著者:如月かずき 2022年4月に講談社から出版
スペシャルQトなぼくらの主要登場人物
宮地直行(みやちなおゆき)
公立中学の二年生。サッカー部員。ニックネームはナオ。物語の語り手である〈ぼく〉。
久瀬優英(くぜゆうえい)
〈ぼく〉と同じ中学の二年生。勉強好きな優等生。美化委員。
折笠志穂(おりかさしほ)
〈ぼく〉と同じ中学の一年生。生徒会の副会長で、美化委員。
椎名栞子(しいなしおりこ)
〈ぼく〉の幼馴染。小さなころはしょっちゅう一緒に遊んだが、栞子は私立中学へ進学した。
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スペシャルQトなぼくら の簡単なあらすじ
クラスメートの久瀬優英が、かわいいメイクと服装で女の子のように変身するのを見た〈ぼく〉は、自分自身にも、そんなふうになりたい気持ちがあることに気づきます。
〈ぼく〉は久瀬にメイクの仕方を教えてもらい、衣装選びも手伝ってもらい、女の子のようにかわいく装います。
そんな格好で、二人で出かけたとき、〈ぼく〉は久瀬に対してドキドキする自分に気づくのでした……。
スペシャルQトなぼくら の起承転結
【起】スペシャルQトなぼくら のあらすじ①
〈ぼく〉は塾の帰りに、同じ中学のクラスメート、久瀬憂英を見かけます。
久瀬は勉強好きの優等生です。
その久瀬が、男子トイレに入り、やがて出てきたときには、かわいい女の子のようなメイクと服装で装っていたのでした。
あとをつけてみると、久瀬は古着屋に入って、かわいらしい服を物色します。
久瀬の様子を見て、〈ぼく〉はなぜかモヤモヤするのでした。
さて、ある日、〈ぼく〉が久瀬の女子姿を見てしまったことが、彼にばれてしまいます。
〈ぼく〉は久瀬の家に行き、彼がメイクし、女の子の姿になるのを見せてもらいました。
〈ぼく〉は自分の心のモヤモヤの正体に気づきます。
自分もまた、久瀬のようにかわいくなりたいのでした。
その気持ちを隠したまま、ある日古着屋に行ってみると、そこで久瀬と会ってしまいました。
久瀬は〈ぼく〉にかわいらしい服を勧めます。
どうやら、〈ぼく〉に同じ趣味があることに勘づいているみたいです。
〈ぼく〉は久瀬に、かわいらしく装うようになったきっかけを尋ねました。
彼は、「小学生のころ、自分が男の子というのがしっくりこなかった。
それで、いろいろやってみた」と言います。
でも、「自分は女装したいのではない。
メイクをし、かわいい服を着たいけど、トランスジェンダーというわけではないようだ」とも言うのでした。
また、LGBTにはもうひとつLGBTQというのがあって、最後のQはクエスチャニング、つまり、自分が男性か女性か、恋愛対象が異性か同性かわからない人を指すそうです。
そして久瀬は、自分がどちらか、わからないまま、悩まないことにしたそうです。
【承】スペシャルQトなぼくら のあらすじ②
〈ぼく〉はしだいに久瀬と親しくなり、お互いを、ナオ、ユエと呼び合います。
〈ぼく〉はユエといっしょに勉強したり、メイクの仕方を教えてもらったりします。
そうやってユエと親しくなった〈ぼく〉に、同じサッカー部のタイチが、忠告をくれました。
ユエは、小学校のときにホモという噂があったから、あまり親しくしないほうがよい、というのです。
タイチに言われたことが、胸にわだかまったまま、〈ぼく〉はユエといっしょに古着屋をまわり、服を選んでもらいます、結局〈ぼく〉は、ユエとは堂々と仲良くしていようと決めたのでした。
そして、サッカー部の仲間といっしょに遊んでいるカードゲームに、ユエを誘いこむことに成功したのでした。
そんなある日、美化委員をしているユエの後輩の、折笠志穂から詰問されました。
〈ぼく〉がユエと付き合っているのではないか、と訊くのです。
〈ぼく〉はそのことを否定し、なんとか信じてもらいました。
志穂は小学校のころからユエのことが好きで、今度告白するつもりだと言います。
それを応援する〈ぼく〉でしたが……。
数日後、ユエが困り果てた顔で、「ナオ、ぼくの恋人になってくれ」と言うのでした。
【転】スペシャルQトなぼくら のあらすじ③
