「帝国ホテル建築物語」のネタバレ&あらすじと結末を徹底解説|植松三十里

帝国ホテル建築物語

著者:植松三十里 2019年4月にPHP研究所から出版

帝国ホテル建築物語の主要登場人物

林 愛作(はやし あいさく):大正2年当時の帝国ホテルの支配人。 遠藤 新(えんどう あらた):帝国大学建築家の学生。後にライトの助手になる。 フランク・ロイド・ライト(ふらんく・ろいど・らいと):アメリカの有名な建築家。 大倉 喜八郎(おおくら きはちろう):帝国ホテルの重役の一人 久田 吉之助(ひさだ きちのすけ):愛知県常滑の焼き物職人。黄色い煉瓦の特許を持つ。

帝国ホテル建築物語 の簡単なあらすじ

帝国ホテル本館(通称ライト館)の取り壊しが決まり、愛知県にある明治村に移築するという計画が持ち上がることから、ライト館建設に至る歴史を振り返る物語です。

時は大正年間、日本を代表する帝国ホテル新館建設のために、アメリカからフランク・ロイド・ライトが来日し、火災や地震を経て10年の時をかけて完成させます。

昭和になり、満身創痍の帝国ホテルを明治村へと移築します。

帝国ホテル建築物語 の起承転結

【起】帝国ホテル建築物語 のあらすじ①

 

新館の建築

東京オリンピック開催にあたり、急増する外国人を受け入れるために帝国ホテルの取り壊しが取り沙汰されます。

オリンピックは無事に終わり、次は大阪での万国博覧会に向けて、帝国ホテルを高層ビルに建て替えるという事が決定します。

ライト館は取り壊しが決定しましたが、取り壊しを反対する人々がおり、署名活動を行っています。

そんな中、愛知県にある明治村へ移築するという案が浮上し、担当者となった谷口と土川は、取り壊しまで10日間しかない日程でありながら、日本の建築史上、貴重な作品の移築を実現するために奔走します。

舞台は、大正2年に遡ります。

帝国大学建築科の学生数名が帝国ホテルの表向きから裏方に至るまでを見学したいと訪れます。

支配人である林愛作は、地盤の悪さから西洋建築風を装った木造建築であることを説明します。

学生の一人・遠藤新は勉強熱心な学生で、その辺りの事はすでに調べて来ているといい、いくつか質問をします。

林は、遠藤に尊敬する建築家は誰かと問います。

「フランク・ロイド・ライト」と答えた遠藤に、帝国ホテルの新館の建築が検討されており、設計は親日家で林の友人でもあるフランク・ロイド・ライトだと告げ、紹介しましょうといいます。

数年経ち、フランク・ロイド・ライトが来日したのをきっかけに、遠藤はライトの助手として慣れない英語と格闘しながら仕事に励みます。

【承】帝国ホテル建築物語 のあらすじ②

 

資材の調達

新館ホテルの着工が始まらない中、ライトは一度アメリカに帰国することになり、遠藤はライトと一緒にアメリカへ渡ることになりました。

彼らが渡米する直前、林はライトの希望でもある日本国内の資材を調達するために奔走します。

ライトは、黄色く筋の入った煉瓦に固執していました。

帝国ホテルの重役の一人・村井吉兵衛は京都の洋館で黄色い煉瓦を見たと言い、その煉瓦は愛知県常滑の職人・久田吉之助が焼いた物だというのです。

林、ライト、遠藤の3人で常滑の久田へ会いに行きます。

駅まで迎えに来ていた久田の手には黄色い煉瓦がありました。

煉瓦を見たライトは、この煉瓦の重量を軽くしたいと伝え、他にもスケッチしたものを渡すと久田は「簡単な事」と言います。

3人が東京に戻った数日後、久田から試作品が送られてきます。

それに満足したライトは、遠藤を伴ってアメリカへ帰国し、林は久田へ手付金を送金します。

その後、久田からの連絡が途絶え、業を煮やした林は常滑へ向かいます。

久田は、手付金は借金の返済に使用したため、燃料の石炭が買えず煉瓦が作れないというので、林は石炭の手配し、東京へ戻りますが、全く煉瓦は送られてきません。

そこで、洗濯室の職人で何事も自分でやらねば気がすまない牧口銀司郎に常滑で久田の監視をするように命じます。

しかし、牧口は久田に煉瓦を焼かせることは困難だと判断し、伊奈長三郎という若い技術者を伴い、林の元へ戻ってきます。

林は快諾し、牧口と伊奈は煉瓦造りに励みます。

思うように黄色い煉瓦が作れず苦悩している最中、林は久田へ「今夜火入れするまでに、窯へ来なければ訴える」と告げます。

火入れが終わった直後、久田が現れ窯を壊します。

その結果、黄色い煉瓦が出来上がったのです。

製造方法が確立され、帝国ホテルの煉瓦製造所を開設し、煉瓦の大量生産が始まります。

しばらくして、久田は自分の人生の間違いに気づきながら、亡くなりました。

【転】帝国ホテル建築物語 のあらすじ③

 

