断ったあと、自分は段田の強烈なファンで、志帆子に買い取られたくない、と社長に訴えていたのです。
社長は小柳を採用とし、志帆子の人を見る目も褒めたのでした。
採用プロジェクトが終了し、志帆子は猫カフェに、お気に入りの猫のザビエルをもらいにいきます。
いろいろあって、志帆子が買い取ることになったのです。
さて、いざサビエルをもらって自分の部屋につれてくると、違う猫のように見えてきました。
おまけに、猫の毛が顔につくと、志帆子は強烈なアレルギーに悩まされることになるのでした。
あの子が欲しい を読んだ読書感想
IT企業で新卒採用のリーダーをまかされた女性のお話です。
就活ものというと、個人的には、就職をめざす学生の側から描かれたものが多いような印象を持っていました。
ですので、採用する側から描かれた本作は、とても新鮮に感じられました。
就活は学生も楽ではありませんが、企業のほうも楽ではない、というのが、これを読んでよくわかりました。
そして、本作品のなかで一番いいなと思ったのは、ラストのひねりです。
買ってきたお気に入りの猫が実は、というのは、良いと思って採用した学生が実は、ということを暗示しているのでしょう。
皮肉の効いたブラックユーモアと私はとらえました。
おもしろかったです。
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