著者:瀬尾 まいこ 2018年2月に文藝春秋から出版
そして、バトンは渡されたの主要登場人物
優子(ゆうこ)
本作の主人公。父親が三人、母親が二人いる。優しく素直な女の子。生い立ちのせいか少し冷めた面を持つ。
早瀬君(はやせくん)
主人公の高校の同級生。共に合唱祭でクラスの伴奏を行った。ピアノが上手く、優子は淡い恋心を持つ。のちにパートナーとなる。
森宮壮介(もりみや そうすけ)
優子の三番目の父親。優子高校生の時に父親になり、結婚まで見守る。梨花の同級生。東大卒、大企業勤め。責任感が強く、穏やか。少し変わり者。
梨花(りか)
優子の二番目の母親。優子小学三年生の時、母親となる。華やかで、人生を楽しむ自由人。だが常に、優子の事を最優先に考えている。
泉ヶ原茂雄(いずみがはら しげお)
優子の二番目の父親。優子中学生の時に父親となる。懐が深く、優子と梨花を温かく見守っている。
そして、バトンは渡された の簡単なあらすじ
優子には父三人、母が二人います。
実母は二歳の時、亡くなり、小学三年生の時、梨花が二番目の母親としてやってきます。
実父、水戸修平のブラジル転勤がきっかけで、優子の生活は一変します。
優子を最優先に考える梨花の結婚により、泉ヶ原茂雄、森宮壮介と父親が変わります。
高校時代ピアノが上手い早瀬君に恋心を抱いていた優子は、短大卒業後、就職先の食堂で彼と再会。
結婚が決まり、親達の思いを深く知る事になります。
そして、バトンは渡された の起承転結
【起】そして、バトンは渡された のあらすじ①
高校生の優子には、三人の父と二人の母がいます。
複雑な生い立ちですが、全く不幸だとは感じていません。
二歳で母が亡くなり、父と祖父母に育てられた優子は小学三年生で二番目の母、梨花と出会います。
三人で楽しく暮らしていたある日、父がブラジル転勤になります。
父とブラジルへ行くか、梨花とこのまま暮らすかの選択を迫られ、優子は友達と別れるのを嫌い、梨花との生活を選びます。
恋しい父に手紙を書き、返信が無く寂しい思いをしつつ、梨花との生活を優子は受け入れていきます。
自由で華やか好きな梨花との生活は、金銭的苦労はあるものの、大家さんの援助もあり楽しく過ぎていきます。
小学六年生の時、友達がピアノを習っていることを羨ましく思い、「ピアノ、習いたいな」と呟いた一言で、優子の生活が変わります。
梨花は優子にピアノを弾ける生活を与えるために、取引先の不動産会社社長、泉ヶ原茂雄と結婚します。
中学生の優子は、二番目の父親、ピアノ、裕福で安定した生活を手に入れます。
【承】そして、バトンは渡された のあらすじ②
優子の生活は一変しました。
金銭の心配はもちろん、お手伝いさんがいる事で、家事一切をする必要がなくなり、裕福な恵まれた生活を送れるようになりました。
その一方で、梨花との二人暮らしにあった自由さが無くなり、窮屈さを感じるようになります。
優子はそんな戸惑いや窮屈さを打ち消すためピアノに没頭します。
梨花も例外なく、この生活に窮屈さを感じ、三ヶ月を過ぎた頃に家を出てしまいます。
ただ、出た翌日から毎日夕方には、優子に「一緒に家を出よう」と訪ねてきました。
しかし、梨花がいなくなったことに申し訳ないと頭を下げ、「ここにいてくれるね」と心配そうな泉ヶ原の元を優子は離れませんでした。
中学三年生の三学期、梨花は優子に一枚の写真を見せます。
中学の同窓会で会ったという梨花の同級生の森宮は、東大卒で一流企業に勤めていました。
梨花は、森宮と結婚し、優子を引き取ると泉ヶ原に告げます。
優子が高校生になる時、森宮が三番目の父となりました。
【転】そして、バトンは渡された のあらすじ③
森宮が三番目の父となり、家族が変わることを現実として受け入れる度に、優子の心は冷めていきました。
ただ、まっすぐしっかりと優子を見つめる森宮に対して、うそはつかない人だと感じ、少しずつ心を開いていきます。
新しい生活が始まって二ヶ月で、梨花は森宮の元を出てしまいます。
その数ヶ月後、梨花から「再婚する」という手紙と離婚届が送られてきました。
森宮は、あっさり離婚届にサインをします。