びっくりした〈ぼく〉に対し、ユエはすぐに誤解をときます。
ユエは志穂から告白のラブレターをもらい、それを断る口実として、「すでに恋人がいる」ということにしたいのです。
そして恋人がいる証拠として、女装した〈ぼく〉といっしょに写っている写真を撮りたい、というのです。
でも、志穂が真剣な気持ちで告白したことを〈ぼく〉は知っています。
〈ぼく〉は、ユエに、「そんな嘘をつくのではなく、真剣に断るべきだ」と諭したのでした。
ユエは〈ぼく〉の忠告に従って、真剣に志穂と向き合い、断ったようでした。
その後、ユエは落ち込んでしまいました。
彼をはげまそうと、〈ぼく〉は買い物に誘います。
ふたりでかわいい格好をして街に出ました。
ユエに誘われ、ふたりでプリクラを撮ることにしました。
肩を寄せて写真を撮ったら、〈ぼく〉はなぜかドキドキしたのでした。
〈ぼく〉は、このドキドキの気持ちが恋かどうか知ろうと、幼なじみの女の子の学校の文化祭に行きます。
再会した彼女といっしょに文化祭を見てまわりました。
その結果、昔は彼女が好きだったけど、いまはユエのことが好きなんだ、と悟るのでした。
調べてみると、身も心も男である人に対しては恋愛感情を持たず、女の子っぽいクエスチョニングに恋愛感情を持つ人もいるらしいのでした。
やがて、期末テストの時期になりました。
ユエと〈ぼく〉は、三科目の点数を争い、負けたほうが、相手のいうことをひとつきく、という賭けをします。
結局一点差で負けた〈ぼく〉に、ユエは、「一日、映画につきあってほしい」と言うのでした。
【結】スペシャルQトなぼくら のあらすじ④
十二月にしては暖かな日、〈ぼく〉はユエと映画を見に行きました。
終わったあと、パンケーキをふたりで分け合って食べたりして、まるでデートのようです。
〈ぼく〉はユエと手をつなぎたいと思いました。
でもユエの様子が変です。
〈ぼく〉の見ていないところで、ひどく苦しそうなのです。
一日の終わりに、〈ぼく〉はとうとうユエのことが好きだと告白します。
ところがユエは、自分はアロマンティック・アセクシャルだと答えます。
それは恋愛感情と性的感情がない人間を指す言葉なのだそうです。
ユエは、自分の性癖を確認したくて、特別な関係である〈ぼく〉と、一日、デートしてみたのでした。
その結果、〈ぼく〉と手をつなぎたいという気持ちになれなかったので、自分はやはりアロマンティック・アセクシャルだと確信した、というのです。
〈ぼく〉はユエにふられました。
もう、話もしないほうがよいとユエは言います。
〈ぼく〉はすっかり落ち込みました。
すると、女友達からはげまされ、再挑戦をけしかけられました。
「恋人でなくても、特別な関係になればいいじゃないか」というのです。
冬休みに入って、〈ぼく〉はユエを探しに、古着屋をまわりました。
ユエはそこにいました。
もうおしゃれをしないと決心したユエでしたが、やはり未練があったのです。
〈ぼく〉はユエをはげまし、恋人でなくても、特別な関係のふたりになろう、と話し合ったのでした。
スペシャルQトなぼくら を読んだ読書感想
小説の初めのほうで、女装している男の子が登場しますが、「自分は女の子になりたいわけじゃない」というようなことを言います。
それを読んで私は、「ああ、これは女装趣味の男の子のお話なんだな」と軽く考えたものです。
しかも、読み進むと、物語の語り手である〈ぼく〉にもその性癖がある、ということがわかります。
それで私はますます「その手」の小説だと思ったものです。
ところが、途中から、意外に重い少年たちの苦悩に直面することになったではありませんか。
最後に、いちおうハッピーエンドで終わったものの、それはどこかほろ苦いものでした。
正直言って、こんなに深い物語だとは思いませんでした。
かわいらしいカバーイラストと、読みやすい軽いタッチの文章に、すっかりだまされた、と言ったら、言い過ぎでしょうか。
読み終わってみると、心に爪痕が残っているのが自覚できました。
ただものではない、青春小説の佳作と言っていいと思います。
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