【ネタバレ有り】石の繭 のあらすじを起承転結でネタバレ解説!
著者:麻見和史 2011年5月に講談社ノベルスから出版
石の繭の主要登場人物
如月塔子(きさらぎとうこ)
低身長であどけない表情の新米刑事。刑事だった亡き父に憧れ、この道を選ぶ。
鷹野秀昭(たかのひであき)
11係の刑事で、塔子の指導係を担っている。秀でた筋読みの力があり、11係のエース的存在。
八木沼雅人(やぎぬままさと)
一連の事件の犯人で、「トレミー」という名を名乗って、捜査本部に接触してくる。
石の繭 の簡単なあらすじ
テレビドラマ化もされており、大変読み応えのある警察小説です。「犯人がなぜこのような一連の事件を起こしたのか」その背景には、過去の悲しき母子誘拐事件が絡んでいることがわかります。捜査会議や現場での緊張感を味わうことができ、今作は新米刑事の父がかつて担当していたものであり、親子二代にわたる事件の終息を図るべく、警察が全力で挑むというサスペンスとなっており、大どんでん返しが含まれた構成となっています。
石の繭 の起承転結
【起】石の繭 のあらすじ①
ある廃屋の地下室で異常な遺体が発見されます。
現場に急行した捜査一課11係の目に飛び込んできたのは、首から下がモルタルで固められた遺体と一枚の大ポンペイ展のチケットでした。
猟奇殺人事件として捜査本部が立ち上がり、会議をしている最中に犯人と名乗る男から通電があります。
そして、犯人しか知りえない情報を口にした男は自らを「トレミー」と名乗るのでした。
当初は本件の代表が電話で対応し始めたのですが、気分を害してしまい、「女性警官」を交渉役に指名します。
そして、新米刑事の如月塔子がその大役を担うことになりました。
彼女を含む11係は行きつけの居酒屋「大辺屋」にて、一日の反省及び事件の動機などを推察する「筋読み」を毎回展開します。
1日目の整理では、「犯人の『トレミー』とはどういう意味なのか」「なぜ遺体はモルタルで固められたのか」という謎が挙がります。
そして、翌日、再びトレミーから通電があり、第二の事件の予告がなされます。
塔子は先輩の鷹野とバディを組み、第一の被害者伊沢について捜査することになりました。
すると、伊沢のが経営していた店からトレミーから送り付けられた写真が発見されます。
そこに写っていたのは、「人骨」でした。
それを見た塔子たちは「被害者である伊沢は過去に何かの事件に関与していたのではないか」と睨みます。
【承】石の繭 のあらすじ②
翌朝もトレミーから塔子宛の通電がありました。
すでに二人目の被害者を拉致監禁しており、居場所を知りたければ、伊沢と今回の被害者二人は、過去に重大な犯罪を犯したということを記者発表で公表せよというものでした。
何とか情報を聞き出し、刑事たちは、廃業した中華料理店に駆けつけますが、時すでに遅しで、今度は首から上をモルタルで固められた遺体となって被害者は発見されます。
二人がどんな事件に関与していたのかを調べていくうちに、第二の被害者阿部は、過去に「略取誘拐事件」の参考人として取り調べを受けていたことが判明します。
しかもその事件は今もなお未解決事件だったのです。
その事件は、17年前に身代金目的で母子が誘拐されたという事案で、運悪く捜査員が犯人と接触してしまい、自身は負傷し、子供は発見されたのですが母親は依然として行方不明のままというものでした。
その子の名前は「八木沼雅人」といい、父の孝明が建物の屋上から投身自殺を図ってから、伯母夫婦に預けられ、高校を卒業後姿をくらませてしまいます。
そして、この昭島母子誘拐事件で、犯人と誤って接触してしまった刑事というのは、塔子の亡くなった父親だったということが上司から知らされます。
【転】石の繭 のあらすじ③
翌朝の捜査会議の時にもトレミーから通電があり、第三の被害者が出るという予告を受けます。
過去の捜査資料から昭島母子誘拐事件簿の犯人は二人組だったと塔子たちは読んでいたのですが、筋読みの達人鷹野は、「八木沼雅人の過去を洗っていくうちに、他にも関与したものがいるのではないか」、「転落死した雅人の父親の死も実は事故ではなく、誰かによって突き落とされたのではないか」という推測に至ります。
そして、遂にトレミーからの最後の電話がかかってきます。
「八王子署管内に第三の被害者を拘束している。
昼の12時までに見つければ助けられる」というものでした。
僅か3時間しかない中、塔子たちはトレミーからのヒントから犯人の名前の由来はセメントを固める際の工法である「トレミー工法」からきていることがわかります。
そして、モルタルを使った殺害方法から雅人の母も同様の方法で殺害されたのではないかという結論を導き出したのです。
その筋読みや写真の解説から「美山採石場」が次の事件現場だと踏んだ警察たちは急行します。
そこで、雅人の母が埋められていた跡が発見されるのですが、肝心の第三の被害者が見つかりません。
その時、大爆発が起き、多くの捜査員たちが負傷するのでした。
つまり、トレミーが言った第三の被害者とは「昭島母子誘拐事件を解決できなかった無能な警察」だったのです。
【結】石の繭 のあらすじ④
塔子も軽傷を負ったため、命令で自宅で休むよう言われます。
そして、我が家に足を進めた彼女の目に映ったのは、手足を拘束された意識を失った母でした。
トレミーこと八木沼雅人は塔子もスタンガンで襲い、同じように拘束し、語り始めます。
雅人のターゲットの一人は、最初から塔子だったのです。
彼女の亡くなった父が犯人と接触するというミスさえなければ母が殺されることはなかったとずっと恨んでいたのです。
そして、塔子は気づきます。
雅人は塔子たちが反省会をするためによく集っていた警察OBによって営まれている居酒屋「大辺屋」の店員であったことにです。
一連の動機を語る中で、雅人の父は本当の父ではなく、雅人が別の男との間に生まれた子であったことを憎み、昭島母子誘拐事件を企んだ首謀者であったことがわかります。
やはり、あの転落死は事故ではなかったという鷹野の筋読みは正しかったのです。
独白を終えた雅人は、塔子の家の風呂場にモルタルを練りに行きます。
その隙をついて、塔子は拘束具を解き、ブレーカーを落として、暗闇の中、一か八かの反撃に出ます。
揉み合いの末、ピンチの塔子に母も加勢し、最期は頼れる11係の仲間たちによって助かります。
石の繭 を読んだ読書感想
作者の麻見さんが「映像的にも面白くなるよう工夫した」と言っていたように、臨場感たっぷりで、ページを捲る手が止まらなくなるような作風となっています。
今までの警察作品は少し非現実的なものが多かったのですが、「筋読み」という推理要素もしっかりとしており、本格推理小説派の層も獲得するのではないでしょうか。
横溝正史のように犯人にも同情すべき点があり、読了後に犯人に対して憤りを感じるどころか、一生を復習に捧げた背景に胸が詰まりました。
未解決事件は実際日本にもたくさんあります。
このような悲しい復讐劇が起きないよう、塔子たち11係のように真剣に事件と向き合ってくれる警察の姿を望まずにはいられません。
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