サインすることで、「自分が正真正銘の優子の父親になれる」「自分より大事な明日が毎日やってくることを手放せない」と親としての覚悟を告げる森宮と、優子は二人で暮らすことになりました。
高校最後の合奏祭で、優子は例年どおりピアノ伴奏をすることになります。
各クラスの伴奏者がいつもの顔ぶれの中、五組だけ初顏の早瀬君でした。
初回の練習で、早瀬君のピアノを聞いた優子は、一度でその演奏に惹きこまれます。
何度かピアノ演奏を聴き、話をするようになった早瀬君に「森宮さんのピアノ好きだよ」と言われ、優子は、彼に淡い恋心を抱きます。
しかし、早瀬君には年上の彼女がいると聞き、失恋してしまいます。
優子は、家から近く、栄養士の資格を取れる園田短大を受験し、無事合格します。
優子の森宮との生活や、絆は深まっていきました。
高校卒業式の時、優子は、森宮優子という名に強く自信を持ち、森宮との生活を守ることを心に決めます。
【結】そして、バトンは渡された のあらすじ④
優子は短大を卒業し、栄養士として山本食堂に就職しました。
偶然店に来た早瀬君と再会した優子は、付き合う事になります。
彼は、ピザづくりの修行でイタリアへ、音大を中退してハンバーグ修行だとアメリカへ行ってしまいます。
帰国後、早瀬君は、おいしい料理と音楽のある居心地のいい店を作ることが夢で、優子に結婚して欲しいとプロポーズします。
フランス料理店に就職した彼は、森宮に結婚の挨拶に行きますが、「そんな風来坊との結婚は許さない」と門前払いされてしまいます。
優子は、他の親にまず了解を得ようと、泉ヶ原に会いに行き、祝福されます。
梨花の所在を聞いてみると、梨花は病気で入院中であること、泉ヶ原と再婚していたことを知ります。
梨花に会い、病気が分かり優子の為に母親であることを辞めようと決意したこと、森宮なら年齢的にも、人柄や収入においても優子の親として、安心して任せられると思ったこと、水戸からの手紙を渡すことで、優子が離れてしまう事が怖かったため隠してしまっていたことなどを聞きます。
梨花は優子の結婚を祝福してくれ、式に出席することを約束します。
病院で優子を待ちながらピアノを弾いていた早瀬君の演奏を聴き、彼の音楽の力を再確認した優子は、ピアノで生きていく事を勧めます。
彼はピアノ講師や演奏者としての道を歩き始めます。
優子は、梨花から実父の手紙の束を受け取りますが、水戸に新しい家族がいる事を知り、手紙を読むこと、連絡を取ることやめます。
結婚式当日、泉ヶ原夫妻と実父の水戸も出席していました。
森宮が、水戸に結婚式場、日時を知らせていたのでした。
バージンロードを歩く役を水戸に譲るつもりだった森宮ですが、優子を送り出すのは森宮の役目だと言われ、優子の元に向かいます。
森宮は、本当の幸せは、自分の知らない大きな未来へとバトンを渡す時だと、清々しい幸福感に満たされながら、優子とバージンロードを歩きだしました。
そして、バトンは渡された を読んだ読書感想
この作品は、2018王様のブランチBOOK大賞、2019年本屋大賞、2019キノベス!(紀伊国屋書店スタッフが全力でおすすめするベスト30)第一位を獲得しています。
主人公の優子には、父が三人、母が二人おり、十七年間で家族形態が七回も変わったという特異な環境が描かれていますが、全然不幸ではないと言い切っています。
通常であれば、重たい話になりがちなシチュエーションながら、軽快にコミカルにさらりと話が進んでいきます。
登場人物の魅力的な個性がそうさせているように感じます。
血のつながりのない親子関係がメインで描かれていますが、絆や愛情は血筋で測れるものではないという思いがひしひしと感じられ、そのエピソード一つ一つに楽しくなってきます。
親たちの優子への愛情の深さ、愛情を受け取る優子のまっすぐさ、すべてにおいて心地よさを感じます。
最後の、優子の結婚が決まったことで見えてくる親たちの考えや思いに心が震え、涙しました。
破天荒な梨花、ちょっと変わった森宮さんの、親として一生懸命で一途な愛情と行動が、感動と読後の爽やかな幸福感をもたらしてくれる作品です。
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