着工

アメリカから戻ったライトは、重量の軽い暖色系の石材を探しており、複数の見本品を手に取りますが、気に入りません。

そんな中、ある門柱で大谷石(おおやいし)と呼ばれる蜂の巣石が使われているのを見かけます。

これは、重量も軽く価格も安価で手に入りやすいものです。

早速採掘場へ赴き、山を丸ごと買い入れることになり、ようやく着工に漕ぎつけます。

着工にあたって、過去に大型レストランなどの建設をライトともに施工したことがあるドイツ人のポール・ミュラーという技師を呼び寄せます。

ライトは、帝国ホテルの建つ土地が埋め立て地であること、日本に地震が多いことなどを考慮し、浮き基礎という工法を提案します。

ミュラー、ライト、工事の職人は、思うように工事が進まず諍いが絶えません。

とうとう工事を請け負っていた大倉組が手を引くと言いだします。

そのことを聞いた林の岳父であり土木業を営む長浜佐一郎が林を訪ねて来て、林に「もし、新館が壊れてしまっても、素晴らしいホテルがあったという記憶は人の心に刻まれる」と長浜は言い、林に向かって「何のために支配人になったのか」と問いかけ、帰って行きました。

その後、林は自身を振り返り、改めて帝国ホテルを完成させようと決意し、翌日職人たちに「日本の未来を象徴する建物にしよう」と呼びかけます。

職人たちもやり遂げると誓います。

この年の暮れ、遠藤はかつて下宿していた家の娘である都と結婚することになり、正月を利用して故郷に帰省しました。

故郷で「帝国ホテル火事」という新聞記事を読み、急いで東京へ帰ります。

【結】帝国ホテル建築物語 のあらすじ④

 

完成

東京に戻った遠藤は、ライトとともに火事で失った別館の設計をします。

季節は梅雨で、浮き基礎の杭打ちが続いていますが、水が溢れて何度も何度もやり直しになり工事が進みません。

また、届いた石材が注文と違うとライトは怒っています。

遠藤は、現地の職人に粘土で見本を作りイメージを伝えることを思いつきます。

そして長い梅雨が明け、ライト館の建築現場では、基礎工事が一挙に進み、建物の建設に着手します。

大谷からは貨物列車で莫大な石材が届けられ、常滑からも焼き物が次々と届きます。

そんな中、大倉は帝国ホテル内に予定されている劇場の建設を取りやめるように進言しますが、ライトは猛反対し、話は平行線のまま、工事は進んで行きます。

12月に入り、遠藤が出会った聖歌隊によるミニコンサートを帝国ホテル本館ホールで執り行うと、客から絶賛され劇場の建設は許可された。

大正11年には火災が発生し、大倉と林は責任を取って辞任しました。

同じ年の4月には地震が起こりますが、ライトが設計した浮き基礎のおかげで帝国ホテルは無傷でした。

その後、ライトは職人たちに惜しまれながらも帝国ホテルを去ります。

後を託された遠藤は、新しい重役たちを説得しながら工事を進めます。

大正12年9月、遠藤は完成したライト館にタキシード姿で出向いています。

林の後任の支配人である犬丸と立ち話をしていると、関東大震災が起こります。

翌日、日比谷では帝国ホテルだけが崩れることなく建っていました。

昭和43年、紆余曲折を経て帝国ホテルは「様式保存」という形で明治村に保存されることとなり、「帝国ホテル中央玄関」が残されています。

帝国ホテル建築物語 を読んだ読書感想

大正時代に建てられた建築は、どれもモダンで素敵な造作が多いです。

中でも、帝国ホテルは世界一美しいとまで言わしめた建築で、私は現物を見たわけではなくテレビの映像でしたが、見る人を魅了する、荘厳な建物です。

フランク・ロイド・ライトは、妥協を許さず、信念を曲げない一流の職人であり、また建築に携わった職人たちも妥協を許さない一流でした。

そんな一流の集まりが世界一の建築物を日本に建てたと思うと、とてもうれしく思います。

ただ現在の日本に一流と呼べる人たちがどれくらいいるのでしょうか。

何をするにも損得勘定が働き、心意気はなく、妥協だらけの社会になってしまっていると感じます。

この物語を読んで、日本人の心意気をもう一度呼び起こし、世界に恥じることのない民族でいたいと痛感します。

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